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廃墟のある魔境からの脱出は、トラヤの言うとおり簡単だった。
私達が最初に出た辺りを目指して真っ直ぐ歩き続けたら、四節の森に出ることができた。
ありがたいけど、これはこれで恐い。四節の森はルトゥールの入り口にある魔境だ。それがこんな危険地帯と繋がってしまった。
私達は魔境を脱出したその足で、真っ直ぐ冒険者組合に向かった。話はすぐに偉い人に通されて、その日のうちに会議。そこで話が大きくなって、ルトゥールの偉い人や上位の冒険者も呼んだ対策会議を開くことになった。
そんなわけで廃墟のある魔境を出て二日後。
私とトラヤはルトゥールの役場にある会議室にいた。救出した冒険者三人組はこの場にはいない。説明や話し合いなら私達だけで良いそうだ。
ルトゥールの役場は石造りの小さな宮殿みたいな豪華な建物の本庁と、四角い大きな建物で中に事務方が沢山入っている事務棟に別れている。
私達は事務棟の中にある会議室に呼ばれた。あまり特徴のない広い部屋で、並べられた机と椅子もお役所らしい飾りのないもの。いかにも仕事をする部屋っていう感じのところだ。
呼ばれた面々は私達、冒険者組合の偉い人達、魔境調査隊などに編成される上位の冒険者、ルトゥールの担当者などだ。
会議が始まると、さっそく冒険者組合の組合長さんが出てきて、事情を説明を始める。
室内は静かだ。全員に事前に資料が配付されていたからだろう。内容は殆ど私達の報告そのまま。
なんというか、正式な書類になっていると大変なことになってしまった感が強くなる。
「以上が現状となります。報告の魔境は『廃墟の魔境』と名付け、冒険者組合は立ち入り禁止にしています。発見者の報告後、ベテランを向かわせて現地を確認させ、資料通りの状態であることを確認してあります」
「…………」
ドラゴン退治の時もお世話になった女性の組合長さんが話し終えると、その場の全員が難しい顔で沈黙した。
「これ、どうすりゃいいんだ? 魔獣を倒せば解決ってわけでもないんだろう」
魔境調査隊の時、リーダーをやっていた冒険者さんが途方に暮れたように言った。
「いくつか対策は考えてあります。一つは、報告書にもあった魔法使いによる魔境の除去。新しい杖を錬金術で作れば可能だそうです」
私とトラヤからの提案だ。あの後トラヤと話したんだけれど、魔法が失敗したのは杖が途中で壊れそうになったかららしい。私が作った宝玉じゃ耐えきれないくらいの魔法を使わないとあの魔境はどうにかできないとのこと。
トラヤの師匠が送ってきたあのレシピさえ完成すれば、可能性が開ける。
「しかし、一度失敗したんでしょう。杖を新しくするだけで上手くいくものですか? そもそも、魔法使いの子の見立てだって正しいかわからないですし。大げさなのでは?」
そう発言したのはルトゥールの若い役人だった。トラヤの方に胡散臭いものを見るような視線を向けている。
「…………っ」
それを言われて何か言いかけたトラヤだけど、言葉を飲み込んだ。たしかに、証拠になるものはない。でも嫌な言い方をされた。なんか言い返してやるか……。
そう思っていたら冒険者の席にいたセラさんが手をあげた。
「魔境に危険な魔法生物がいたのは事実です。それが四節の森に繋がっているだけで相当に危険な状態なので大げさではないかと」
「たしかに……四節の森は町に近いですからね……失礼しました」
若い役人はその部分には納得したようだ。椅子に座り直るセラさんがこちらを見て軽く笑う。かっこいい人だ。あの趣味さえなければ。
「他の対策としては魔境調査隊を編制し、定期的な調査と魔獣退治をしつつ対策を練ること。冒険者組合本部や錬金術の塔に応援を依頼し対処することです」
組合長さんの話が話を続けるが、会場の反応は悪い。時間稼ぎしながら対策を練る、だからね。とはいえ、実際これしかないのもわかっているから反論もでない。
「まあ、見つかったばかりだしこれしかないのう。魔法使いの子がいるのが不幸中の幸いというところじゃな」
誰も発言しない中、発言したのはお年寄りの役人だった。さっきの若い人が慌てて言う。
「か、課長。なにを……」
「若い者は知らんことじゃが、昔このルトゥールの魔境が活性化した時にも魔法使いの子がいての。大なり小なり色々と問題を解決してくれたのじゃよ。なので、町としては杖の製作に積極的な協力を申し出たい」
「……い、いいんですか?」
トラヤの言葉に、年寄りの役人さんが厳かに頷いた。
「組合の方でも、活性化した魔境と魔法使いの関連は確認されています。どうも、活性化する魔境の対策として、送り込まれてくる傾向があるようだと」
「そうなんですか?」
思わず声が出た。驚いたのは私だけじゃ無い、室内の若い人の殆どが似た反応をしている。
「一応、大抵の魔法使いは古くて危ない魔境をどうにかしようと思ってるから。そうなのかも」
自信なさげに言うトラヤだけど、私はそれが正しいように思えた。修行も兼ねてそうだけど、これが魔法使い達なりの対処法なんだろう。
「組合としても素材採取などで依頼を出し、協力していきます。既にそちらのイルマさんから必要な素材のリストは提出して貰っていますので」
「では、役場にも回してくれ。なにかできるかもしれん」
なんだか偉い人達的にはトラヤの案は確度の高い話らしい。どんどん話が進んでいく。
「では、先ほどの計画を同時に進めていきます。組合ではさっそく魔境調査隊の編成などに当たります」
「これからこういう事も増えるじゃろうな。長い付き合いになるかもしれんのう、ここにいる全員」
役場の偉い人がそんなことを言った後、いくつか取り決めをして会議は終了となった。
