55 / 82
55.
しおりを挟む
ドラゴンに比べれば人間二人はとても小さい。
だから私達はドラゴンが後ろを向いたところでこっそり飛び辺り、そのまま高度を上げた。運の良いことにドラゴンはこちらに気づかなかった。
今、私達の眼下に赤い鱗のドラゴンが悠々と飛んでいるのが見える。
「やっぱり、ドラゴンって大きいんだね」
「うん。あたしも最初に見た時、びっくりしたな。でも、あれくらいなら」
そう言うと、トラヤの杖の先端と周囲に浮いている錬金晶が光を放ち始めた。ちょっと眩しいくらいだ。
「もう始めるの?」
「うん。だってもう、あいつ気づいたし」
「は?」
疑問を浮かべてすぐ、旋回してまっすぐこっちに来た。なんか凄い勢いだ。どんどん大きくなってくる。
「な、なんか怒ってない?」
「そりゃ、自分の縄張りに怪しい奴。しかも魔法使いっぽいのがいるんだもの。怒るよねー」
そういうもんか。あのドラゴン、魔法使いに連れてこられたのかな?
いやまあ、見つかってしまったなら仕方ない。
「……やって、トラヤ」
「イルマって結構思い切りいいよね。いくよ!」
杖が一気に空中を滑る。全身を包む浮遊感。私達はまっすぐにドラゴンに向かっていく。
「グオオォォオオ!」
こわっ。全身の肌が粟立った。
咆吼に恐怖した私とは対照的にトラヤは冷静だった。
杖を器用に操作してドラゴンの下面をすり抜け、一気に背後に回った。
「よし、いっけぇ!」
杖の先端と浮かんだ結晶が輝き、青白い光が連続で発射された。
光はドラゴンの翼に次々と突き刺さる。突き刺さった箇所にすぐさま氷の柱が生まれた。
「よし、水属性の攻撃なら効くと思った!」
「さすがトラヤ! って、あれ見て!」
氷の柱が砕かれる。翼は穴だらけだけど、ドラゴンは落ちない。
ドラゴンは翼の羽ばたきで飛んでいるわけじゃない。翼から出る魔法の力で飛んでいると聞いたことがある。
まだ、攻撃が不十分なんだ。
「む、もうちょっと押し込まないとだめか。どうにかもう一撃……っ」
「トラヤ、私は右から行くから。反対よろしく」
「あ、イルマ!」
返事を聞かずに飛び降りて、背中の飛翔の錬金具を起動。
背面で翼のように金属の板が展開し、風の魔力が発生して私の体が浮かぶ。何度か試したから姿勢は安定している。これで短時間だけどトラヤ並に空を飛ぶことができる。
私はそのまま真っ直ぐ、ドラゴンの右側の翼を目指す。一瞬後ろを見ると、トラヤは別方向から攻撃をしかけようと杖を輝かせていた。
私とトラヤは正面からドラゴンに接近。
それを見たドラゴンは口を大きく開けて、咆吼した。
「オオオオォォォオ!」
そのまま私達を噛みつぶすつもりだろう。穴だらけの翼をはためかせ、一気に加速してきた。
「うるさいなぁっ!」
悪いけど、体の小さいこちらの方が小回りが効く。
私達は素速く位置を変えて、口を躱す。私が上、トラヤが下方向という具合でドラゴンの体をすり抜け、そのまま進む。
魔法使いを警戒してるんだろう、ドラゴンはトラヤを追うべく体をひねった。
「おおりゃああ!」
その瞬間、私はドラゴンの左側の翼の上に到着。
上着から取り出した光の剣を最大出力で起動。
「いけぇぇ!」
刃を限界まで伸ばし、下に向けてそのまま翼の上を飛翔。並の刃じゃ通らないドラゴンの翼を光の剣はあっさりと切り裂いていく。
「どうだっ。トラヤは!」
見れば、下から無数の光が打ち出され、もう一方の翼が落とされた。
