大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

命令と意思

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学長室に大至急来いと言われたので、とりあえずマキナを腰に下げて学長室へと向かった。
シエルをアーネに任せて一人でちゃっちゃと済ませてしまおうと思っていたのだが、どうやら呼び出されたのは俺だけじゃなくアーネもらしい。
ユーリアもどっかにいっちまったし、クアイやリーザとも連絡がつかない。多分訓練所かどっか行ってんだろうな。
まぁ一応シエル絡みらしいし連れて行っても良いだろ、と思って三人で学長室の戸を叩く。蹴破ろうとしたらアーネに止められたんでな。
「いよーぅ学校長。こないだぶりだな。今度は何用だ?」
部屋の中はいつもの学長室。奥のデスクに座っている学校長がため息をゆっくり吐きながら眉間を二度三度揉んでから口を開く。
「……ノックをしたので少しは成長したかと思えば、まるで成長してませんね」
「成長はしてるぜ。日進月歩だとも。で、そんなこたどうでもいいんだ。要件をとっとと言ってくれ。俺も暇じゃないんでね」
そう言うと、学校長は一度ちらりとシエルを見てから話を始めた。
「その少女の今後についてです」
「あ?」
シエルの?
「当初、その少女をあなたが保護していた理由は、『少女が現状不安定な状態であり、また正直の能力を御せる者として最も適切な者が自分だから』と言う理由でしたが、今の少女にそのような様子は見て取れません」
「つまりなんだ?シエルをどうしようってんだ?」
長ったらしい話は嫌いだ。聞いてるだけで話がこんがらがってくる。
「少女の扱いを普通の生徒と同じにします。異論はありますか?」
普通の生徒と同じと言うと…どうなるんだ?
そう言いたいのが顔にしっかりと出ていたらしい。学校長が淡々と言葉を続けた。
「具体的には少女に別の部屋を用意し、そこで生活してもらいます。また、少女がこの学校へ来るより前の授業を受けてもらいます。成績があまりに悪ければ一年旧クラスの方へ移ってもらうこともあるかもしれません」
…まぁ、言ってることは正論なんだろう…多分。
「よろしいですね」
「だってよ、シエル。いいか?」
「…私はあなたに言っているのですがね。レィア・シィルさん。アーネ・ケイナズさん」
「私は…」
「うっせ。俺はシエルに聞いてんだ。そもそもなんでシエルにじゃなくて俺達を呼んで話をしようってんだ」
そう言ってから気づいた。あぁ、俺達が一応保護者扱いだからか?
「そうだ学校長。これ、断ったらどうなんだ?」
一応聞いてみる。
「拒否はありません。嫌なら私を納得させることが出来る案か答えか……どちらかを用意してください」
なんだそりゃ。俺達を呼んだ意味あんのかよ。
「………いやだ、ね」
だが、シエルが小さくそう言ったのを、俺はしっかり聞いた。
「…失礼、今なんと言いましたか?」
学校長も、まさかシエルからそう言われるのは予想外だったのだろう。俺も驚いたし、耳を疑った。
「………わたしは、このままがい、い…あなたの、は、いや」
この子がこんなにもはっきりと拒絶を……もっと言えば自らの意思を伝えたなんて初めてじゃないだろうか。
「そうですか。しかし根拠も無ければ論理的でもないそのような回答では、私を納得させることはできません。あるいは交渉がしたいのなら、まずは同じテーブルにつくことからです。その程度なら覆ることは」
学校長のセリフが止まった。
理由は学校長の座っているデスクの上。
そこにはナイフと呼ぶには大きすぎる刃が突き立っていた。
誰のものと言う必要も無いだろう。
「……何のつもりですか?」
「………ここ、でたいせつな、のは、ちから、ひんい、うつくしさ……でしょ?」
その瞬間、俺はシエルが何をしようとしているのかがわかってしまった。
『この親にしてこの子あり、って感じだな』
畜生、否定できん。
「………けっとう、やろ?」
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