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本編
双剣と弟子
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ルール…と先程言ったが、そこまで細かいものじゃない。
ユーリアはナイト・オーダー禁止。
俺は金剣とマキナ…というか《千変》の使用禁止。
そして互いに基本の型が双剣であること。これだけだ。
勝ち負けは明確にはない。延々とやり合って、少し休憩挟んで、俺が終わりと言ったら終わり。
そして今──
「よっ」
「あっ!?」
ユーリアの剣が何度目かの宙を舞った。
「まだ無意識に右に寄ってる。その癖意識は左にあるからバランスが悪い。綻びも大きい」
「はは、これは手厳しい。それでも屋敷の者ならほとんど翻弄出来る程度ではあるんだがなぁ…」
「アホ抜かせ。そりゃ双剣なんかをまともにやろうなんて考える奴はまず居ないからだ。相手が目ェ回してるうちにお前が終わらせてるだけだろ」
多分、今ユーリアはちょうど中間の所にいる。
双剣を使い始めたばかりよりは上手いが、双剣を使いこなしたと言うには難がある程度の練度。
だから錯覚しがちだ。双剣を使えない者よりは使えるし、周りに比較対象がまず居ない。しかもその未熟な剣技でも相手を倒す事は出来る。
まるで自分が強いのだと思い込んでしまえる程度には上達した。
「しかしなぁ…師匠的には私は何点ぐらいだ?」
「師匠って呼ぶな馬鹿。…十点評価で四点ぐらいだな」
「低っ」
「一瞬だけ敵を混乱させる事を目的にやってるならこれでも充分と言えば充分だがな。それでも付け焼き刃程度のレベルだ」
確かに、最初の頃と比べると見違えるようになった。
体捌きがずっとスマートになったし、剣筋に迷いが無くなった。傍から見れば非常に洗練された動きに見えるだろう。そろそろあのブロックを出して戦技を会得させてもいいかもしれない。
だが。
「確かに最初の頃と比べると動きがずっと良くなった。だが、それはお前の頭が思考を放棄してるからだ。動きとしては非常に単調なものをパターンとして用意して、それを組み合わせてるだけだな。それじゃあ脆い」
「しかし前に型を作れと──」
………あぁ、何かの機会に言ったかもな。
「数が足りん。組み合わせが足りん。そんでもってパターンの質がそもそも低い。もっと鋭く、速く。それでいてさらにパターンを細分化しろ。剣技ってのは舞にたとえられる事があるが、そんだけその技が美しく完成されているからだ。型を知らない素人が見ても完璧に出来上がっている。そう確信させる程の動きを目指せ」
「…ハードル高過ぎないか?」
「俺はそこまで来てから戦技を習得した方がいいと思うがな。基礎がガタガタな状態で応用なんて出来るか」
「基礎!?え、ちょっと待てレィア、これ基礎!?」
「は?」
何を今更。
「剣をロクに振れてないのにイロハを教える馬鹿がどこにいる?」
自分で言うのもなんだが、双剣は非常に扱いが難しい。
普通にやろうとすればまず身体が持たない。
当たり前だ。剣一本ですら身体全体で振っているのだ。
それは片手で持っていた所で同じ事。腕だけがムキムキでもダメなのは軽く想像すれば分かるように、剣撃を放つと言うことは身体全体の力が必要なのだ。
それを二本。単純に考えれば身体を倍鍛える必要がある。
更に身体の動かしかたもガラリと変わる。
これは個人の差もあるだろうが、俺がやっているのは基本的に両方の剣で攻める非常に攻撃的な型だ。
当然ユーリアにもこれを教えているのだが、攻め手が二倍になるということは、単純に攻める方法も二倍になる──という事ではない。
仮に剣の振りを縦振り、横薙ぎ、袈裟斬りが二つで四パターンだとして、これを左右で放った場合はそれぞれ四パターンなので十六パターン生まれる。
もちろん体勢や相手の動きに合わせる必要もあるので毎度それだけのパターンがある訳では無いが、簡単に四パターンに分けただけでも十六パターンもあるのだ。実際はフェイントや突き、足払いや回避に戦技、ユーリアなら魔法など、選択肢はさらに増える。
そしてそれらの判断を下すのは当然頭であり、それに応じるのは自身の身体になる。
理想の動きに対して身体が思うように動かないということは何らおかしいことではない。
もっとも、俺は銀剣という非常に優れた武器のおかげで重さやを感じることも無く、高威力の剣撃を出せたし、身体の動かし方についてもスキルの関係でそこまで苦戦はしなかったのだが。
──と、言うことを軽くユーリアに説明すると、すんげぇ嫌な顔をされた。
「レィア」
「うん?」
「その話、前に聞いたぞ」
「だったらつべこべ言わずにお前の動きをもっと良くしやがれ。話はそれからだ」
まぁ、とは言え、実を言うと動きそのものは前と比べて格段に良くなっているのだが。