空を飛ぶ手段を失ったドラゴンはそのまま落下していく。
よし、いい感じ。セラさん達がいる近くだ。
「イルマ、乗って!」
「うん。助かる」
すぐさま杖に乗り、飛翔の錬金具を停止した。危ない、もう少しで稼働時間が限界だった。
「イルマ、追加の錬金晶ちょうだい! 地属性!」
「わかった!」
私は鞄から地属性の錬金晶を取り出し、周囲にばらまいた。
「ありがとっ!」
杖の廻りに浮かんで光り輝く錬金晶。これで今度はドラゴンを足止めだ。
地上を見れば落下したドラゴンがこちらを見ている。表情筋とかあんまり無さそうなのに怒ってるのがわかるのが不思議だ。
「ようやく得意属性。もうそこから動かさない!」
叫ぶと同時、宝玉と錬金晶からドラゴンの足下に光が殺到した。
そして、地面が隆起して足をがっちりと固定。
「オォォオオオオオ!」
いきなりの魔法に驚いたのか、ドラゴンは身をよじるけど動けない。
「騒いでも簡単には動けないよ! 全力でやったからね!」
魔法によって固められた地面はただの土じゃない。錬金晶の補助付きのトラヤの全力はドラゴンをしっかりと固定していた。
私達はドラゴンから少し離れた位置にゆっくりと降下した。たいそうお怒りのドラゴンがこちらを睨んでいる。恐い。
でもいいぞ、廻りがまったく見えてない。
「そろそろね」
私の言葉が聞こえたみたいなタイミングで、森の中から冒険者達が現れた。
先頭はセラさん。氷雪の槍を手に、ドラゴンの腹目掛けてまっすぐに突撃していく。
「うおおおお!」
雄叫びと共に突き出された錬金具は見事にドラゴンの腹に刺さった。
冒険者達の攻撃はそれで終わらない。氷雪の槍は合計四本ドラゴンに突き刺さり、体内から凍結させるべく、その機能を全開させた。
「グアアアアア!」
怒りと痛みの咆吼が辺りに響いた。震える空気にちょっとたじろぐけれど、目の前に立っているセラさん達はその比じゃないだろう。
「よし、効いてる」
「うん。あとちょっとだね」
そう感想をもらしたところで、ようやく私達は着地した。
冒険者達が金色に輝く障壁を展開した。私が用意した『金剛壁』の錬金具だ。ドラゴンが思ったよりも長く生きているので念のため展開したんだろう。
「ふぅ……。イルマ、ポーションちょうだい。魔力使い過ぎちゃった」
ドラゴンの注意は目の前の冒険者達に向いている。今のうちに回復だ。
鞄の中から何種類かのポーションを取り出してトラヤに渡す。
「このまま一気に終わらせられそうだね」
「うん。私達も攻撃に……」
そういった時、冒険者達のどよめきが聞こえた。
ドラゴンが顔を上に向け、大きく息を吸っていた。
金色の輝く腹と胸が膨れあがり、輝いている。
ブレスの準備だ。至近距離で受けたら、いくら金剛壁の錬金具でも防ぎきれない。
体の半分くらいが凍り付いてるように見えるのに、なんて生命力だ。
「やらせない……」
ブレスを受けるセラさん達のことを考えたら体が自然と動いた。
あんまり使わない方がいいとか、そんなのどうでもよくなった。上着の中の『無の爆裂球』を確認する。
自分にできるだけのことをやるべきだ。そう思ってしまった。
私の目の前で、犠牲者なんて許さない。
私はその場で再び、飛翔の錬金具を起動した。
「トラヤ、後で拾って」
「ちょ、イルマ!」
驚く相棒を置いて、私は一気に飛び出した。
真っ直ぐ、高速で、ドラゴンの顔目掛けて突進する。
