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本編
仕組みと挑戦
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「待たせたな。で?出来たのか?」
少し身体を冷ましたと言っても暑いものは暑い。解いた髪が少しでも乾くように拡げつつ、黒い無地のシャツを着て部屋に戻る。出来れば男なので上ぐらい裸でも構わないと言えば構わないのだが…色々言われた後だし、そもそもユーリアに背中を見られたら不味い。暑くても着なくては。
「あぁ、待ってたぞレィア。今ちょうどアーネが魔法陣の欠けた所を書いてるところだ」
「ほー」
どれどれと思ってテーブルの方を覗くと、アーネが細長いペンのようなもので魔法陣を書き足していた。
ただしテーブルの上に直接。
「ぅおい。何してんだお前」
「まぁまぁ。待ってくれレィア。説明させてくれ」
ユーリアの反応を見るに、何か理由があるらしい。とりあえず座る。
「まずだな、思い違いがあったことから先に説明するぞ。最初、私はあの魔法陣を見て、壊れてるとか、肝心な所がないとか言ったと思う」
「言ってたな。肉の無いステーキレベルとか」
「違った。逆だった。むしろ必要な事がギッチギチに詰まってた」
「ハァ?」
耳長種が間違えたのか?珍しい。
「そもそもそう思った理由が、ひとつの魔法陣に複数の別の役割を持つ陣が組み込まれているのに、それらを円滑に成立させる陣が仕込まれていない状態だったからだ。これだと互いの魔法が邪魔しあって消し合うか魔法が混在して失敗してしまう。それを無くすための術式が──」
ここでユーリア、俺の視線に気づいた。
悪い、俺馬鹿なんだわ。特に魔法関連についちゃその単語がつくだけでさらに知能が落ちる。
「えー…っと?何枚か別の絵の重要な所だけをくり抜いて、方向すらバラバラに混ぜてひとつの枠にねじ込んだみたいな感じ。それがこの魔法陣。これで分かるか?」
「あぁなるほど。そりゃ壊れてると思うわな」
「さて、レィアならどうする?」
「どうするったって…そうだな、とりあえず絵を分ける所から始めるな」
「やっぱりそう思うよな。私もそう思ってドツボにハマった。なまじ元の魔法が何かわかってる分、魔法を分けようとしてしまったんだ」
でも。とユーリアは続ける。
「アーネは発想が違った。分けるんじゃなくて、そのまま利用しようとした。ひとつの混ざった魔法陣を複数に分けるんじゃなくて、その外側に残りの魔法陣の続きを書いたんだ」
「……それって何か凄いのか?」
「凄いぞ。それこそ絵で例えるなら、風景画を利用して肖像画の顔のパーツを書いているのに、全体を見渡したら抽象画みたいな感じだな」
「滅茶苦茶な事言ってないか?」
「滅茶苦茶な事をやってるんだよ。彼女は。でも恐ろしいことにね、多分この魔法陣はこの書き方が正しいんだと思う。なんと言うか、耳長種の勘なんだけどね、凄いぴったり当てはまってる気がする」
俺にはよくわからん感覚だが、ユーリアが言うならきっとそうなのだろう。
「お前、手伝わんでいいのか?」
「あれは下手に手を出すと失敗する類いだ。何となくわかる。それに」
「それに?」
「『自分の力を試してみたいんですの』だってさ」
ふぅん、やっぱりよくわからん。
アーネはアーネで集中しているのか、こちらの話に全く反応せず、ただ黙々とペンを走らせている。
「この調子だとどのぐらいかかる?」
「ざっと二時間…で、終わるといいな」
「そんなに?」
「まだ書き始めだしな。基礎の基礎の基礎ぐらい。あそこから書き込みが複雑になるんだよ」
既にはみ出た魔法陣はテーブルいっぱいに広がっている。だが隙間も多く、今からその隙間を細かな術式で埋めていくのだろう。
