大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

矢と思考放棄

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つい昨晩、あぁそうだ…夜の十一時ぐらいの話だ。
ユーリアからの救援に応じたあの日から約一週間、負傷も完治して身体が本調子を取り戻したその日の夜。
シエルも寝、さて俺もそろそろ寝ようかと思ってベッドに入った瞬間だった。
スカカン!!と、いっそ心地良いほどの勢いで外から何かが飛来し、窓に小さな穴を空けて部屋の床に突き刺さった。
「………あ?」
消した明かりをつけ直そうと手を伸ばしたところでシエルの存在を思い出し、緋眼をこらしてそれを見る。
暗視能力を持った眼光は、外からの飛来物が何かすぐに捉えた。
「………矢ぁ?」
『なんだ?確かに矢、だな』
矢、と言っても鏃は床に根元まで埋まり、後ろにあるはずの羽は存在しない。
つまりは俺から見たら単なる細い棒が床にぶっ刺さっている状態なのだが、俺にもシャルにも、これが矢であると言う確信があった。
それは矢が薄く発光する程込められた魔力。爆発するんじゃないかと危惧もしたが、上手く魔法は発動したらしい。
「はいはい、学長殿のメッセージね」
へし折らなくても発動するのかよ、と思いはしたものの、よく見ればどこかでぶつけながら飛んできたのだろうか。ヒビが入っていた。
寝る直前に見るのがこいつのメッセージとは思ってもいなかったが…なんて思っていると、前の時のように学長の顔が浮かび上がり、メッセージの内容を伝えて消えた。
『………どうすんだ?』
シャルが面倒臭そうに聞く。
「とりあえず寝る」
もちろん思考を放棄して寝た。
で、起きてみて、夢ではないことを確認してため息をついたのが今。
「どーーーーーーーすっかな」
ガリガリと後頭部を掻き、ひとまず矢を引き抜いて部屋の隅に投げる。
とりあえず穴を塞ぐべきか?床と窓両方。
『どうやってだよ。大人しくモーリスさん呼んどけ』
珍しいな。シエルより早く起きるなんて。
『今日は偶然な。それより期日は明日の朝だろう?早く答えを出せよ』
義務じゃない…よな?確か。
『義務じゃないな。限りなく強制に近いだけだ』
いっそ強制してくれれば楽だったんだが。まぁいい、特にこっちに残っていても暇なだけだし、せっかくだから行くか。
『シエルとアーネはどうする?置いていくのは不味いだろう?』
シエルだけ連れていこうかと思ってる。
『なんでシエルだけ……アーネが不貞腐れるぞ』
あん?なんでアーネが。それにどっちかが残るのは確定事項だ。
『あ?』
まだマキナが返ってきてないだろ。向こう行ったら次帰ってくんのいつだよ。あるいは送られたとしても、かなり先になるのは変わりないぞ。
『そうだな…とりあえず、本人達に聞いたらどうだ?』
それもそうか。よし、んじゃ下に降りますかね。
シエルを揺すって起こし、短くてもあちこち跳ねている髪を梳かして着替えさせる。
そうか、もうそんな頃合だったか。
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