距離は一瞬で縮まる。ドラゴンはすぐに気づいた。
目の前に来た私の方を向いて、大口を開く。一瞬、喉の奥に真っ赤な炎が見えた。
だけど、それ以上はさせない。その炎は外に出させない。
飛び出した瞬間に無の爆裂球と杖を接触させ起動。手持ちの五つ全部を、そのまま口の中に放り込む。
「消し飛べ!」
錬金杖を掲げて叫んだ瞬間、無の爆裂球は起爆。
目の前にあった身長ほどのドラゴンの頭が、跡形もなく消し飛んだ。
体内に蓄えた炎が首からちらちらと漏れる。どうやら、ブレスの大半も消したらしい。
こうなると思ってたけど、いざ目にすると恐いわね……。
飛翔の錬金具で空中に静止したまま、あんまりな結果を眺めているうちに、ドラゴンの巨体が地面に倒れ込んでいった。
私が消し飛ばしたのは頭だけ、目的の心臓は無事だ。
「ふぅ……。ハンナ先生の名前を借りよう」
こういう時、『無の爆裂球』は先生の試作品ということで誤魔化す方針になっている。使ってしまったものはしょうがない、師匠を頼るとしよう。
「イルマ-!」
声のした方を見るとトラヤが飛んで来ていた。
私は手を振って大声で返す。
「ごめん! ブレスの動作に入ったから慌てて出ちゃった。でも上手くやったから-!」
「そうじゃなくて! 背中の錬金具、煙でてるよ!」
「え?」
疑問符と共に後ろを振り向いた瞬間、左側の錬金具が停止した。
錬金具が止まれば、当然のように私は落下する。
「うわっ」
まずい、と思ったところで目の前にトラヤの手が見えた。
私はそれを迷わず掴む。杖の周囲に空を飛ぶ魔法が影響を与えているのか、思ったよりあっさり空中に留まることができる。
「まったく……。危ないことして、あとでお説教だよ」
「ごめん。ありがとう」
説教はあえて受けよう。心配させてしまった。
しょんぼりしているうちに、トラヤが地面に降ろしてくれた。
「ほら、落ち込んでないでみんなの所に行こう。ドラゴン、解体しないとでしょ?」
トラヤが首が無くなったドラゴンの体を冒険者達が見上げているのを指さした。
その通り。むしろ、本番はこれからだ。解体して心臓から『ドラゴンの魂』を取り出さなきゃ。
仕留めた獲物に向かって歩き出すと、トラヤが嬉しそうな顔をしてこちらを見た。
「やったねっ。これでドラゴンスレイヤーだよ、イルマ!」
「…………そうだね」
なんだか、今まで以上に武闘派錬金術師として広まってしまう予感がする。
ドラゴンスレイヤーだと、もう言い逃れはできないかな。
だから私達はドラゴンが後ろを向いたところでこっそり飛び辺り、そのまま高度を上げた。運の良いことにドラゴンはこちらに気づかなかった。
今、私達の眼下に赤い鱗のドラゴンが悠々と飛んでいるのが見える。
「やっぱり、ドラゴンって大きいんだね」
「うん。あたしも最初に見た時、びっくりしたな。でも、あれくらいなら」
そう言うと、トラヤの杖の先端と周囲に浮いている錬金晶が光を放ち始めた。ちょっと眩しいくらいだ。
「もう始めるの?」
「うん。だってもう、あいつ気づいたし」
「は?」
疑問を浮かべてすぐ、旋回してまっすぐこっちに来た。なんか凄い勢いだ。どんどん大きくなってくる。
「な、なんか怒ってない?」
「そりゃ、自分の縄張りに怪しい奴。しかも魔法使いっぽいのがいるんだもの。怒るよねー」
そういうもんか。あのドラゴン、魔法使いに連れてこられたのかな?
