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第33話 人助け
しおりを挟む深夜に謎の男の襲撃を受け、突然の事に気が気でなかった俺は、そのまま眠れずに朝を迎えた。
( …何だったんだ、一体… )
真夜中、暗闇、黒い身なりの男、ギラリと光る刃、そしてあの慌てた様子…、それらの単語がぼんやりとした推測にまとまっていく。
自分は誰かに命を狙われていたのではないか、と。
単なる空き巣や強盗の可能性もあるが、それならわざわざこんなデカい鎧を着込んだ男を相手にしようとは思わないだろう。
もし俺が強盗なら、一目でこの部屋は諦めて別の部屋を探す。
( となると…、あれは暗殺者ってことでいいのだろうか?)
考えると同時に、音も無く忍び寄る刃を持った人間を想像し、殺されていたかも知れなかったという事実に背筋が寒くなる。
もし自分が普通の人間であれば恐らく、声も上げられずにひっそりと死んでいたことだろう。
( 相手も驚いただろうな… )
自分は言わば、動く鉄の塊のようなもの。
そんな存在に刃物なんて効くわけが無い。
だからこそ、相手は窓から落ちる程慌てていたのだろう。
ともかくして、仮に再度襲われたとしても自分が死ぬことは無い、という半ば開き直った結論に達し、ようやく気持ちが落ち着く。
ふと窓の外を見ると、今日も雲一つ無い快晴だった。
( とりあえず、ギルドの方にでも行ってみるか )
宿を出て真っ直ぐに大通りまで歩くと、以前からあったあちこちの出店が開店の準備を始めていた。
人通りはまだ少ないものの、忙しく動き回って働く人々のお陰か、既に通りは賑わいを見せている。
そんな様子を尻目に大通りを抜けようとすると、道の途中に傾いた馬車の前で頭を抱える男性の姿があった。
見てみると、どうやら馬車の車輪部分が折れてしまっているようだ。
馬車を引いていたであろう6足の…馬?は、地面に伏せて呑気に寝息を立てている。
「ああ…何てこった、工房まであと少しだってのに馬車が壊れちまうなんて…」
男性が辺りに助けを求めようとするも、周囲の人達は準備で忙しく、手を貸せないようだった。
やがて男性の視線が俺の方へ向き、バッチリと目が合ってしまった。
「! あ、アンタ! 手を貸してくれないか!? 急いでるんだ! 礼はするから!」
そう必死に頼み込んでくる男性。
見て見ぬ振りをするのも後味が悪いため、手を貸すことにする。
「…何ヲスレバ良イ?」
「手伝ってくれるのか!? ありがとう! この積荷を裏通りにある〈 武器工房ダッジ 〉まで運ばなきゃいけなかったんだよ…。あそこの親父さん遅れると怖ぇんだよな…」
男性はげんなりとした表情で肩を落とす。
「でも、アンタとあと何人かで壊れた車輪側を支えながら馬で引けば何とか運べるはずだ!」
「…ソンナニ重イノカ?」
「ああ、何せ馬車には俺が間違えて仕入れた銅や鉄の鉱石がたんまり積んであるからな。軽く見積もっても5~600㎏はあると思うぜ」
( …馬車壊れたのそのせいじゃないのか? )
とりあえず試しに、馬車を持ち上げてみる。
「おいおい、いくらアンタが力自慢でもこれは無理…だっ…て……えぇ!?」
傾いた馬車は驚くほど簡単に、その水平を取り戻した。
揺れで目を覚ましたのか、寝息を立てていた馬も体を起こしてのそのそと立ち上がる。
馬車の重さの具合としては、片腕でも事足りる程度の感覚だった。
「アンタ凄ぇな! もしかして有名な冒険者か!?」
「…マダ、見習イ」
「ええぇ!? その見た目で!?」
そうこうして助けた男性と話しながら大通りを抜け、やがて細めの裏通りまで来た。
男性に聞いたところによると、この6足の馬は運搬用として普通の馬と馬の魔物を交配させて生まれた温厚な魔獣というものであるらしく、馬車を持つ者であれば大抵は連れている魔獣なのだそうだ。
「っと、着いたぜ。ここが〈 武器工房ダッジ 〉だ。本当に助かったぜ、ありがとなアンタ! これはお礼だ」
男性から金色の硬貨を一枚受け取る。
「良かったら今度、ウチの店も見ていってくれよ!ウチのカミさんが店員やってるからよ!アンタにならサービスするよう言っとくぜ?」
「…スマナイ、他ニ行クトコロガアル」
「おっ、何だそうだったのか…悪かったな手伝って貰っちゃって」
「…大丈夫、マタ今度ニデモ来ル」
「おう、待ってるぜ! じゃあまたな!」
男性と別れ、大通りまで戻って来る。
準備は粗方済んだのか、既にちらほらと開店している店が多数ある。
客足も増え始め、30分もしないうちに大通りは更なる賑わいを見せるだろう。
そうなる前に大通りを抜けて、当初の予定だったギルドへ向かう。
ギルド前の通りにも、大分人が増えて来ていたようだった。
( …それにしても、武器工房か…。 いい加減、俺も何か武器持った方がいいのかな…? )
そんな思いに耽りながら、ギルドの扉を開いた。
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