大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

毒蛇と捕獲

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「おいこれどうすんだよ!?」
撒き散らされる緑の毒液をステップで回避、その隙を埋める追撃の爪をくぐって回避、同時にカウンターの銀撃を叩き込むが、硬質な音を立てて弾かれる。
剣を握る両手が、異常な硬度と質量を持つバジリスクの腕に耐えきれず、一瞬落としそうになった。
「どうするも何も、捕らえるしかあるまい。チャンスはこれっきりじゃぞ」
「だからっつっても──」
巨大な体躯を充分以上に利用した体当たりに俺の言葉は遮られた。ってちょい待て、これって俺を轢いた上で馬車を叩き潰すような一直線のラインじゃ。
「第二血界──」
『今代の!!』
「!?」
血呪を発動しようとした瞬間、想定を遥かに超える膨大な力が集まろうとしたのが分かった。咄嗟にそれを振り払うが間に合わない。不完全な血界が俺の身体で荒れ走り、手足から血飛沫が上がる。
「っ!ぐああああああ!!」
激痛に対する悲鳴、そして限界を超える一撃のための気合いの雄叫び。
血界失敗のために遅れた行動を、コンマ一秒の判断で切り詰め追いつき、極限まで最小化された最適の動きで行動を起こす。
キィ──ン、と音が響くより早く金剣を抜き、銀剣と併せて横殴りの二撃をバジリスクの軌道に割り込ませるようにぶち込む。
「あああああああああああああ!!ッ!らァ!!」
完全には逸らしきれず、馬車の側面をヤスリが鉄を擦るような耳障りな音を立ててバジリスクが突っ込んだ。
俺も吹き飛ばされ、銀剣を地面に突き立てて踏ん張るがそれでも数メートルは飛ばされた。
「だからなんじゃ?」
「こんな化物を新入生が対応できるわきゃねぇだろ!!あぁクソ痛てぇ!」
腕を伝って手の中へ、ぬるりと血が潜り込む。最悪の気分だ。
「あのバジリスクはまだ本気を出しちゃいねぇ!魔眼を使ってない、全力を使う必要がないって思ってんだよ!」
蛇は賢いだの知恵があるだのとよく言われるが、その先に遊ぶ事だの余裕を持つことだのを覚えたらしい。全力を出して来ないからこそまだ大丈夫だが、魔眼まで使われたら俺も剣を抜いて全力を出さざるを得ない。
『シャハアアァァアアァ…』
「もう起きやがったか…!」
完璧には逸らせないとわかった瞬間、さらに顎に蹴りを叩き込んで頭の先を少しでも馬車から逸らした。ついでに頭の中身が思い切り揺れてくれればよかったのだが、そこまでは行かなかったらしい。
バジリスクの狙いはあくまで俺らしく、馬車を無視して俺の方へ狙いを定め直す。
「見りゃ即座に身体の内側から石化する、バジリスクの代名詞でもある石化の魔眼!アレを使われる前に逃げるか殺した方が──」
「知っとるわ戯け。我輩もバジリスクのことを知らん訳では無い」
「あぁん!?」
だったらなんで、と言う前にそんな余裕は押し潰された。
「ッ……お…!!」
さっき裂けた皮膚から、さらに血が滲む感覚。動きを変更し、機敏に動き回って削り殺すつもりらしいが、魔獣のその一撃は俺からしてみれば充分致命傷だ。
喋る余裕もない俺に、《臨界点》が憎たらしいほど余裕な声音で俺に話しかける。
「だったら目を潰せばよかろう。毒も邪魔か。であれば爪をへし折り、牙を引き抜き、毒袋を体内から干上がらせれば良い。…ま、最後のは我輩でも今は出来ぬ故、向こうに連れ帰ってからになるじゃろうが…」
「つま、り!」
髪を身体に巻き付けて動きを強化、止血も兼ねたそれが、ようやく俺にも喋る余裕を持たせ始めた。
「傷を付けてもいいと!?」
「当たり前じゃ。でなければ手に負えんじゃろう?」
そういう事はもっと早く言え。こっちは捕獲のつもりでやってたんだ。出来るだけ完品で、っていう無茶な捕獲依頼。
黒剣だと手数はあるが、リーチと一撃あたりの威力が少し落ちるのが難点。それではダメだ。一撃が足りなければ鱗を貫くことも、それ以上に硬い爪を割ることも絶つことも出来ない。
銀剣が再び謎の熱を持つ。この熱がなんの熱なのか分かりゃしないが、今更ながらこの熱から力が湧くような、そんな悪くない気がしてきた。
手の中で銀剣の柄を半回転させ、峰ではなく刃を相手に向ける。
刃のある銀剣の加重に加えて金剣の加速強化による強化、さらに髪の七割を銀剣を握る左腕に集中、ほかの強化を最小限に抑える。
さらに戦技アーツを使用、右と左の剣を一度ずつ横に薙ぐだけの単純な戦技アーツだが、この状況にはおそらく最適だろう。
「《対爪ついそう》!」
これで──
「どうだッ!!」
今の俺が撃てる全力の一撃が今、放たれた。
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