いやまあ、見つかってしまったなら仕方ない。
「……やって、トラヤ」
「イルマって結構思い切りいいよね。いくよ!」
杖が一気に空中を滑る。全身を包む浮遊感。私達はまっすぐにドラゴンに向かっていく。
「グオオォォオオ!」
こわっ。全身の肌が粟立った。
咆吼に恐怖した私とは対照的にトラヤは冷静だった。
杖を器用に操作してドラゴンの下面をすり抜け、一気に背後に回った。
「よし、いっけぇ!」
杖の先端と浮かんだ結晶が輝き、青白い光が連続で発射された。
光はドラゴンの翼に次々と突き刺さる。突き刺さった箇所にすぐさま氷の柱が生まれた。
「よし、水属性の攻撃なら効くと思った!」
「さすがトラヤ! って、あれ見て!」
氷の柱が砕かれる。翼は穴だらけだけど、ドラゴンは落ちない。
ドラゴンは翼の羽ばたきで飛んでいるわけじゃない。翼から出る魔法の力で飛んでいると聞いたことがある。
まだ、攻撃が不十分なんだ。
「む、もうちょっと押し込まないとだめか。どうにかもう一撃……っ」
「トラヤ、私は右から行くから。反対よろしく」
「あ、イルマ!」
返事を聞かずに飛び降りて、背中の飛翔の錬金具を起動。
背面で翼のように金属の板が展開し、風の魔力が発生して私の体が浮かぶ。何度か試したから姿勢は安定している。これで短時間だけどトラヤ並に空を飛ぶことができる。
私はそのまま真っ直ぐ、ドラゴンの右側の翼を目指す。一瞬後ろを見ると、トラヤは別方向から攻撃をしかけようと杖を輝かせていた。
私とトラヤは正面からドラゴンに接近。
それを見たドラゴンは口を大きく開けて、咆吼した。
「オオオオォォォオ!」
そのまま私達を噛みつぶすつもりだろう。穴だらけの翼をはためかせ、一気に加速してきた。
「うるさいなぁっ!」
悪いけど、体の小さいこちらの方が小回りが効く。
私達は素速く位置を変えて、口を躱す。私が上、トラヤが下方向という具合でドラゴンの体をすり抜け、そのまま進む。
魔法使いを警戒してるんだろう、ドラゴンはトラヤを追うべく体をひねった。
「おおりゃああ!」
その瞬間、私はドラゴンの左側の翼の上に到着。
上着から取り出した光の剣を最大出力で起動。
「いけぇぇ!」
刃を限界まで伸ばし、下に向けてそのまま翼の上を飛翔。並の刃じゃ通らないドラゴンの翼を光の剣はあっさりと切り裂いていく。
「どうだっ。トラヤは!」
見れば、下から無数の光が打ち出され、もう一方の翼が落とされた。
空を飛ぶ手段を失ったドラゴンはそのまま落下していく。
よし、いい感じ。セラさん達がいる近くだ。
「イルマ、乗って!」
「うん。助かる」
すぐさま杖に乗り、飛翔の錬金具を停止した。危ない、もう少しで稼働時間が限界だった。
「イルマ、追加の錬金晶ちょうだい! 地属性!」
「わかった!」
私は鞄から地属性の錬金晶を取り出し、周囲にばらまいた。
「ありがとっ!」
杖の廻りに浮かんで光り輝く錬金晶。これで今度はドラゴンを足止めだ。
地上を見れば落下したドラゴンがこちらを見ている。表情筋とかあんまり無さそうなのに怒ってるのがわかるのが不思議だ。
「ようやく得意属性。もうそこから動かさない!」
叫ぶと同時、宝玉と錬金晶からドラゴンの足下に光が殺到した。
そして、地面が隆起して足をがっちりと固定。
「オォォオオオオオ!」
いきなりの魔法に驚いたのか、ドラゴンは身をよじるけど動けない。
「騒いでも簡単には動けないよ! 全力でやったからね!」
魔法によって固められた地面はただの土じゃない。錬金晶の補助付きのトラヤの全力はドラゴンをしっかりと固定していた。
私達はドラゴンから少し離れた位置にゆっくりと降下した。たいそうお怒りのドラゴンがこちらを睨んでいる。恐い。
でもいいぞ、廻りがまったく見えてない。
「そろそろね」
私の言葉が聞こえたみたいなタイミングで、森の中から冒険者達が現れた。
先頭はセラさん。氷雪の槍を手に、ドラゴンの腹目掛けてまっすぐに突撃していく。
「うおおおお!」
雄叫びと共に突き出された錬金具は見事にドラゴンの腹に刺さった。
冒険者達の攻撃はそれで終わらない。氷雪の槍は合計四本ドラゴンに突き刺さり、体内から凍結させるべく、その機能を全開させた。
「グアアアアア!」
