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『ドラゴンのいる魔境』から戻った私達は組合でのやりとりを終えると急いで工房に戻った。
今いるのは錬金室の隣の作業部屋だ。私はリベッタさんから貰ったレシピを何度も確認している。
手順を見直す私をじっと見ていたトラヤが、心配そうな顔をして言った。
「大丈夫そう?」
「うん。平気、分解してポーションにするだけだから」
言いながら、私は机の上に置かれた木製の箱を開ける。中に入っているのは拳くらいの大きさの深紅の宝石のような塊だ。
ドラゴンの魂、あの後必死になって解体して手に入れた希少素材だ。
この結晶にドラゴンの巨体を動かし、空を飛ばし、ブレスを吐かせるための力が秘められている。これなら、おば様を助けることができるはず。
レシピは属性水と共にこの結晶を分解してポーションにおさめるだけのもの。
ある程度属性操作に慣れていれば何とかなる難易度。ドラゴンを倒す準備のための錬金術の方が大変なくらいだ。
「じゃ、行ってくる」
「うん。待ってる」
軽く挨拶を交わして、私は錬金室に入る。今回は私に集中させたいということで、トラヤはついてこない。
すっかり見慣れた錬金室で作業をはじめる。
私はレシピと素材を決まった場所に配置。
最後にもう一度レシピの内容を確認し、ドラゴンの魂をレシピの真上に置いた。
杖を出し、掲げる。
「錬金開始……」
杖を振ると、室内に無数の光が浮かび上がった。
レシピに合わせ、杖を振る。素材が消えて、どんどん室内が明るくなっていく。
難しいことはない。属性を細かく調整する必要は無い。
私は落ち着いて、正しく順番に、冷静に杖を振り続けた。
レシピを見ての印象通り、今回の錬金術はあっさりと終わった。
私は錬金室の中心に生み出された、赤い液体の入ったポーションを手に取り、中身を確認。
うん、大丈夫そうだ。
万能ポーション『ドラゴンの魂』は無事に完成した。
錬金室の扉を出て、待っていたトラヤに笑顔で言う。
「できたよ」
その言葉に魔法使いはあからさまに顔を明るくした。
私は机の上に用意して置いた貴重品用の箱へ丁寧に『ドラゴンの魂』を納める。
「さあ、フェニアさんのところに行こう」
私達ははやる気持ちを抑えて、転んだりしないように、できるだけ慎重にフェニアさんのお店に向かった。
フェニアさんのお店におば様が店員としてよく現れるようになるのは、それから数日後のことである。
今いるのは錬金室の隣の作業部屋だ。私はリベッタさんから貰ったレシピを何度も確認している。
手順を見直す私をじっと見ていたトラヤが、心配そうな顔をして言った。
「大丈夫そう?」
「うん。平気、分解してポーションにするだけだから」
言いながら、私は机の上に置かれた木製の箱を開ける。中に入っているのは拳くらいの大きさの深紅の宝石のような塊だ。
ドラゴンの魂、あの後必死になって解体して手に入れた希少素材だ。
この結晶にドラゴンの巨体を動かし、空を飛ばし、ブレスを吐かせるための力が秘められている。これなら、おば様を助けることができるはず。
レシピは属性水と共にこの結晶を分解してポーションにおさめるだけのもの。
ある程度属性操作に慣れていれば何とかなる難易度。ドラゴンを倒す準備のための錬金術の方が大変なくらいだ。
「じゃ、行ってくる」
「うん。待ってる」
軽く挨拶を交わして、私は錬金室に入る。今回は私に集中させたいということで、トラヤはついてこない。
すっかり見慣れた錬金室で作業をはじめる。
私はレシピと素材を決まった場所に配置。
最後にもう一度レシピの内容を確認し、ドラゴンの魂をレシピの真上に置いた。
杖を出し、掲げる。
「錬金開始……」
杖を振ると、室内に無数の光が浮かび上がった。
レシピに合わせ、杖を振る。素材が消えて、どんどん室内が明るくなっていく。
難しいことはない。属性を細かく調整する必要は無い。
私は落ち着いて、正しく順番に、冷静に杖を振り続けた。
レシピを見ての印象通り、今回の錬金術はあっさりと終わった。
私は錬金室の中心に生み出された、赤い液体の入ったポーションを手に取り、中身を確認。
うん、大丈夫そうだ。
万能ポーション『ドラゴンの魂』は無事に完成した。
錬金室の扉を出て、待っていたトラヤに笑顔で言う。
「できたよ」
その言葉に魔法使いはあからさまに顔を明るくした。
私は机の上に用意して置いた貴重品用の箱へ丁寧に『ドラゴンの魂』を納める。
「さあ、フェニアさんのところに行こう」
私達ははやる気持ちを抑えて、転んだりしないように、できるだけ慎重にフェニアさんのお店に向かった。
フェニアさんのお店におば様が店員としてよく現れるようになるのは、それから数日後のことである。
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