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第1章

授けられし魔眼

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全裸でポツンと佇む男がここに一人。
状況が飲み込めずワナワナと震えている。
股間にサワサワと漂う背徳な開放感に興奮している訳ではない。
重要な事だからもう一度言う。決して興奮している訳では無いのだ。


「靴下と靴だけ履いてるし…悪意すら感じるな。」


傍目から見ると完全に通報案件。
この状況は非常にマズイ事を認識した途端
慌てて茂みの中に飛び込んだ変質者、ナニを隠そう俺である。


「とりあえず隠すモノ隠さないとな…」


おもむろに靴下を脱ぎ装着。
なにこれ圧倒的フィット感!!?!
余計にヤバさが増した様な気もするが
おまわりさんに見つかった場合、言い訳ぐらいにはなるだろうと思いたい。

この茂みの中で息を殺し女性と言う獲物を待つ………のではなく、
この状況になるまでの経緯を振り返ってみようと思う。
少しは気を落ち着ける事が出来るだろうか?


  ※ ※ ※


事の始めは仕事帰りの満員電車内だった。
電車の揺れるがままに誰とも知れぬ他人達に身を任せボンヤリとしていた。

(なんか良い匂いがするな…)

気が付けば俺のすぐ側に小さく震える女子高生が居た。
こちらからは顔を覗く事は出来なかったが、弱々しく大人しい雰囲気だと言う事は直ぐに分かった。

(次の揺れの時にどさくさに紛れて触っちゃおうかなー)

などと最低な事を考えたのだが、俺よりも先に行動を起こしている猛者が居る事に気付く。
便乗して触ってみよう!!!と躊躇なく手を伸ばした俺。
しかし手を伸ばした先に感じた感触は桃尻の柔らかさではなく、ゴリっとした男の手の感触だった。
咄嗟にその腕を掴んだ俺は


「……おい、痴漢はやめろ。犯罪だ。」


言うよねー、直前まで便乗しようとしてたその口で何を言ってんだ。
行き当たりばったり、勢いだけでやっちまったと後悔をしかけたが
助けたこの女子高生とお近付きになれるかも知れないという期待を胸に
ギリギリと男の腕を捻じ上げる。

「この満員電車内、逃げようとしても無駄だ。次の駅で降りてもらおう。」

もぞもぞと女子高生が動いたのを感じた刹那、腹部に冷たい激痛と少し遅れて暖かい何かがそこから漏れ出した。

「毎日毎日!私がただ触られるだけの羊だと思うなよ豚め!このサバイバルナイフの錆になるがいい!」

え、ちょ、俺違う、言葉にならない言葉が漏れる。
立っている事もままならず、男の腕を離し膝から足元の血溜まりに崩れ落ちる。
ザワザワとした車内で悲鳴や喧騒がやけに遠く感じた。
見上げると狂気の目を孕んだ女子高生が血塗れのナイフ片手にこちらを見据えていた。

「…ご、誤解だよぉぉ…」

「5回どころじゃない!春から続いた私の我慢は本日限界を超えた!!その命で罪を償えッッッ!!」


必死で乗客らの足元を這いながらドアの方へ進んだ。
血が足りないのかあまりの超展開に頭が追いつかないのか現実感が全く無い。
プシューッっと車両のドアが開き転がる様に、這うように腹部から血を垂れ流し駅のホームへと逃げ出す俺。

血塗れのナイフを逆手に持って飛び出してきた彼女の追撃を躱す事など出来ずに
絶叫と悲鳴と絶望の中で俺の意識は途絶えた。


   ※ ※ ※


気がついたらまっさらな白い世界に居た。
床も壁もあるようで無いような、まるで雲の中にいるように感じられる世界だった。

「えっ?何ここ!?えっ!?意味わかんない!俺どうなったの!?!?」


「君は死んだよ?」

そう優しく語りかけられた。
何処にも誰も居ないのに、この白い世界が語りかけてくる、そんな感じで。

「いきなり死んだって言われてもピンと来ないし‥‥って、やっぱ俺死んだの!?!?
生命保険も入って無いし今月の家賃も入れてないし最悪じゃん!!
会社に連絡も入れてないし‥あれ、死んだら休みの断りとかどうすんだろ‥?
てか、足とか何も踏んでる感触無いしここ何処!?!?!?」

クスクスと笑われた気がした。

「ここは死後に訪れる場所。まあ現世と来世の中間にある門みたいな所かな。
そして僕はその門を君がくぐるために君を導く存在。
君が生前にやり残してきた事については関与する事は出来ないけど‥
これから先に進む為に少しだけ関与する事は許されてるんだ。
ほら、少し落ち着きなよ。平常心平常心。」


何か優しい波動を感じた。
さっきまでの焦燥感がまるで嘘のように自分の死を受け入れる事が不思議と出来た。


「それじゃ大事な説明をするからね。良く聞いてね。

君の命を断った少女は事情が少しあってね、君の世界に馴染めなかった魂の持ち主だったんだ。
彼女を導いたのが僕だから責任を少し感じているよ。
だからね、生き返らせる事は出来ないけど君を別世界に転生させてあげようと思うんだ。

転生先の世界はちょっとばかり過酷なところだから少しでも長生き出来るようにいくつか
"恩恵ギフト"を授けようと思う。
恩恵ってのは才能だったり、スキルって言われたり、特殊な能力だったり…色々さ。
これから展開する裏返しにした無数のカードから3枚選んでいいよ。
時間はたっぷりあるからじっくり悩むと良いよ。」



え、あ、はい。
この世界に無数のカードが一瞬で展開され声にならない呟きが漏れた。


すぐ手の届く場所にあった綺麗なカード

小一時間ほど歩いた先にあったボロボロなカード

やたらと禍々しいオーラを放っているカード


これらを選ぶ事にした。


「これでいいのかい?」

「はい。」

恩恵が表記されているだろう裏面を見てみたが靄がかかった感じで選ぼうにも選べず
カード独特の雰囲気で選んだ結果だ。


「まず、この綺麗なカードは【ハードラック 】君が前世で持っていた恩恵だね。
読んで字の如く不幸。幸せと不幸は紙一重とは言うけど、またこれを選んじゃうとは。
来世の君が本当に心配だよ。」


「次に、このボロボロなカードは【 精神保存】珍しい恩恵だね。
世界の干渉を受けずに今現在の記憶をそのまま来世へと持って行ける。
非常に強い精神力を得る事が出来るよ。」


「最後に‥‥ハードラックの因果なのかとんでもないカードを選んで来たね。
この禍々しいカードは【魔眼ディプライブ 】視認した対象から条件付ではあるけども何かを奪う事が出来る恩恵だよ。
それがお金だったり、名誉だったり、特殊な能力だったり‥‥命だったり様々さ。
人によっては恩恵ではなく呪いだって言う人もいるね。」


恩恵の説明を終えると3枚のカードはスルリと俺の中に溶けるように消えていった。
そうして感じる浮遊感。視界は全て光に包まれ
ああ、生まれ変わるんだと直感した。


「願わくば良い旅を。幸福も不幸も君の糧になる事を‥‥」









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