上 下
30 / 51

第30話:レベリング・モンスター

しおりを挟む
 ザイアムの町から東に一時間くらいの小さな村の隣に、小さなダンジョンがある。自然にできた洞窟みたいなところで、ゲーム的には簡単なお使いイベントが設定されているだけの場所だ。
 
「ほ、ほんとに隠し通路があった……。マイス君の予知夢はどうなってるんですか……」
「わからん。でも、使えそうなことは極力メモしてる」
「メモ……」

 そろそろ予知夢という設定でいくのは厳しくなってきたかなと思いつつ、オレは苦しい説明をフォミナにしていた。
 
 ゲームと同じように、このダンジョンには隠し部屋があった。最深部とかでは無く、なんでもない通路のちょっとした窪みを調べたら、いきなり扉が現れて小部屋が現れる。

 この小部屋こそ、レベル上げモンスターであるメタポーの出現部屋だ。
 オレは冒険者ポーチから、犬笛みたいな小さく細い笛を取り出した。

「呼び笛なんて買ってたんですね」
「これがないと出てこないんだよ」

 この部屋、普通に待つだけではなにも起きない。このモンスターを呼び寄せるアイテム、呼び笛が必要だ。ザイアムの町で購入できて助かった。

 笛を口にくわえて軽く吹くと、ピッという短い音がなった。
 さて、出てくるかな……。

「あ、出た! 出ましたよ!」

 効果はすぐに現れて、フォミナが歓声をあげた。
 いつの間にか、オレ達の前に金属質で丸っこい外見をした、デフォルメ全開のブタみたいなモンスターが現れている。

「ほぅ……これがメタポー……。かわいい……」
「スリープ、デッドポイズン」
「ぴぎぃ……」

 スキル<貫通>のおかげでメタポーは瞬殺された。

「ちょ、なんですぐ倒しちゃうんですか! 珍しい上に、あんなに可愛いんですよ! もう少し愛でる時間があっても良いじゃないですか!」

 過去一番くらいの勢いで抗議が来た。

 フォミナの言うとおり、たしかにこいつの見た目は悪くない。元ネタがメタボだとしてもだ。だが、できるだけ早く始末したい理由があるのだ。

「落ちついてくれ。どうせこれから沢山見るんだから」

 言いながら呼び笛を吹くと、またメタポーが一匹現れた。この部屋での出現率は九割だったかな。たまに複数出るんだけど、そこは運との勝負だ。

「ふぉぉ、マイス君。ちょっとだけ待ってください。戦いを仕掛けなければ、逃げにくいはずです。少し可愛いものを愛でる時間を……」
「そこまで言うならいいけど、後悔するなよ」
「?」

 オレに怪訝な笑みを返しつつ、フォミナはメタポーの凝視を始めた。

「うーん。この可愛さをぬいぐるみで表現するにはどうすればいいんでしょうか。基本が金属だから難しそうです……」

 本気で商品化を考えてる目だった。
 フォミナの意外な執念に密かに戦慄していると、状況に変化があった。

「……明日は紙とペンを持って来てスケッチしましょう。これは楽しくなってきました」
「おうおう、いー感じのねーちゃんじゃんないの。その、お胸が発達しておられますね?」

 メタポーが流ちょうに言葉を放ったのである。

「……マイス君?」
「ああ、そいつ喋るんだ」

 オレの返事を証明するかのように、メタポーはフォミナの周りを跳ね回りながら勢いよく話す。

「いいぜいいぜ。その、ちょっと無理してお洒落してる感じがいいぜ。髪のセットとか、毎日ちょっと変わっちゃって困ってるだろ?」
「………えーと」
「元々地味で目立たなかったタイプだろ、ねーちゃん。プリーストの服で露出上がって恥ずかしいけど、頑張ってるんだろ? ……わかるぜ。少し足が太いのも魅力だ」
「…………」

 そうか、頑張ってたのか。あのスリット、大胆すぎるもんな。

「ま、頑張りな。ぽっと出てきた新人に相方をとられないようにな」

 なぜか全てわかった風に、慰め始めたメタポー。
 それを見るフォミナの目は、ハイライトが消えていた。表情も完全に消えてる。

「マイス君……」
「はい。スリープ、デッドポイズン」
「ぐぷぅ」

 フォミナに言いたい放題したメタポーは絶命した。

「こいつら、凄く口が悪いから、喋る前に倒しちゃいたいんだよ……」

 魔石を拾いながら、恐る恐る話しかける。フォミナは黙っている。この人、怒ると静かになるタイプだな。

「マイス君……こいつら、根絶やしにしましょう」

 凄絶な笑みと共に言われた。

「モンスターはダンジョンから生まれてくるから、全滅はちょっと……」
「なら、気が済むまで殲滅しましょう。ほら、呼び笛吹いて。なんなら私がやります」
「はい」

 ちょっと機嫌が直るまで時間がかかりそうなので、オレは大人しく指示に従うことにした。レベル上げに積極的になってくれるのは、好都合なので。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話

菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。 そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。 超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。 極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。 生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!? これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。

前世の記憶で異世界を発展させます!~のんびり開発で世界最強~

櫻木零
ファンタジー
20XX年。特にこれといった長所もない主人公『朝比奈陽翔』は二人の幼なじみと充実した毎日をおくっていた。しかしある日、朝起きてみるとそこは異世界だった!?異世界アリストタパスでは陽翔はグランと名付けられ、生活をおくっていた。陽翔として住んでいた日本より生活水準が低く、人々は充実した生活をおくっていたが元の日本の暮らしを知っている陽翔は耐えられなかった。「生活水準が低いなら前世の知識で発展させよう!」グランは異世界にはなかったものをチートともいえる能力をつかい世に送り出していく。そんなこの物語はまあまあ地頭のいい少年グランの異世界建国?冒険譚である。小説家になろう様、カクヨム様、ノベマ様、ツギクル様でも掲載させていただいております。そちらもよろしくお願いします。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

前世ポイントッ! ~転生して楽しく異世界生活~

霜月雹花
ファンタジー
 17歳の夏、俺は強盗を捕まえようとして死んだ――そして、俺は神様と名乗った爺さんと話をしていた。話を聞けばどうやら強盗を捕まえた事で未来を改変し、転生に必要な【善行ポイント】と言う物が人より多く貰えて異世界に転生出来るらしい。多く貰った【善行ポイント】で転生時の能力も選び放題、莫大なポイントを使いチート化した俺は異世界で生きていく。 なろうでも掲載しています。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...