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本編
来客と虚勢
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そんな訳で三十分後。
現在地は学校の一階にある応接室と書かれたプレートが掲げられた部屋の前。
あの後、俺とアーネはすぐさま部屋に引き返した。学校長が「身嗜みを整えて来い」と言うのだから、誰か知らんがかなりエライヒトが来てるのだろう。
シエルには少し申し訳ないが一人で学校へ行ってもらい、二人とも多少はよく見えるような服装をなんとか引っ張り出し、急いで準備をした。
正直な所、身嗜みを整えてから来いと言われても、元よりロクに服を所持していない俺は当然として、アーネもまさか学校でそういう服が必要になるとは思ってなかったのだろう。学校生活では制服を使うのが当たり前でもあるため、動きやすさ重視の服ばかりしかない。
それでも何故か化粧品などがあったのは流石と言うべきか。
アーネは三十分じゃまともな化粧が出来ないとボヤいていたが、俺からしたら充分過ぎると思うのだがな。
さて。
短く三度、重厚な扉をノックする。
流石に扉の向こうにどんな人がいるかわからないので、言葉遣いは多少改まっていた方がいいだろう。
「二年のレィア・シィルです」
「同じく二年のアーネ・ケイナズですわ」
『どうぞ』
返事は女性の声。恐らく学校長だろう。
軋む音も無く、静かにすっ、と開く扉。
応接室はかなり広かったが、壁際には本棚が幾つかと中央に低めのテーブルが一つと、それを囲むようにソファが四つ。それだけの、言ってしまえば無機質な部屋だった。
そして既にソファは二つ埋まっている。
入口側の俺達から見て右手のソファに学校長。
そして、真正面の二人がけソファに男と女が一人ずつ。
俺は一目見た瞬間、この二人がただものでは無いと分かった。
しかしそれは、喩えるなら非常に腕の立つ剣士や魔法使いだということが分かった、ということでは無い。
根本的に存在が違う。俺達と居る次元が違う。
歳は見た目ではわからない。二十歳だと言われれば信じるし、四十歳だと言われても納得する。六十歳は行ってないだろうというぐらいのことしか分からない。
着ている服はシンプルな白の服。装飾は少ないが、決して質素という訳では無い。細部に細かい装飾が施されており、少なくとも俺達が必死になって探した多少はマシな服なんかよりもずっと手間と金がかかっていそうな代物。
男女ともに外見は非常に整っており、男は凛々しく、女はどこか愛嬌のある顔つき。
そして二人とも肌は白く、髪は金ではなく黄金。金より輝きのある太陽のようなその髪は、容姿も相まって非常に様になる。
そして何より目だ。髪と全く同じ色をしたその目は、見られるだけで人を引きこみ、虜にするような不思議な力さえ感じた。
──顔は知らなかった。周りの話の端々に風貌が乗ることも無かった。だから全く、微塵も知ることは無かった。
だが、俺はその黄金の目を覗き込んだ瞬間、深い何かに逆に覗き込まれる感覚と共に確信した。
だから俺がこんな事を言ったのは虚勢だ。少しでも外側を取り繕わないと、空気の入っていない紙風船のように潰れてしまいそうだったから、つい口から出てしまった言葉。
つい口から出てしまった、いつも通りの言葉。
「こんな辺鄙な所にわざわざ来たのか。国王って奴は」
現在地は学校の一階にある応接室と書かれたプレートが掲げられた部屋の前。
あの後、俺とアーネはすぐさま部屋に引き返した。学校長が「身嗜みを整えて来い」と言うのだから、誰か知らんがかなりエライヒトが来てるのだろう。
シエルには少し申し訳ないが一人で学校へ行ってもらい、二人とも多少はよく見えるような服装をなんとか引っ張り出し、急いで準備をした。
正直な所、身嗜みを整えてから来いと言われても、元よりロクに服を所持していない俺は当然として、アーネもまさか学校でそういう服が必要になるとは思ってなかったのだろう。学校生活では制服を使うのが当たり前でもあるため、動きやすさ重視の服ばかりしかない。
それでも何故か化粧品などがあったのは流石と言うべきか。
アーネは三十分じゃまともな化粧が出来ないとボヤいていたが、俺からしたら充分過ぎると思うのだがな。
さて。
短く三度、重厚な扉をノックする。
流石に扉の向こうにどんな人がいるかわからないので、言葉遣いは多少改まっていた方がいいだろう。
「二年のレィア・シィルです」
「同じく二年のアーネ・ケイナズですわ」
『どうぞ』
返事は女性の声。恐らく学校長だろう。
軋む音も無く、静かにすっ、と開く扉。
応接室はかなり広かったが、壁際には本棚が幾つかと中央に低めのテーブルが一つと、それを囲むようにソファが四つ。それだけの、言ってしまえば無機質な部屋だった。
そして既にソファは二つ埋まっている。
入口側の俺達から見て右手のソファに学校長。
そして、真正面の二人がけソファに男と女が一人ずつ。
俺は一目見た瞬間、この二人がただものでは無いと分かった。
しかしそれは、喩えるなら非常に腕の立つ剣士や魔法使いだということが分かった、ということでは無い。
根本的に存在が違う。俺達と居る次元が違う。
歳は見た目ではわからない。二十歳だと言われれば信じるし、四十歳だと言われても納得する。六十歳は行ってないだろうというぐらいのことしか分からない。
着ている服はシンプルな白の服。装飾は少ないが、決して質素という訳では無い。細部に細かい装飾が施されており、少なくとも俺達が必死になって探した多少はマシな服なんかよりもずっと手間と金がかかっていそうな代物。
男女ともに外見は非常に整っており、男は凛々しく、女はどこか愛嬌のある顔つき。
そして二人とも肌は白く、髪は金ではなく黄金。金より輝きのある太陽のようなその髪は、容姿も相まって非常に様になる。
そして何より目だ。髪と全く同じ色をしたその目は、見られるだけで人を引きこみ、虜にするような不思議な力さえ感じた。
──顔は知らなかった。周りの話の端々に風貌が乗ることも無かった。だから全く、微塵も知ることは無かった。
だが、俺はその黄金の目を覗き込んだ瞬間、深い何かに逆に覗き込まれる感覚と共に確信した。
だから俺がこんな事を言ったのは虚勢だ。少しでも外側を取り繕わないと、空気の入っていない紙風船のように潰れてしまいそうだったから、つい口から出てしまった言葉。
つい口から出てしまった、いつも通りの言葉。
「こんな辺鄙な所にわざわざ来たのか。国王って奴は」
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