私達が最初に出た辺りを目指して真っ直ぐ歩き続けたら、四節の森に出ることができた。
ありがたいけど、これはこれで恐い。四節の森はルトゥールの入り口にある魔境だ。それがこんな危険地帯と繋がってしまった。
私達は魔境を脱出したその足で、真っ直ぐ冒険者組合に向かった。話はすぐに偉い人に通されて、その日のうちに会議。そこで話が大きくなって、ルトゥールの偉い人や上位の冒険者も呼んだ対策会議を開くことになった。
そんなわけで廃墟のある魔境を出て二日後。
私とトラヤはルトゥールの役場にある会議室にいた。救出した冒険者三人組はこの場にはいない。説明や話し合いなら私達だけで良いそうだ。
ルトゥールの役場は石造りの小さな宮殿みたいな豪華な建物の本庁と、四角い大きな建物で中に事務方が沢山入っている事務棟に別れている。
私達は事務棟の中にある会議室に呼ばれた。あまり特徴のない広い部屋で、並べられた机と椅子もお役所らしい飾りのないもの。いかにも仕事をする部屋っていう感じのところだ。
呼ばれた面々は私達、冒険者組合の偉い人達、魔境調査隊などに編成される上位の冒険者、ルトゥールの担当者などだ。
会議が始まると、さっそく冒険者組合の組合長さんが出てきて、事情を説明を始める。
室内は静かだ。全員に事前に資料が配付されていたからだろう。内容は殆ど私達の報告そのまま。
なんというか、正式な書類になっていると大変なことになってしまった感が強くなる。
「以上が現状となります。報告の魔境は『廃墟の魔境』と名付け、冒険者組合は立ち入り禁止にしています。発見者の報告後、ベテランを向かわせて現地を確認させ、資料通りの状態であることを確認してあります」
「…………」
ドラゴン退治の時もお世話になった女性の組合長さんが話し終えると、その場の全員が難しい顔で沈黙した。
「これ、どうすりゃいいんだ? 魔獣を倒せば解決ってわけでもないんだろう」
魔境調査隊の時、リーダーをやっていた冒険者さんが途方に暮れたように言った。
「いくつか対策は考えてあります。一つは、報告書にもあった魔法使いによる魔境の除去。新しい杖を錬金術で作れば可能だそうです」
私とトラヤからの提案だ。あの後トラヤと話したんだけれど、魔法が失敗したのは杖が途中で壊れそうになったかららしい。私が作った宝玉じゃ耐えきれないくらいの魔法を使わないとあの魔境はどうにかできないとのこと。
トラヤの師匠が送ってきたあのレシピさえ完成すれば、可能性が開ける。
「しかし、一度失敗したんでしょう。杖を新しくするだけで上手くいくものですか? そもそも、魔法使いの子の見立てだって正しいかわからないですし。大げさなのでは?」
そう発言したのはルトゥールの若い役人だった。トラヤの方に胡散臭いものを見るような視線を向けている。
「…………っ」
それを言われて何か言いかけたトラヤだけど、言葉を飲み込んだ。たしかに、証拠になるものはない。でも嫌な言い方をされた。なんか言い返してやるか……。
そう思っていたら冒険者の席にいたセラさんが手をあげた。
「魔境に危険な魔法生物がいたのは事実です。それが四節の森に繋がっているだけで相当に危険な状態なので大げさではないかと」
「たしかに……四節の森は町に近いですからね……失礼しました」
若い役人はその部分には納得したようだ。椅子に座り直るセラさんがこちらを見て軽く笑う。かっこいい人だ。あの趣味さえなければ。
「他の対策としては魔境調査隊を編制し、定期的な調査と魔獣退治をしつつ対策を練ること。冒険者組合本部や錬金術の塔に応援を依頼し対処することです」
組合長さんの話が話を続けるが、会場の反応は悪い。時間稼ぎしながら対策を練る、だからね。とはいえ、実際これしかないのもわかっているから反論もでない。
「まあ、見つかったばかりだしこれしかないのう。魔法使いの子がいるのが不幸中の幸いというところじゃな」
誰も発言しない中、発言したのはお年寄りの役人だった。さっきの若い人が慌てて言う。
「か、課長。なにを……」
「若い者は知らんことじゃが、昔このルトゥールの魔境が活性化した時にも魔法使いの子がいての。大なり小なり色々と問題を解決してくれたのじゃよ。なので、町としては杖の製作に積極的な協力を申し出たい」
「……い、いいんですか?」
トラヤの言葉に、年寄りの役人さんが厳かに頷いた。
「組合の方でも、活性化した魔境と魔法使いの関連は確認されています。どうも、活性化する魔境の対策として、送り込まれてくる傾向があるようだと」
「そうなんですか?」
思わず声が出た。驚いたのは私だけじゃ無い、室内の若い人の殆どが似た反応をしている。
「一応、大抵の魔法使いは古くて危ない魔境をどうにかしようと思ってるから。そうなのかも」
自信なさげに言うトラヤだけど、私はそれが正しいように思えた。修行も兼ねてそうだけど、これが魔法使い達なりの対処法なんだろう。
「組合としても素材採取などで依頼を出し、協力していきます。既にそちらのイルマさんから必要な素材のリストは提出して貰っていますので」
「では、役場にも回してくれ。なにかできるかもしれん」
なんだか偉い人達的にはトラヤの案は確度の高い話らしい。どんどん話が進んでいく。
「では、先ほどの計画を同時に進めていきます。組合ではさっそく魔境調査隊の編成などに当たります」
「これからこういう事も増えるじゃろうな。長い付き合いになるかもしれんのう、ここにいる全員」
役場の偉い人がそんなことを言った後、いくつか取り決めをして会議は終了となった。
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