あの紙切れが中心になると言うのなら、恐らくあれと同レベルの書き込みか…二時間で終わらないと思うんだが。
少し身体を冷ましたと言っても暑いものは暑い。解いた髪が少しでも乾くように拡げつつ、黒い無地のシャツを着て部屋に戻る。出来れば男なので上ぐらい裸でも構わないと言えば構わないのだが…色々言われた後だし、そもそもユーリアに背中を見られたら不味い。暑くても着なくては。
「あぁ、待ってたぞレィア。今ちょうどアーネが魔法陣の欠けた所を書いてるところだ」
「ほー」
どれどれと思ってテーブルの方を覗くと、アーネが細長いペンのようなもので魔法陣を書き足していた。
ただしテーブルの上に直接。
「ぅおい。何してんだお前」
「まぁまぁ。待ってくれレィア。説明させてくれ」
ユーリアの反応を見るに、何か理由があるらしい。とりあえず座る。
「まずだな、思い違いがあったことから先に説明するぞ。最初、私はあの魔法陣を見て、壊れてるとか、肝心な所がないとか言ったと思う」
「言ってたな。肉の無いステーキレベルとか」
「違った。逆だった。むしろ必要な事がギッチギチに詰まってた」
「ハァ?」
耳長種が間違えたのか?珍しい。
「そもそもそう思った理由が、ひとつの魔法陣に複数の別の役割を持つ陣が組み込まれているのに、それらを円滑に成立させる陣が仕込まれていない状態だったからだ。これだと互いの魔法が邪魔しあって消し合うか魔法が混在して失敗してしまう。それを無くすための術式が──」
ここでユーリア、俺の視線に気づいた。
悪い、俺馬鹿なんだわ。特に魔法関連についちゃその単語がつくだけでさらに知能が落ちる。
「えー…っと?何枚か別の絵の重要な所だけをくり抜いて、方向すらバラバラに混ぜてひとつの枠にねじ込んだみたいな感じ。それがこの魔法陣。これで分かるか?」
「あぁなるほど。そりゃ壊れてると思うわな」
「さて、レィアならどうする?」
「どうするったって…そうだな、とりあえず絵を分ける所から始めるな」
「やっぱりそう思うよな。私もそう思ってドツボにハマった。なまじ元の魔法が何かわかってる分、魔法を分けようとしてしまったんだ」
でも。とユーリアは続ける。
「アーネは発想が違った。分けるんじゃなくて、そのまま利用しようとした。ひとつの混ざった魔法陣を複数に分けるんじゃなくて、その外側に残りの魔法陣の続きを書いたんだ」
「……それって何か凄いのか?」
「凄いぞ。それこそ絵で例えるなら、風景画を利用して肖像画の顔のパーツを書いているのに、全体を見渡したら抽象画みたいな感じだな」
「滅茶苦茶な事言ってないか?」
「滅茶苦茶な事をやってるんだよ。彼女は。でも恐ろしいことにね、多分この魔法陣はこの書き方が正しいんだと思う。なんと言うか、耳長種の勘なんだけどね、凄いぴったり当てはまってる気がする」
俺にはよくわからん感覚だが、ユーリアが言うならきっとそうなのだろう。
「お前、手伝わんでいいのか?」
「あれは下手に手を出すと失敗する類いだ。何となくわかる。それに」
「それに?」
「『自分の力を試してみたいんですの』だってさ」
ふぅん、やっぱりよくわからん。
アーネはアーネで集中しているのか、こちらの話に全く反応せず、ただ黙々とペンを走らせている。
「この調子だとどのぐらいかかる?」
「ざっと二時間…で、終わるといいな」
「そんなに?」
「まだ書き始めだしな。基礎の基礎の基礎ぐらい。あそこから書き込みが複雑になるんだよ」
既にはみ出た魔法陣はテーブルいっぱいに広がっている。だが隙間も多く、今からその隙間を細かな術式で埋めていくのだろう。
あの紙切れが中心になると言うのなら、恐らくあれと同レベルの書き込みか…二時間で終わらないと思うんだが。
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