本人に言うと調子乗りそうだからぜってー言わねぇけど。
「んじゃ休憩終わり。やんぞほら」
ユーリアはナイト・オーダー禁止。
俺は金剣とマキナ…というか《千変》の使用禁止。
そして互いに基本の型が双剣であること。これだけだ。
勝ち負けは明確にはない。延々とやり合って、少し休憩挟んで、俺が終わりと言ったら終わり。
そして今──
「よっ」
「あっ!?」
ユーリアの剣が何度目かの宙を舞った。
「まだ無意識に右に寄ってる。その癖意識は左にあるからバランスが悪い。綻びも大きい」
「はは、これは手厳しい。それでも屋敷の者ならほとんど翻弄出来る程度ではあるんだがなぁ…」
「アホ抜かせ。そりゃ双剣なんかをまともにやろうなんて考える奴はまず居ないからだ。相手が目ェ回してるうちにお前が終わらせてるだけだろ」
多分、今ユーリアはちょうど中間の所にいる。
双剣を使い始めたばかりよりは上手いが、双剣を使いこなしたと言うには難がある程度の練度。
だから錯覚しがちだ。双剣を使えない者よりは使えるし、周りに比較対象がまず居ない。しかもその未熟な剣技でも相手を倒す事は出来る。
まるで自分が強いのだと思い込んでしまえる程度には上達した。
「しかしなぁ…師匠的には私は何点ぐらいだ?」
「師匠って呼ぶな馬鹿。…十点評価で四点ぐらいだな」
「低っ」
「一瞬だけ敵を混乱させる事を目的にやってるならこれでも充分と言えば充分だがな。それでも付け焼き刃程度のレベルだ」
確かに、最初の頃と比べると見違えるようになった。
体捌きがずっとスマートになったし、剣筋に迷いが無くなった。傍から見れば非常に洗練された動きに見えるだろう。そろそろあのブロックを出して戦技を会得させてもいいかもしれない。
だが。
「確かに最初の頃と比べると動きがずっと良くなった。だが、それはお前の頭が思考を放棄してるからだ。動きとしては非常に単調なものをパターンとして用意して、それを組み合わせてるだけだな。それじゃあ脆い」
「しかし前に型を作れと──」
………あぁ、何かの機会に言ったかもな。
「数が足りん。組み合わせが足りん。そんでもってパターンの質がそもそも低い。もっと鋭く、速く。それでいてさらにパターンを細分化しろ。剣技ってのは舞にたとえられる事があるが、そんだけその技が美しく完成されているからだ。型を知らない素人が見ても完璧に出来上がっている。そう確信させる程の動きを目指せ」
「…ハードル高過ぎないか?」
「俺はそこまで来てから戦技を習得した方がいいと思うがな。基礎がガタガタな状態で応用なんて出来るか」
「基礎!?え、ちょっと待てレィア、これ基礎!?」
「は?」
何を今更。
「剣をロクに振れてないのにイロハを教える馬鹿がどこにいる?」
自分で言うのもなんだが、双剣は非常に扱いが難しい。
普通にやろうとすればまず身体が持たない。
当たり前だ。剣一本ですら身体全体で振っているのだ。
それは片手で持っていた所で同じ事。腕だけがムキムキでもダメなのは軽く想像すれば分かるように、剣撃を放つと言うことは身体全体の力が必要なのだ。
それを二本。単純に考えれば身体を倍鍛える必要がある。
更に身体の動かしかたもガラリと変わる。
これは個人の差もあるだろうが、俺がやっているのは基本的に両方の剣で攻める非常に攻撃的な型だ。
当然ユーリアにもこれを教えているのだが、攻め手が二倍になるということは、単純に攻める方法も二倍になる──という事ではない。
仮に剣の振りを縦振り、横薙ぎ、袈裟斬りが二つで四パターンだとして、これを左右で放った場合はそれぞれ四パターンなので十六パターン生まれる。
もちろん体勢や相手の動きに合わせる必要もあるので毎度それだけのパターンがある訳では無いが、簡単に四パターンに分けただけでも十六パターンもあるのだ。実際はフェイントや突き、足払いや回避に戦技、ユーリアなら魔法など、選択肢はさらに増える。
そしてそれらの判断を下すのは当然頭であり、それに応じるのは自身の身体になる。
理想の動きに対して身体が思うように動かないということは何らおかしいことではない。
もっとも、俺は銀剣という非常に優れた武器のおかげで重さやを感じることも無く、高威力の剣撃を出せたし、身体の動かし方についてもスキルの関係でそこまで苦戦はしなかったのだが。
──と、言うことを軽くユーリアに説明すると、すんげぇ嫌な顔をされた。
「レィア」
「うん?」
「その話、前に聞いたぞ」
「だったらつべこべ言わずにお前の動きをもっと良くしやがれ。話はそれからだ」
まぁ、とは言え、実を言うと動きそのものは前と比べて格段に良くなっているのだが。
本人に言うと調子乗りそうだからぜってー言わねぇけど。
「んじゃ休憩終わり。やんぞほら」
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