大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

行き先とトラブル

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体感十秒。多分本当はもうちょっとぐらいかかったか。
猛然と走っていたルーシェがピタリと止まり、次いで俺もピタリと止まる。
俺を攫ったルーシェは…あぁいや、訂正。
俺を攫ったルーシェと誰かは、たったそれだけの時間で第二訓練所…つまり主に二年が使う訓練所へと俺を運んだ。
「…降りろってか?」
「その格好でぇ…いいならいいよぉ…?」
「降りるに決まってんだろ」
ここに来るまでに誰かに見られてないよな?見られても俺だってバレてないよな?
だって俺を抱えてたあの抱え方ってお姫様抱っこだぜ?
逃げようにもとんでもない剛力で手足を押さえつけられてたし、下手に抵抗する方が危なかった。せいぜいが両手で顔隠すぐらい。
その剛力も今は全く感じられない。降りろという事だろう。
「よっ──」
くるっ、と身体を翻して着地──する時に少し意趣返し。
恐らく顔があるであろう位置に、軽く下からカチ上げるような形で裏拳を放つ。
とは言え、威力も速度も大したことは無い。この学校にいるのなら誰でも受け止めるなり捌くなりできる程度の一撃。
しかし、仮に防げなかったら気絶ぐらいはしてもらう。
せいぜいが少しビックリすれば面白いかなぐらいで放ったそれは。
驚くことに直撃した。
どころではなく。
「──っと…おぉお!?」
手応えを音にするなら『すかぁん』とかそんな感じ。
手応えそのものは驚くほど軽いが、間違いなくあった。
しかし問題は──手がふり抜かれたこと。
ああいや、訂正しよう。もっと正しく、あるいはもっと正確に。過不足なく。変な遠回しな表現は抜きだ。
裏拳が人の頭を下からカチ上げ、その拍子に頭がすっぽ抜けた。そうとしか表現出来ないような手応えが返ってきたのだ。
そら変な声も上がるわな。
着地と同時に慌てて振り返り、俺を運んできた誰かの方を見る。
そこに屹立していたのは二メートルは優にあるであろう背丈、岩を彷彿させるような筋肉。
そしてやはりと言うかなんと言うか──頭が、ない。
よくよく見れば少し後ろの方に大きめの黒い塊。それが人の後頭部であると認識するまで少し時間が必要だった。
こうなればいっそ、新種の魔獣として紹介された方がまだ納得出来るだろう、しかも風体が狂戦士バーサーカーもかくやと言わんばかりなのに、着ている服が白衣なのもまたアンバランスさを強調していて、尚のこと気持ち悪い。
「………ルーシェ?これは何の悪い冗談だ?」
「うぅーん…レイ君…流石にこれはぁ…ちょっとぉ…うーん…予想外、かなぁ…」
ルーシェまで困惑してるや。どうしよう。
死体の処理ってどうすりゃいいんだ?シャルかレイヴァーに聞けば分かるか?
『呼んだか今代の?…ってなんだこれ。死体か?ちょっと状況説明しろ』
いやそれがな、軽く裏拳入れたら頭が取れて…
『は?ちょいと待て意味がわからん。首周りをパンで作ってももうちょい耐久性あんだろ。マキナ使ってないだろうな』
使ってねぇよ。こっちだって悪ふざけのつもりで撃っただけだし──ん?
『どうした』
「ルーシェ?何探してんだ?」
「んー?…いやねぇ…ちょっと…穴を探してて…ねぇ…」
穴?なんの?
と言う前にルーシェが「あった」と小さく呟いた。
「えーっとぉ…どうせぇ…みてるよねぇ…」
ルーシェがいつの間にか生成していた剣を突然壁の方へ投げた。
魔獣の爪で引っ掻こうが体当たりをぶちかまそうが、そうそう傷もつかない壁に音もなく刺さるルーシェの剣。
「ん?」
『どうした』
いや、静かな訓練所にちゃりっ、と鎖が擦れるような微かな音が響いた…気がした。
だが結果はわかりやすく出た。
「とっととぉ…出てきなよぉ…」
ルーシェがそう言うと、訓練所の壁がスコン、と間抜けな音を立てて抜けた。
縦横目測で五十センチ四方の穴が俺の腰の高さぐらいの位置にあき、中から人の手がぬっ、と出てきた。
そして──
「あっ、ちょっ!?ごめん出れない!!引っ張って!!」
「………。」
「………。」
『………。』
え、どうすんのこれ。
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