大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
上 下
1,250 / 2,028
本編

休息と加速

しおりを挟む
「おーイテテ…さっきのは予想外だったな」
もうこの距離なら大丈夫だろうと思って、一度近くにあった大きめの岩の上に腰掛ける。
走り続けて十分か二十分か。唐突な遠距離攻撃に驚きはしたが、正直ある程度予測はついていた。
前も言ったけど、完全に俺悪役だったもん。ありゃ襲撃かけられても文句は言えないって。
しかも仮に敵だった場合、英雄を倒して担いできた可能性もあるんだろ?そりゃ最低限初撃は欲しいわな。外したけど。
にしても、おっそろしい射手もいたもんだ。まさかマキナの作り出した壁を余裕でぶち抜いてくるとは。
ましてや、その矢が爆発するとは夢にも思ってなかった。
当然、マキナをぶち抜くような奴が仕込んだものなので、その爆発もマキナを余裕でぶち抜いてきた。おかげで俺の右腕が消し飛びかけた。
咄嗟にマキナが気づいて連結を解除していなかったら、あっさり隻腕になっていただろう。
唯一の救いは爆発の範囲は狭かった事か。
まぁ、そんな射手がどんな眼と腕をしているのか知らんが、ついさっきまで追撃の爆発矢をバカスカ撃ってきてたのだから生きた心地がしなかった。ふざけんな。
が、ここ暫くは飛んで来てない。流石に射程外に逃げることが出来たのか、はたまた単に追撃する気がなくなったのか。いずれにせよ、全身の鳥肌が立つような嫌な感覚はもう遠い。恐らくもう追撃は無いとみていいだろう。
なら後はもう寝る。一回寝て身体を休めないと、この先身体が持たん。
荒野のド真ん中で寝るなど、常人ならば自殺同義だが、そこは森で育った俺。寝ながら反射的に戦えるようになってはいる。
当然身体に負担がかかる上、そこまで強くはないのだが…まぁ、マキナ着込みながら寝ればある程度マキナがやってくれるだろう。
武装は…一応、金剣を軽く握って寝るか。
剣を握り、岩に腰掛け、膝を立ててそのまま睡眠。うつらうつらと夢と現の境界を往復しながら、地平線の彼方から登ってきた太陽の光をモロに浴びて起床。
周りを見回すが、寝る前と体勢は同じで、周りには何も無い。
ふむ、珍しく寝ている間に魔獣と遭遇しなかったらしい。普通なら辺り一面血塗れとかなのに。
まぁいいさ。身体の調子も、寝たおかげで疲れもある程度とれた。
金剣はこのまま使うので出したままにし、一度この状況を整理してみる。
俺の現在地は限りなく西学の近く。多分最西端の結界の端あたり。
で、マキナ曰く聖学からざっと三百キロ弱離れた場所で、俺の足で最短三日ぐらい。勇者の力もなりふり構わず使って一日かかるか、かからないかぐらい。
常時勇者の力を展開し続けれるのならもっと短いのだが、血界系統はどれも短期決戦用のものばかり。つまりは長持ちしないし、燃費もあまりよろしくない。身体への負担も大きいしな。
そんで次。現在、俺がどこにいるか知ってる奴は多分システナのみ。ハウナももしかしたら知ってるかもしれないが…そもそもあいつは俺に気づいていたのだろうか。気づいていない気がする。
しかも、システナだって俺達を適当に飛ばしたらここに着いたから知らないというオチだって有り得る。
つまり、確実に俺がどこにいるかを知っている奴がいない。いやまぁ、システナやハウナが俺の居場所を知っていた所でどうにもならんのだから、正直俺からしたらこの二人は論外なのだが。
出来ることならアーネやユーリアに俺がどこにいるか知っておいて欲しかった。じゃなきゃ今頃聖学で大騒ぎになってそう。
………そうじゃん。今頃騒ぎになってんじゃね?
だって無名の一年だったアーネが失踪した時もかなりさわぎになったじゃん。
二つ名持ちの俺が消えたらそりゃ騒ぎになるよな。
………。
急ぐか。
「よし、マキナ、聖学に向かう。方向出してくれ」
『了解しました』
「ついでにタンクも開け。第二と第六を使う。同時使用だ」
『同時使用を長時間続けますと・身体への負担が大きくなります。場合によっては・ストップしますか』
「……ま、頼む。とりあえず一割寄越せ」
『了解しました。続いて・血の貯蔵を解放します』
纏ったマキナの隙間から、赤黒い血が流れ始める。…なんで俺は朝日を浴びながら血まみれにならにゃならんのだ。まぁ仕方ない。気を取り直して──
「第二及び第六血界並列展開──《血呪》、《血瞬》」
黒い紋様が身体を埋めつくし、加速の紋様が心臓に刻まれる。
「いくぞ」
目指せ、日没前到着。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉
恋愛
魔物を倒す英雄となる運命を背負って生まれた侯爵家嫡男ルーク。 しかし、赤ん坊の時に魔獣に襲われ、顔に酷い傷を持ってしまう。 英雄の婚約者には、必ず光の魔力を持つものが求められる。そして選ばれたのは子爵家次女ジーナだった。 顔に残る傷のため、酷く冷遇された幼少期を過ごすルークに差し込んだ一筋の光がジーナなのだ。 ジーナを誰よりも大切にしてきたルークだったが、ジーナとの婚約を邪魔するものの手によって、ジーナは殺されてしまう。 誰よりも強く誰よりも心に傷を持つルークのことが死してなお気になるジーナ。 ルークに会いたくて会いたくて。 その願いは。。。。。 とても長いお話ですが、1話1話は1500文字前後で軽く読める……はず!です。 他サイト様でも公開中ですが、アルファポリス様が一番早い更新です。 本編完結しました!

