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本編
傷と顔色
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決闘に敗北した以上、敗者は勝者の言う事に従わなくてはならない。それがこちらから吹っかけたモノなら尚更。
気絶したシエルを今すぐ叩き起してそれを確認させるのは流石に酷だし、別にこの瞬間から劇的に変化する訳でもないからそのまま寝かせておいてやる。
学校長は「後日詳細を通知します」と一言言って訓練所から出て行った。その足取りからはついさっきまで戦っていたとは微塵も思わせないようなものだった。
学校長が背を向けたすぐ後に、アーネがシエルの怪我を治療しに駆け寄ったが、軽く回復魔法をシエルにかけただけですぐに引いた。
「どうした?」
「傷が…」
近づいてシエルの身体を覗き込んでみると、確かに出血は酷く、身体は恐らく自分のものであろう血で真っ赤に染っていた。しかし、傷口らしいものが全く見つからない。
『塞がったか』
シャルが何事もないようにそう言った。
「これが…」
魔族の血。そう続いたであろう言葉を飲み込み、アーネが一言そう呟く。
「ん?どうした、何かあったのか?」
ユーリアがそう言って近づいてきたが、一瞬迷って誤魔化すことにした。
「いや、なんでもない。傷が思ったより浅かったようで安心したところだ。アーネも回復魔法をかけてくれたし、あとは起きるのを待つだけだな」
「そうか、それはよかった。しかし流した血は回復魔法や治癒魔法では中々元に戻らない。しばらくは安静にしておくべきだな」
うんうん、と頷くユーリアに適当に返してシエルを抱える。
ひとまず血を洗い落としたいが、シャワー室はまだ開いてない。
「風呂…だな」
軽く拭いてから急いで部屋に戻り、服を脱がせてシャワーを捻る。アーネは気づいたらどこかへ行っていた。
肌の色が白ではなく褐色なので分かりにくいが、顔色がやや悪い。血が足りていないからだろう。
ひとまず身体をサッと洗い、どうやら本当に傷は全て塞がっているらしいと確認してからシエルに服を着せる。
「………俺の血を流し込むか?」
シエルをベッドに寝かせたあと、そんな考えが口をついてでた。シエルと俺の血の相性は悪い訳では無い。
『やめとけ』
だが、シャルに止められた。
『半分とはいえ魔族だ。この程度の出血、一日もあれば治るだろうよ。それよりお前は力を温存しておくべきだな』
「けどまだ時間はあるだろ」
手首から血を出し、シエルの身体に流し込もうと袖を捲ったところでマキナから声をかけられた。
『マスター・メッセージです』
「誰からだ」
『アーネ様です』
「アーネぇ?」
どっか行ったと思ったら…何事だ?
「繋げ」
『了解しました』
久々にメッセージが繋がる感覚。
「よぉアーネ、どうした?」
『たった今、最後の一人がゴールしましたわ。今すぐ生徒は集まって集会との事ですわ』
集会…そんなのあったっけ?と思ったが、よく良く考えれば俺達が入学した時もすぐに集会したことを思い出した。
内容は胸糞悪いアレだけだったし…別に行かなくていいか。
「そうか、俺はパスするわ。シエルみてる」
『えっ、ちょっと貴方』
「終わったら教えてくれ」
そう言ってメッセージを切る。
さて。
「これは一体何なんだろうな」
『さぁ』
シャルも感じているのだろうか。
俺の背中がザワつくような感覚とそっくり同じ感覚を。
身体が、勘が、そして何より血が叫んでいる。
シエルを警戒しろ──いや、もっと直接的に言うと──殺せ。
『殺らないのか』
「嫌だからやらない」
叫ぶ本能をねじ伏せ押し殺し、俺はゆったりと椅子に座って彼女の寝顔を眺めた。
シエルは気持ちよさそうに眠っていて、心做しか血色も良くなっている気さえした。
気絶したシエルを今すぐ叩き起してそれを確認させるのは流石に酷だし、別にこの瞬間から劇的に変化する訳でもないからそのまま寝かせておいてやる。
学校長は「後日詳細を通知します」と一言言って訓練所から出て行った。その足取りからはついさっきまで戦っていたとは微塵も思わせないようなものだった。
学校長が背を向けたすぐ後に、アーネがシエルの怪我を治療しに駆け寄ったが、軽く回復魔法をシエルにかけただけですぐに引いた。
「どうした?」
「傷が…」
近づいてシエルの身体を覗き込んでみると、確かに出血は酷く、身体は恐らく自分のものであろう血で真っ赤に染っていた。しかし、傷口らしいものが全く見つからない。
『塞がったか』
シャルが何事もないようにそう言った。
「これが…」
魔族の血。そう続いたであろう言葉を飲み込み、アーネが一言そう呟く。
「ん?どうした、何かあったのか?」
ユーリアがそう言って近づいてきたが、一瞬迷って誤魔化すことにした。
「いや、なんでもない。傷が思ったより浅かったようで安心したところだ。アーネも回復魔法をかけてくれたし、あとは起きるのを待つだけだな」
「そうか、それはよかった。しかし流した血は回復魔法や治癒魔法では中々元に戻らない。しばらくは安静にしておくべきだな」
うんうん、と頷くユーリアに適当に返してシエルを抱える。
ひとまず血を洗い落としたいが、シャワー室はまだ開いてない。
「風呂…だな」
軽く拭いてから急いで部屋に戻り、服を脱がせてシャワーを捻る。アーネは気づいたらどこかへ行っていた。
肌の色が白ではなく褐色なので分かりにくいが、顔色がやや悪い。血が足りていないからだろう。
ひとまず身体をサッと洗い、どうやら本当に傷は全て塞がっているらしいと確認してからシエルに服を着せる。
「………俺の血を流し込むか?」
シエルをベッドに寝かせたあと、そんな考えが口をついてでた。シエルと俺の血の相性は悪い訳では無い。
『やめとけ』
だが、シャルに止められた。
『半分とはいえ魔族だ。この程度の出血、一日もあれば治るだろうよ。それよりお前は力を温存しておくべきだな』
「けどまだ時間はあるだろ」
手首から血を出し、シエルの身体に流し込もうと袖を捲ったところでマキナから声をかけられた。
『マスター・メッセージです』
「誰からだ」
『アーネ様です』
「アーネぇ?」
どっか行ったと思ったら…何事だ?
「繋げ」
『了解しました』
久々にメッセージが繋がる感覚。
「よぉアーネ、どうした?」
『たった今、最後の一人がゴールしましたわ。今すぐ生徒は集まって集会との事ですわ』
集会…そんなのあったっけ?と思ったが、よく良く考えれば俺達が入学した時もすぐに集会したことを思い出した。
内容は胸糞悪いアレだけだったし…別に行かなくていいか。
「そうか、俺はパスするわ。シエルみてる」
『えっ、ちょっと貴方』
「終わったら教えてくれ」
そう言ってメッセージを切る。
さて。
「これは一体何なんだろうな」
『さぁ』
シャルも感じているのだろうか。
俺の背中がザワつくような感覚とそっくり同じ感覚を。
身体が、勘が、そして何より血が叫んでいる。
シエルを警戒しろ──いや、もっと直接的に言うと──殺せ。
『殺らないのか』
「嫌だからやらない」
叫ぶ本能をねじ伏せ押し殺し、俺はゆったりと椅子に座って彼女の寝顔を眺めた。
シエルは気持ちよさそうに眠っていて、心做しか血色も良くなっている気さえした。
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