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guilty 12. 俺の妹がバスタイムを邪魔してきてつらたん

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折原ハウスで晩飯を食って、マイハウスに帰宅した。

時刻は23時ちょっと過ぎ。折原ママの生暖かくて生ぬるい視線に犯されながら食事を摂っていた俺はMPが0.5くらいになっていた。



 最早今の俺は海水で濡れそぼってしなしなになったワンちゃんでグロッキー状態であった。野良レースクイーンに膝枕されて、頭をナデナデされて、ガラガラで甲高い音を鳴らしながらオギャーと赤子のように奇声を上げたい気分である。いや、想像するとシュールというか只のオカルトだな。



「ただいま~」



 この時間帯なので家族は既に寝静まっているはずだし、電気も消えているから挨拶する必要はない。しかし、俺は何となくの習慣で言ってしまう。こういう当たり前の事を当たり前のようにキチンと出来る様に躾けてくれた両親には感謝しなければならないな。サンキュー、ペアレンツ。

 

「お帰りなさい」

「うおっ!? だっ、誰でござる!?」



 電気の消えた暗闇の玄関から女の返事が聞こえてきた。焦ってNINJAみたいな口調で聞き返してしまった。声の発信源である玄関先を見ると暗闇の中で正座をしている女がうっすらと見えた。えっ、普通に怖い。声をかけると突然首がゴロリと落ちるとかそういうドッキリはやめてね?



「私よ、兄さん」

「な、何だ、詩織か。びっくりさせんなよ。思わず下の口から心臓が出そうになったわ」



 玄関で正座していた女は俺の年子の妹、詩織しおりである。ウェーブのかかった黒のショートヘア、二重の瞼に瑞々しいふっくらとした唇、全体的に整った顔つきは俺の妹とは思えないほど身内から見ても美人の類である。



「下の口からって、どこから心臓が出るのかしら? 尿道? それとも兄さんの梅干しみたいなア●ル?」

「冗談を真に受けて、深堀りするのやめようね。ていうか、JKが平気な顔してアナ●とか言うなよ」



 それも無表情で普通に聞いてくるから冗談の冗談返ししているのか、本気で聞いてるのかよく分からないのでつらたん。ていうか、兄さんの梅干しみたいなアナ●って俺のを見たの?梅干しというか、おぢいちゃんおばあちゃんが梅干し食べて酸っぱくなった時の口みたいな形だろ。ていうか、何で俺はア●ルの形について解説してんだ。病気過ぎる。



「ていうか、まだ起きてたんかよ。明日から学校なんだから寝ろよ、寝不足はお肌に大敵です」

「それを言うなら兄さんもでしょう? ふう、何時から兄さんは夜遊びが趣味になったというのでしょう」



 首を左右に振り、溜息を吐く詩織。

一日だけ遅く帰ってきただけでこの反応は棘がありませんかね。



「夜遊びじゃねえよ。折原の家でメシ食って帰ったんだよ、お袋には電話で言ったんだがな」

「ああ、あの顔だけは良い変態さんの家ですか。しかし何故、ご飯を食べて帰るだけでこの時間になるのですか?」

「そうそうその変態野郎の家。『チクビーム!』とか言ってなかなか俺を帰らせてくれなかったんだよ」

「状況が何一つ読めませんが、私を馬鹿にしてます?」



 詩織は眉をひそめた疑わしそうな目で俺を見つめる。本当のことが言えないんだから仕方ない。



 あの妖怪に服を着せたような折原ママはやたらと俺の生い立ちや恥ずかしい出来事を根掘り葉掘り聞こうとしてきた。挙句の果てには『私を義理のママだと思って風呂に入りませう』とか意味不明な供述をし、俺を風呂場に連れ込もうとしたので怖くなってそのまま逃げ出すように帰ってしまった。蒼海ちゃんは狂ったようにDOGEZAで謝りだすし、折原は突然謎のホモ奇行に走るし。



 やれやれ、まったくとんだホラー家族だぜ!



「ふう……分かりました。これ以上は深くは聞きません」

「そうそう、世の中には知らない方がいいことが山ほどあるんだよ。ふああ、じゃあ俺は風呂に入って寝るよ、じゃあの」

「そうですか、それでは私が背中を流しましょう」



 詩織は両腕をまくり、立ち上がる。



 エー、ウッソー、なんで?

普通に『そうですか、それではおやすみなさい』ってなる流れじゃないのこれ?



「いやあの、結構です」

「え? 妹シャワー、嬉しくないのですか?」



 妹シャワーって何?怖い造語はやめて。



「いやいや、あのな? 俺達何歳だと思ってる? 普通に恥ずかしいんですけど」

「私は恥ずかしくありません。そして変態な兄さんがナニを想像しているのか分かりませんが、私は水着を着ますし、兄さんはすっぽんぽんです。嬉しいでしょう、嬉しいですよね? 嬉しくて鼻の下とか色々なところが伸びちゃいますよね?」

「いや、君、分かって言ってるよね? 何で俺だけが恥ずかしい思いをしないといけないんだよ、それなら俺も水着をきる……じゃなくて、ダメダメ、そもそもお前と風呂なんか入らんから」



 やたらとぐいぐいくる詩織。

何だよ、この押しの強さは。あまり感情の起伏は感じないが、内なる熱が籠っているようにも見える。この押しの強さは身近な誰かを彷彿させるが、まさかな。



「詩織、お前、学校で嫌な事でもあったんか?」

「……特に何もありませんが? 強いて言うなら頭の上に鳥のフンが落ちてきたくらいでしょうか。あ、だめですよ、兄さん。そうやって話を逸らして煙に巻こうとしてもそうは問屋が卸しません。おとなしく妹の金たわしの餌食になってください」



 結構な不幸な出来事じゃないですか、クサー。

ていうか、金たわしの餌食ってその武器で俺の背中もとい寿命をゴリゴリと削るつもりか?拷問かな?



「分かった、分かった……で、君はいくらほしいんだいっ?」

「お財布から諭吉をちらつかせないで下さい、別にお金に困ってません。妹に鉄やすりで背中をゴリゴリされるのがそんなに嫌なのですか?」

「武器が変わってますが。嫌に決まってるよね?」

「そうですか……そういうことですね」



 突然、スッと妹様の目が細くなる。

え、ナニ?何を悟ったの?諦めてくれたの?



「兄さんは私にも生まれたままの姿になれと、こうおっしゃりたいのですね?」



 真顔でトンでもないことを言い出した。



「いや、そんな事、まったく、これっぽっちもおっしゃりたくありませんが! あ、日本語が変になった」

「ノーを突き付けているように見せかけて、私を全裸にする言質を引き出そうとしているのですね? なんて巧妙な」

「何で妹のお前とそんな低俗な駆け引きをしなきゃならないのですかね。ていうか、正直なところお前の牛蒡のような貧相な身体に興味は……ぐえええ、や゛め゛で? 笑顔で首を絞めてくるのはおよしになって?」



 うちの妹は笑顔がとっても怖い件について。



「まあ、兄さんが望むなら一房くらいなら見せるのもやぶさかではありませんが」

「一房って何の単位? ああもう、わかったよ。お前と問答していると本当に朝になっちまうから一緒に入ってやるよ、風呂。但しお前も俺も水着だ、いいな?」

「兄さんは心の中ではとっても嬉しいくせに素直になれないツンデレさんですね」



 詩織は両手を合わせて、少し笑みを浮かべる。

ムカつくなー、コイツ。スケベしたろか。いややんないけど、心の中でな?



「そうと決まれば早く行きましょう。お風呂上りは『チーズタッカルビ』を召し上がってくださいね」



 コーヒー牛乳とかじゃなくて?

ホント、マジでそれはやめてあげて?寝る前に愛が重い女みたいなもん食ったら俺君の胃が死んじゃう。



 ──バスルーム。



「兄さんの……ふぅ、擦っても擦っても硬いですね」

「背中ね、背中。なんか違う意味に聞こえちゃうからちゃんと目的語は言おうね」



 結局根負けして妹と一緒にお風呂とか誰得イベントが始まってしまった。見るつもりは無かったが、妹の水着姿を男の母性本能(?)でついチラ見してしまう。



 紺色地で青と白の水玉模様のビキニ。

下はまともに見せたくないという恥ずかしさからか水着専用のフリルスカートを身に着けている。何だ、先刻は嬉々として俺に風呂に入ろうとか張り切っていた割にはえらく消極的な水着である。しかし、そのギャップがなんとも……って、ナニを真剣に妹の水着を語ってんだ、キモすぎてウケるんですけど。



「兄さんと最後にお風呂に入ったのは何年ぶりでしょうか」

「お前がお袋の羊水に浸っているときくらいじゃね?」

「適当に答えないで下さい、小学生の頃ですよ。兄さんが四年生で私が三年生、正確には9年と78日前ですよ」



 じゃあ、思わせぶりな問いかけをせずに普通に言えばいいんじゃないですかね。ていうか、蒼海ちゃんもだけど何で俺の身近にいる女は記憶力が化物級なんだよ。悪い事してバレたら一生覚えられて恨まれそうで怖いんですけど。



「ハイハイ、悪かったよ。ていうか、ぶっちゃけ何で俺と風呂に入りたかったの? 露出狂ですか?」

「お風呂では人類皆、露出狂ですよ。そうですね、強いて言うなら兄さんに好意があるからでしょうか」

「えっ」



 ピタリと泡のついたタオルで背中をこする動きが止まる。



「嘘ですよ、単に好きだからという理由で兄と一緒に入る変態はここにはいませんからっ」

「ですよね、って、ぐあアアああああ! な、何で急にタオルを強く擦るの!?」



 コイツの沸点がよく分かんないんですけど。

自分の都合のいい時だけ身勝手に沸く電気ケトルか?



「いてて……お前、本当に学校で何か嫌な事でもあったんじゃないの?」

「言ったじゃないですか。鳥のフン撃以外には特に何もありません」

「そうかあ? 兄さんの目は誤魔化せんぞ~?」



 振り返るとタオルを持った詩織と目が合った。

突然俺が振り向いたせいか、詩織はギョッとした表情になる。



「……っ、ま、まじまじと水着姿を見ないで下さい!! 変態!!」



 鳩尾に良いパンチが入る。



「ぐほっ……げほげほっ、お、お前……グーパンはやめろ、グーパンは、アン●ンマンでももう少しは手加減してくれるぞ……。せめて、乳首にでこピーンとかそういうのにしとけ」

「何を意味不明な事を言っているのですか。調子に乗る兄さんが悪いんです」



 そして、詩織は再び俺の背中をタオルで擦るのを再開する。

何時まで俺は背中を擦られるのだろう、そろそろ解放してほしい。

 

 うーん、やっぱり何か隠しているように見えるなあ。俺を風呂に誘うなんてクールに見えて実は恥ずかしがり屋な詩織の行動にしては明らかにおかしい。こりゃあ、俺関係の事で学校で何かあったな。うーん、しかし何かヒントと言うかきっかけは……。



 ……。



「痴漢……」



 これといって確信めいた事が閃いたわけでもない。

最近やたらと俺の心を蝕んでくるこの単語を何気なく呟いただけである。しかし俺が何気なく呟いた瞬間、詩織は俺の両肩を掴む。え、乱暴はやめて?



「兄さん! や、やっぱり……兄さんはおじさんに痴漢したんですか!?」



 ううっわうわうわわああああ、全然嬉しくないカミングアウトがキター。そしてそのヤバい言動で全てを察した俺であった。 
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