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 魔境から無事に帰った私達は、その足でリベッタさんの工房へ向かった。

「失礼します。リベッタさん!」

「こんにちはー」

 二人して入ると、いつも綺麗に整理されている部屋が散らかっていた。
 きっと、私の頼んだレシピを探すために、大掃除になってしまったのだろう。なんだか申し訳ない。
 それにしても、ちらっと見ただけで珍しい素材や見たことのないレシピがあるのは凄い。さすがだ。

「あらまぁ。二人とも、その様子だと魔境から真っ直ぐここに来たのね」

 声のした方を見ると、奥の方からエプロンを来たリベッタさんがいつもの調子でやって来た。

「その様子だと、生命の林檎は無事手に入ったようね」

 私達の様子を見て一目で見抜いたんだろう。満足気に頷いていた。
 リベッタさんは室内にある水の出る錬金具で手を洗うと、机の上にあったレシピを手に取りながら、笑顔で私の前に来て言う。

「はい。これが生命のポーションのレシピよ」

「……ありがとうございます。やってみます」

「リベッタさんて凄い錬金術師なんだよね。頼んじゃ駄目なの?」

「それは駄目よ。これはイルマさんがやると決めたことなんだから。それに、無理そうなら最初からやらせないわ」

 これは昨日リベッタさんと話したときの約束だ。今の私ならできるレシピだから、製造まで責任を持って行うこと。もちろん、異論はない。

「そっか。じゃあ、大丈夫なんだね」

「ええ、イルマさんならできるわ」

 それからリベッタさんは私の方を見た。いつもの笑みではなく、真剣な念押しするような真面目な表情だ。

「例え生命のポーションであっても、その方が完全回復するわけじゃない。それはわかってるわね」

 生命の林檎の実から作られるポーションは『生命のポーション』と呼ばれる。強力な品だけれど、万能じゃない。

「はい。できるだけのことをやりたいと思ったんです」

「……ならいいわ。私も錬金術師だから、イルマさんの気持ちもわかります。手の届く範囲だけでもいいから、何とかしたいのね。立派な考え方よ」

 褒められてしまった。ただのわがままだというのに。

「でも、辛い道でもあるわ。人の事情に踏み込んでいくのだから」

「それは、その時に考えます」

 今わかっているのは、ここで動かないときっと後悔するだろうこと。
 自己満足なのは承知の上だ。

「錬金術師も大変なんだね。ところでリベッタさん、なんでこんな掃除してたの?」

「レシピを探してたら色々気になってしまったのよ。いい機会だから大掃除。色々と懐かしいものが出てきてね」

「へぇー、面白そう」

 あ、これって雑談が始まって止まらなくなるやつだ。
 良くない気配を感じたので、私はすぐに話題を変えにかかる。

「あの、私は工房に戻ってポーションを作りますんで」

「そうね。それがいいわ。トラヤさんはどうするの? ハンナが会いたがってるから連絡を取りたいのだけれど」

「私はイルマといるよ。なんだか倒れるまで錬金術しそうで心配だから。ご飯作ってあげなくちゃ」

 完全に保護者の視線でこちらを見られた。実際、最近は毎日だから否定できない。

「行きなさい、イルマさん。良い知らせを待っているわ」

 優しい笑顔で見送られて、私達は足早に工房へ向かった。
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