「異世界ファンタジーで15+1のお題」二

ルカ(聖夜月ルカ)
ファンタジー
旅人・胡蝶がふらりと立ち寄ったある町には、どこか奇妙な喫茶店が建っていた。 そこから始まる摩訶不思議な物語。

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

ボッチ英雄譚

3匹の子猫
ファンタジー
辺境の村で生まれ育ったロンは15才の成人の儀で「ボッチ」という聞いたこともないジョブを神様から授けられました。 ボッチのジョブはメリットも大きいですが、デメリットも大きかったのです。 彼には3人の幼馴染みと共に冒険者になるという約束がありましたが、ボッチの特性上、共にパーティーを組むことが難しそうです。彼は選択しました。 王都でソロ冒険者になることを!! この物語はトラブルに巻き込まれやすい体質の少年ロンが、それらを乗り越え、いつの日か英雄と呼ばれるようになるまでを描いた物語です。 ロンの活躍を応援していきましょう!!

どこにでもある異世界転移~第三部 俺のハーレム・パーティはやっぱりおかしい/ラッキースケベは終了しました!

ダメ人間共同体
ファンタジー
第三部 今最後の戦いが始る!!・・・・と思う。 すべてのなぞが解決される・・・・・と思う。 碧たちは現代に帰ることが出来るのか? 茜は碧に会うことが出来るのか? 適当な物語の最終章が今始る。 第二部完結 お兄ちゃんが異世界転移へ巻き込まれてしまった!! なら、私が助けに行くしか無いじゃ無い!! 女神様にお願いして究極の力を手に入れた妹の雑な英雄譚。今ここに始る。 第一部完結 修学旅行中、事故に合ったところを女神様に救われクラスメイトと異世界へ転移することになった。優しい女神様は俺たちにチート?を授けてくれた。ある者は職業を選択。ある者はアイテムを選択。俺が選んだのは『とても便利なキッチンセット【オマケ付き】』 魔王やモンスター、悪人のいる異世界で生き残ることは出来るのか?現代に戻ることは出来るのか?

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

処理中です...