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第1章

腰巻きの秘密

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「へ、ヘイ!ブラザー!そんなところで何してるんだい!?」


やや放心状態だった俺に戸惑った声がかけられた。


「……見たのか?」


「う、うん。ブラザー…トイレはあっちだよ?」


「……そうか。」


ロドリゲスは自らのボロボロの腰巻きを無言で差し出した。
なんとも居た堪れない空気である。


「ロドリゲス。大丈夫だ。俺は。」

「食事の後、慌てて飛び出してったからアレだと思ったけど…
まさかこんなところで…我慢出来なかったのかい?」

「いや、ロドリゲス。違うんだ。話を聞いてくれ。」

「僕の腰巻き貸してあげるから水場で洗ってきなよ。君のその…汚れた腰巻きを。」

「ロドリゲス。実は俺、マジックキャスターなんだ。」


唐突に水精製を行い俺の腰巻きは前部分がビショビショになった。
ロドリゲスはもう何も言わなくなってしまった。


  ※ ※ ※


ビショ濡れの腰巻き片手にトボトボと水場に向かった俺は
ロドリゲスの差し出した腰巻きを辞退し当然全裸で向かっている。
奴隷には恥も外聞も何も無いのだ。

この世界に転生してからやたらと裸慣れし過ぎている俺は自分が現代人であった事を忘れそうになる。
この解放感が癖になりそうで怖い。


「おい、あれロドリゲスの犬じゃねー?」
「ロドリゲスと一緒だからってヒョロっ臭いのにイキがってる奴か。」
「おいおい腰巻き洗い出したぜ?お嬢ちゃん、ロドリゲスに掘られたんでちゅかー?」


奴隷の中にも当然こんな輩は居る。
体格の良いロドリゲスは確かに強そうである。
それに対し俺は奴隷生活で筋肉は多少付いたような気はするが、十分な栄養も摂れていないので強そうには見えないだろう。


【 栄養】条件:この人間を食べる
【 栄養】条件:この人間を食べる
【 栄養】条件:この人間を食べる


……俺の中の悪魔が囁く「奴らをかじり倒してしまえ」と。


俺は岩食いで強化した犬歯をギラリ剥き出し

「ウゥーーッ!!ワンワンッッッ!」
四つん這いになり気高き狼のように鋭く威嚇した。
お前ら奴隷風情が俺に調子コイてんじゃねーぞと。
なんならここで喰っちまうぞと威嚇した。


【 狂人認識】条件:この人間に畏怖を与える
【 変態認識】条件:この人間に対し奇行を行う
【 戦慄の視線】条件:この人間に殺意を込めて睨みつける


「ヒィッ!やっぱマジもんの狂人だったかコイツ!」
「自分のションベン飲んでる所見たって噂があったけどコイツならやりかねねぇなッ…」
「アイツの目を見ろよ!ヤバいって!完全にイッちゃってるって!」


 ※ ※ ※


飛びかかり奴らの喉笛をかじり倒してしまおうとしたが
慌てふためく奴らの逃げザマを見れた事と
魔眼により何かを3つ程入手したので気分は最高だ。

「ふん♪ふふーん♪」

丁寧に丹念に腰巻きを洗った。
てか、奴隷生活が始まってから腰巻きを洗ったのは初めてだった。
もはや半身と言えるべき存在感すら醸し出す腰巻き。
あの森で拾ったボロ布とこんなに長い付き合いになるとは思ってもみなかったぜ。



【 +++聖骸布の加護 イージス+++】条件:聖人の遺骸を包んだこの布を聖水に浸し心を込めて洗う



突然の条件クリアと高レアっぽい加護入手に動揺したがボロ布はボロ布なので
生乾きのまま腰に巻いてそれが乾く頃にはそのまま忘れる事にした。


 ※ ※ ※


「お前か?最近調子コイてる若造ってのは?」


水場から自分の寝床に向かう途中で数人の奴隷達に囲まれ
その中で一際目立つ黒い肌の巨漢に声を掛けられた。



「俺の名はギガスギガス超ギカントス。」

「……えっ?」


俺はギガスギガス超ギカントスと名乗る男を二度見した。


「俺の名はギガスギガス超ギカントス!!奴隷の王なりッ!!」

「えっ?えっ?」

周りに居る手下っぽい奴隷達に視線を送るとウンウンと偉そうに頷いている。
中にはうっとりと尊敬の眼差しでギガスギガス超ギカントスを見上げている者も居る始末。

「ブルっちまってますぜ?ギガスのお頭ァ…」
「超ギカントス親分の御前で頭が高ぁぁぁいっ!跪けッ!」


どうでもいいけど奴隷生活ってこんなにフリーダムなもんなのかね?
奴隷の王ナリ!とか叫んじゃう人とはあんまり関わり合いになりたくないなぁ…

ギガスギガス超ギカントスを見ると顔を若干赤らめてるし
名前に超とか入れちゃって引っ込みつかなくなったりしてんじゃないの?大丈夫?
コホンと気をとりなおしギガスギガス超ギカントスに向き合う。


「……ギガスギガス超ギカントスさんは俺に何か用か?」



「お前か?最近調子コイてる若造ってのは?」





また最初からロールプレイやり直しキター!?!?


俺が「えっ?」と返答すると「俺の名はギガスギガス超ギカントス。」と進み
ブレない村人Aっぷりに思わず吹き出した。


「超ギカントス親分!コイツ舐めてますぜ!!やっちまいましょう!」
「超絶ギカントスパンチ!超絶ギカントスパンチ!」
「今宵の王のお怒りは有頂天に達しているぞ!死をもって償え!!」


取り巻きの賑やかしがそれぞれ好きなように騒いでいる。
そろそろロドリゲスが駆けつけて来るだろう頃合いだ。
所詮は奴隷同士の喧嘩。噛み付くぐらいはしてやんよ?


「いいぜ?ギガスギガス超ギカントスさんよ?いつでもかかって来いよ!!」


バトル系物語展開に胸を熱くした俺は
これでもかと言うぐらいテンションを上げ、
その場でステップを刻みファイティングポーズを取る。


「オラオラ!かかって来ないならこちらから行くぜッ!!」


更にステップを刻み、その速度を上げる!!
構えをコンパクトにし、更に速度を上げる!!




そしてそのまま俺は逃げ出した!!!
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