大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

了承と散開

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「待たせたな。連れてきたぞ」
「む、やっと来たか。一体どこに──」
ついさっき飛び出た会議室に駆け戻って来ると、《雷光》が俺の連れてきた人物を見てピタリと止まる。
「そいつは…」
「ご存知アーネ・ケイナズだ…って言ってもよく知らないか。去年、俺と一緒の部屋にいた生徒だ。魔法使いで炎系の魔法が得意。スキルは」
「あーあー、別に全く知らない訳ではないからそれぐらいでいい。特にスキルはベラベラ喋るものじゃないからな」
「………何事ですの?私、訳も分からずここに連れてこられたんですけれど」
「あん?話聞いとけよ」
『無茶言うなよ。お前、説明会の会場に飛び込んですぐに先生に向かって「俺の権限でアーネこいつ借りるから」つって攫ってきただろ』
とんと記憶にないな。
「……《緋眼騎士》、最低限の説明はしておけ」
「先生の要求で俺達が結界の近くで魔獣捕まえてくるから、その手伝いしてくんね?」
「はい?それはいいですけれど……私がついて行く必要がありますの?」
「学校の要求は適当な魔獣十体、魔法物理耐性持ち五体ずつで締めて二十体だ。俺達は魔法使えないから……」
「あぁなるほど。だから私ですのね。わかりましたわ」
「いいのか?《緋眼騎士》に無理矢理連れてこられたんだろう?」
《雷光》がどう話しかけたらいいのか戸惑いながらそう言うと、アーネは「これぐらいはもう既に二桁以上経験しましたのよ」と、なんでもないように言う。
「………《緋眼騎士》、彼女をあまり振り回すんじゃないぞ」
「はっはっは。最初の方は俺がコイツに振り回されてたんだぜ?」
随分と昔のことに思えるが、まだアーネに会って一年か。濃密だったな。
「結界付近…ですのね?いつ頃行くんですの?」
「えーっと、ちょっと待てよ…」
《雷光》と相談しながら何日ぐらい必要か、日数を指折り数える。
「片道馬車で一日ちょい、往復三日かからないぐらいだから……」
「一日で二十体は無理だろうな。魔獣の輸送の関係で一人ぐらい先生がつくはずだから輸送は気にしなくていいが…」
「結界近くで一泊二日か?んで、調教に確か三日かかるんだっけ?」
「例年と同じならな。配置のことも考えるともう一日ぐらい欲しいだろう。この時点で一週間程かかるな」
「ふーん。ところで試験っていつだっけ?」
「七日後、ちょうど一週間ですわね」
「………。」
「………。」
アーネの一言に、俺と《雷光》が顔を見合わせる。
「去年はもっと余裕があったのだが…」
「今年の話をしようぜ。とりあえずどの先生呼んでくりゃいい?荷物をまとめて後で馬小屋前で集合な。つっても着替えだけでいいよな?よし、なら俺は大丈夫だ」
「いや、先生は私が呼んでこよう。代わりに馬車の用意を頼む。三十分後を目安に集まろう」
「…って訳だ。アーネ、頼むな」
「…えぇ、分かってますの。よく分かってますのよ」
アーネが深々とため息をつく。
…申し訳ないとは思うが後悔はしないぞ。
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