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馬賊が出た!
97戦出撃だ。
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「その場所は、オレが無線機を届けたところだ。」 「では、おまえが、指揮を取れ、1班が出撃しろ。」 本郷隊長の命令がでた。 「廻せ、廻せ。」 操縦士が片腕を廻して合図する。 機の側でたむろしていた整備士らが、エンジンの慣性クランクを廻す。 操縦士が乗り込んだ。 整備士のひとりが座席ベルトを締めるのを手伝う。 「コンタクト。」 了解の合図だ。 エンジン始動のレバーを接に切り替える。 プスン、プスン、とエンジンが廻り出した。 レバーを反対側に切り替える。 エンジン回転が安定したきた。 操縦士が両手を左右に合図する。 整備士らが、車輪止めを外した。 タキシングして97戦はエプロンから滑走路へ。 スロットを上げる。 「ゴーーーーーッ。」 エンジンが唸る。 速度が100キロを越える。 ふわりと97戦が浮いた。 どんどん地上が小さくなる。 高度計に針が上がる。 高度1000で、水平飛行に移る。 僚機が付いてくるか操縦士が振り返った。 後ろについた僚機が翼を振り、以上なしと告げる。 無線機から緊急無線の続報が入る。 「隊本から1班。」 「1班です、ドーゾ。」 「今、続報だ、村の入り口のバリケードで、なんとか防いでいるらしいが、時間の問題だ、急いでくれ。」 「1班了解。」 スロットをブーストに上げた。 97戦の中島製9気筒星型エンジンが、「キーーーーン。」 と叫ぶ。 回転数が上がった音だ。 チタン合金製ターボが吼えたのだ。 陸軍の97戦のみのターボだ。 チタン合金は満州北部で、日本軍の炭鉱で産出されている。 日本機で最初の4枚ペラが機体からエンジンを引きちぎるほどに牽引する。 欧米の飛行機技術の数十年先をいく、97戦であるのだ。 速度計は振り切れていてわからないが、おそらく600キロは越えているだろう。 「なんとか、もってくれ。」 スロットブーストは制限時間があるのだ。 数分しか使えないと取り説に書いてあった。 しかし、急ぐあまりに操縦士は注意書を忘れてしまった。 数分どころか、30分以上もブーストをかけたのだ。 「おい、あれだ。」 黒い煙が上がっている。 くそっ、遅かったか。 機銃の安全ピンを外して、撃つ用意満々だ。 高度を下げる。 地面が触れるほど低空で、黒煙をめざした。 村の小屋の屋根をかすめる。 なんか、馬が見える。 思わず引き金に力が入る。 「ダダダダダ。」 短く攻撃した。 馬賊は上を見て散開したようだ。 逃がすか。 小さく旋回してインメルマンターンで決める。 さらに逃げる馬賊に追加の銃弾だ。 なかなか当らない。 無線機から、「オイ、無理するな、防げればいいのだ。」 本郷隊長の声だ。 僚機が隊本に様子を伝えたようだ。 「了解しました。」 まわりは、馬賊が去り、騒動はおさまっていた。 2機の97戦は着陸して、様子を確かめることとなる。 1機は警戒のため上空で待機している。 「兵隊さん、傷薬ないですか。」 駆けて来た女子が聞く。 「包帯と消毒液ならあるぞ。」 といい、渡した。 「ありがとうございます、たくさん必要で・・・」と戻っていく。 村の入り口のバリケードは、かんたんな物で、とても馬賊の鉄砲を防げるものではなかった。 「重傷者はいるか。」 「おとうさんが、撃たれて、血止めしか。」 見ると農夫が血だらけだ。 タンカを機体から降ろして、機体の横のハッチを開けた。 「ここに静かに乗せるんだ。」 村人と、なんとかタンカごと機体に乗せた。 急ぐので、挨拶もなく、97戦は離陸した。 あまり操縦に違和感はなかった。 無線機から、「奉天の満州病院へ、もう連絡してある。」 「了解した。」 数時間で病院前広場へ降りた。 フラップが効いて短距離で着陸できた。 看護婦らが、待っていて病院の車輪つき担架で、運ばれていった。 病院には、村の場所と名前や馬賊に襲われた内容を伝えた。 さて、離陸だ。 なんとか、短い広場から離陸でき、帰途についた97戦だった。 操縦士の青木飛曹は、ひと仕事終えて帰還報告を済ませた。 そして、隊舎で横になり疲れて寝てしまった。 ・・・「オイ、起きろ、呼びだしだ。」 え、え、え、・・・・・・・
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