怒りと痛みの咆吼が辺りに響いた。震える空気にちょっとたじろぐけれど、目の前に立っているセラさん達はその比じゃないだろう。
「よし、効いてる」
「うん。あとちょっとだね」
そう感想をもらしたところで、ようやく私達は着地した。
冒険者達が金色に輝く障壁を展開した。私が用意した『金剛壁』の錬金具だ。ドラゴンが思ったよりも長く生きているので念のため展開したんだろう。
「ふぅ……。イルマ、ポーションちょうだい。魔力使い過ぎちゃった」
ドラゴンの注意は目の前の冒険者達に向いている。今のうちに回復だ。
鞄の中から何種類かのポーションを取り出してトラヤに渡す。
「このまま一気に終わらせられそうだね」
「うん。私達も攻撃に……」
そういった時、冒険者達のどよめきが聞こえた。
ドラゴンが顔を上に向け、大きく息を吸っていた。
金色の輝く腹と胸が膨れあがり、輝いている。
ブレスの準備だ。至近距離で受けたら、いくら金剛壁の錬金具でも防ぎきれない。
体の半分くらいが凍り付いてるように見えるのに、なんて生命力だ。
「やらせない……」
ブレスを受けるセラさん達のことを考えたら体が自然と動いた。
あんまり使わない方がいいとか、そんなのどうでもよくなった。上着の中の『無の爆裂球』を確認する。
自分にできるだけのことをやるべきだ。そう思ってしまった。
私の目の前で、犠牲者なんて許さない。
私はその場で再び、飛翔の錬金具を起動した。
「トラヤ、後で拾って」
「ちょ、イルマ!」
驚く相棒を置いて、私は一気に飛び出した。
真っ直ぐ、高速で、ドラゴンの顔目掛けて突進する。
距離は一瞬で縮まる。ドラゴンはすぐに気づいた。
目の前に来た私の方を向いて、大口を開く。一瞬、喉の奥に真っ赤な炎が見えた。
だけど、それ以上はさせない。その炎は外に出させない。
飛び出した瞬間に無の爆裂球と杖を接触させ起動。手持ちの五つ全部を、そのまま口の中に放り込む。
「消し飛べ!」
錬金杖を掲げて叫んだ瞬間、無の爆裂球は起爆。
目の前にあった身長ほどのドラゴンの頭が、跡形もなく消し飛んだ。
体内に蓄えた炎が首からちらちらと漏れる。どうやら、ブレスの大半も消したらしい。
こうなると思ってたけど、いざ目にすると恐いわね……。
飛翔の錬金具で空中に静止したまま、あんまりな結果を眺めているうちに、ドラゴンの巨体が地面に倒れ込んでいった。
私が消し飛ばしたのは頭だけ、目的の心臓は無事だ。
「ふぅ……。ハンナ先生の名前を借りよう」
こういう時、『無の爆裂球』は先生の試作品ということで誤魔化す方針になっている。使ってしまったものはしょうがない、師匠を頼るとしよう。
「イルマ-!」
声のした方を見るとトラヤが飛んで来ていた。
私は手を振って大声で返す。
「ごめん! ブレスの動作に入ったから慌てて出ちゃった。でも上手くやったから-!」
「そうじゃなくて! 背中の錬金具、煙でてるよ!」
「え?」
疑問符と共に後ろを振り向いた瞬間、左側の錬金具が停止した。
錬金具が止まれば、当然のように私は落下する。
「うわっ」
まずい、と思ったところで目の前にトラヤの手が見えた。
私はそれを迷わず掴む。杖の周囲に空を飛ぶ魔法が影響を与えているのか、思ったよりあっさり空中に留まることができる。
「まったく……。危ないことして、あとでお説教だよ」
「ごめん。ありがとう」
説教はあえて受けよう。心配させてしまった。
しょんぼりしているうちに、トラヤが地面に降ろしてくれた。
「ほら、落ち込んでないでみんなの所に行こう。ドラゴン、解体しないとでしょ?」
トラヤが首が無くなったドラゴンの体を冒険者達が見上げているのを指さした。
その通り。むしろ、本番はこれからだ。解体して心臓から『ドラゴンの魂』を取り出さなきゃ。
仕留めた獲物に向かって歩き出すと、トラヤが嬉しそうな顔をしてこちらを見た。
「やったねっ。これでドラゴンスレイヤーだよ、イルマ!」
「…………そうだね」
なんだか、今まで以上に武闘派錬金術師として広まってしまう予感がする。
ドラゴンスレイヤーだと、もう言い逃れはできないかな。
1
お気に入りに追加
906
あなたにおすすめの小説
