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 フェニアさんのお店は混んでいた。日用品としての錬金具を使う近所のお客さんに加えて、ルトゥール全体に増えた冒険者の影響だ。彼女のお店もいつ行ってもそれなりにお客さんがいるようになった。

「こんにちはー。納品に来ましたー」

 いつも通り店内に入ると、数名の女性が私の方を見た。全員、一目で冒険者とわかる出で立ちをしている。もう午後だから、明日以降の冒険に備えての買い出しだろう。
 フェニアさんの店は手荒れ防止だとか、肌の乾燥防止といった化粧系の錬金具が多い。量は少ないけど、品揃えはルトゥール一(いち)だろう。そのおかげで女性冒険者に人気なのだ。

「いらっしゃい、イルマ。いつもありがとね……」

「フェニアさん、疲れてますね。大丈夫ですか?」

 いつものようにカウンターの向こうに座るフェニアさんは、一目でわかるほどお疲れだった。目元に薄く隈が出てきている。

「お客様が増えて忙しくてね。組合の方からも色々言われてるし」

「実質一人でお店を回すのは無理そうですね……」

 店舗内を見回すと、床や棚は掃除が行き届いているが、商品の空きが多い。何とか掃除はできているが、補充が間に合っていないようだ。
 私がこの町に来た時ならともかく、繁盛するようになると一人で切り盛りするのは無理があるんだろう。

「とりあえずこれ、今日の納品分です。鑑定お願いしますね」

「わかったわ。いつもありがとね」

 鑑定用の錬金具を用意しながら、力なく笑うフェニアさん。これは良くないな。
 私は腰に下げた小さな鞄から体力回復のポーションを取り出す。ちょっと高くて効き目の良いやつだ。

「これ、飲んでください。倒れちゃいますよ。それと、私も手伝います。この前納品した分も棚に並んでないみたいだし」

「それは悪いわよ。イルマは大事な取引相手なんだし……」

「大事な取引相手なのはこちらも同じです。私の商品が並んでないのも問題ですからね。ポーションはちゃんと飲んでください」

「でもほら、手伝って貰うとトラヤちゃんが。工房で待ってるでしょ?」

 一体どういう認識なのか。まさか、私の生活全部をトラヤが面倒見ていると思われてないだろうか。

「今日はトラヤはもう帰って来ません。仕事の後下宿に帰ります」

「あ、そっか。なんかもう一緒に暮らしてるくらいの感覚だったわ」

「やっぱりそういう認識でしたか……」

 言いながら私はカウンターの奥に自分の荷物を置く。すると、フェニアさんが棚から使っていないエプロンを手渡してきた。

「ありがたく手伝って貰うわ。報酬は夕飯でどうかしら?」

「それなら喜んでやりますよ」

 ポーションを飲んで少し顔色の良くなったフェニアさんに、私は笑顔で答えた。
 フェニアさんの家のご飯は美味しいのだ。
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