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恐怖!放課後に巣食うUMAの巻
チーズハムカツ美味しかったよ?
しおりを挟む税込価格180円は安かろう?
翌日の登校時間、爽やかな朝の風を、その身いっぱいに浴びている筈なのに、
通学路を歩く二人の足取りは重かった。
「なあ?理。これ、学校に持っていっても平気か?な訳ないか。
もし先生に見つかったら、親呼ばれるだろ……気が滅入る。」
「英莉ちゃ、じゃなかった。水城先輩。僕なんか豚の血が入ったビニール袋だよ?気持ち悪いよ!見てるだけで吐きそうだよ。
ただでさえ、スクールカーストのヒエラルキー最底辺なのに……気が滅入るよ。」
通学用カバンの奥にしまった対チュパカブラ用の決戦兵器を二人は確認する。
二人は顔を見合わせ「はぁ」と仲良くため息を吐いた。
その上では「カァー」とカラス達が仲良く鳴いた。
そして学校に到着し、理は靴箱を開けると……
何も入っていない空っぽの靴箱。
今日は上履きが盗まれていたのだ!!
チュパカブラ出現の予兆を朝から目の当たりにし、腰が砕ける様にその場でうずくまる理。
それを見た英莉は決意する。
情けなくて妙にほっとけない幼馴染を守るのは私の役目だと。
チュパカブラが来る。今日の放課後、奴は必ず来る!!
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「え、英莉ちゃん……やっぱり怖いよ。怖くなって来たよ。帰りたくないよ……」
「ば、馬鹿者!!学校では水城先輩と言えと何度も言ったろ!!
な、何、未遂とは言え、既に人を殺しかけた事のある私だ!!保護官に目撃されても、刺し違えてでも守ってやる!!」
英莉は理の手を引っ張る様に夕暮れの空の下、下校する。
通学用カバンの中に右手を入れ、獲物を確認する。
それは良く手に馴染み、冷たい感触が英莉に勇気を奮い立たせた。
「英莉ちゃ……もういいよね?学校じゃないし。
一晩考えたけど、この豚の血、どう使えばいいのか全くわかんないままだよ。どうしよう。また太郎さんのところ行こうかな。」
「あのクソ忌々しい肉屋にか!?私は行かんぞ!!
昨日、お父さんに頼んで保健所に連絡してもらったからな。食中毒出したとかで潰れてしまえばいい!!」
英莉の告白にギョッと理は目を見開く。
ナイフ返しに行ったら、潰れた柴胡精肉店から肉切り包丁片手に気狂い太郎が飛びかかって来るのを想像し、ぶるりと身を震わせた。
「……そ、そっか。僕も覚悟、決めたよ。」
茜色に染まる空と、夕闇に染まる空が交差する時間。
逢う魔が時が今、まさに二人に迫ろうとしていた!!
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ソノニオイ、ヤッパリアナタノホウカラキテクレタノネ。マッテタデース……」
スーパー四徳の裏、薄暗い公園から黒い影が、ひたり、ひたりと不気味な足音を立てながら姿を覗かせる。
「ひ、ひぃ!また出た!」理は真っ青に顔を染める。
「お、理は下がっていろ!」英莉は不条理な怒りに顔を赤く染めた。
そして英莉は通学用カバンから銀のナイフをスラリと引き出し構える。
未だ暗がりから仄暗く光る目で、二人を品定めする様に見るUMA。
画して放課後の火蓋が切られた。
「チュッパチャプス!覚悟しろ!刺し違えてでも理を守る!!」
英莉は右手に握った銀のナイフを逆手に持ち直し、左手には鉄板入りの通学用カバン。
対する黒い影は、その身を小さくコンパクトに蹲らせ、今か今かと飛び掛かろうとしていた。
「アナタハ、カレノナンナノデース!?!?」
「私は剣だ!弱者を護る、ただ一振りの抜き身の剣だ!!」
ヒュッと風を切る音をさせ、交差する二つの影。
黒い影は目にも止まらぬ速さで英莉に飛びかかる。
しかし英莉は左手の通学用カバンでそれを受け、身を捻りながら辛くもいなす事に成功する。
そして、その時、英莉に飛びかかった黒い影は、下から伸びた一筋の斬撃をその腕に浴びる。
「ちぃ!浅いか!」と緊張の中、肩を上下させる英莉に焦りの色が伺える。
再び、距離を取り、対峙する二つの影。
じりじりと迫る間合い。次の交差で決着をつけるのだろう。
「ま、待って!!」
理は飛び出し、二つの影の間。
その間合いに割って入った。
「こ、これ!ぼ、僕の血!!絞りたて!!あ、違う、昨日絞って熟成させてある!!
こ、これあげるから!!も、もっと欲しいなら、あ、あの橋の向こうにある柴胡精肉店に行けばタダで貰えるから!!あそこが僕んちだから!!
もう僕達を襲うのはやめてよぅ……お願いします。お願いします。」
理は豚の血の入ったビニール袋を、黒い影に恐る恐る手渡す。
そして伝家の宝刀、土下座をビタッと決めた。
「…クンクン…ォォ……ブタノチガ、クサッタミタイナニオイ……デーリシャァァァァーーースッ!!?!?!
ジュクセイサレタコク、アナタヤーッパリ、フェイバリットデース!!
……サイコ・ザ・ブッチャーショーップ……オボエタデース!!」
そして、黒い影は豚の血の入ったビニール袋を片手に下げ、驚くべき跳躍で闇の中に消えて行った。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「なんとか、凌いだのか!?」
英莉は未だ右手に銀のナイフを構え、警戒していた。その肩を上下させ、その顔には激しい疲労が見えた。
「わ、わかんないけど……英莉ちゃん。助けてくれて、ありがとう!ありがとう!」
土下座から顔を起こした理。
その表情は、涙と鼻水に汚れていた。
チョロチョロと公園の地面を濡らしたのは、恐怖か安堵か、そのどちら共か。
その汚物は英莉に駆け寄り抱き着こうとした。
「いだっ!!酷いや英莉ちゃん、膝の関節にローキック入れるのヤメてよ!!いだっ!!」
「寄るな。理。臭いし汚い。早く家に帰れ。」
画して、放課後は幕を閉じる。
もう辺りは夜の帳に包まれていた。
二人の見上げた夜空には煌々と輝く満月が、二人の勝利を祝っている様だった。
その夜空の下を微妙な距離を取って歩く二人。
それが近づくと小さな影は蹴られて、また離れた。
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