白紙の冒険譚 ~パーティーに裏切られた底辺冒険者は魔界から逃げてきた最弱魔王と共に成り上がる~
草乃葉オウル
ファンタジー
誰もが自分の魔法を記した魔本を持っている世界。
無能の証明である『白紙の魔本』を持つ冒険者エンデは、生活のため報酬の良い魔境調査のパーティーに参加するも、そこで捨て駒のように扱われ命の危機に晒される。
死の直前、彼を助けたのは今にも命が尽きようかという竜だった。
竜は残った命を魔力に変えてエンデの魔本に呪文を記す。
ただ一つ、『白紙の魔本』を持つ魔王の少女を守ることを条件に……。
エンデは竜の魔法と意思を受け継ぎ、覇権を争う他の魔王や迫りくる勇者に立ち向かう。
やがて二人のもとには仲間が集まり、世界にとって見逃せない存在へと成長していく。
これは種族は違えど不遇の人生を送ってきた二人の空白を埋める物語!
※完結済みの自作『PASTEL POISON ~パーティに毒の池に沈められた男、Sランクモンスターに転生し魔王少女とダンジョンで暮らす~』に多くの新要素を加えストーリーを再構成したフルリメイク作品です。本編は最初からすべて新規書き下ろしなので、前作を知ってる人も知らない人も楽しめます!
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
転生5回目!? こ、今世は楽しく長生きします!
実川えむ
ファンタジー
猫獣人のロジータ、10歳。
冒険者登録して初めての仕事で、ダンジョンのポーターを務めることになったのに、
なぜか同行したパーティーメンバーによって、ダンジョンの中の真っ暗闇の竪穴に落とされてしまった。
「なーんーでーっ!」
落下しながら、ロジータは前世の記憶というのを思い出した。
ただそれが……前世だけではなく、前々々々世……4回前? の記憶までも思い出してしまった。
ここから、ロジータのスローなライフを目指す、波乱万丈な冒険が始まります。
ご都合主義なので、スルーと流して読んで頂ければありがたいです。
セルフレイティングは念のため。
レジェンドテイマー ~異世界に召喚されて勇者じゃないから棄てられたけど、絶対に元の世界に帰ると誓う男の物語~
裏影P
ファンタジー
【2022/9/1 一章二章大幅改稿しました。三章作成中です】
宝くじで一等十億円に当選した運河京太郎は、突然異世界に召喚されてしまう。
異世界に召喚された京太郎だったが、京太郎は既に百人以上召喚されているテイマーというクラスだったため、不要と判断されてかえされることになる。
元の世界に帰してくれると思っていた京太郎だったが、その先は死の危険が蔓延る異世界の森だった。
そこで出会った瀕死の蜘蛛の魔物と遭遇し、運よくテイムすることに成功する。
大精霊のウンディーネなど、個性溢れすぎる尖った魔物たちをテイムしていく京太郎だが、自分が元の世界に帰るときにテイムした魔物たちのことや、突然降って湧いた様な強大な力や、伝説級のスキルの存在に葛藤していく。
持っている力に振り回されぬよう、京太郎自身も力に負けない精神力を鍛えようと決意していき、絶対に元の世界に帰ることを胸に、テイマーとして異世界を生き延びていく。
※カクヨム・小説家になろうにて同時掲載中です。
「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした
御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。
異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。
女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。
――しかし、彼は知らなかった。
転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――
追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中
四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる