落第錬金術師の工房経営~とりあえず、邪魔するものは爆破します~

みなかみしょう

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 紅鉱石の採取の方はあっさりと終わった。トラヤの言うとおり、砕かれた岩山からは良質のものが大量に産出した。しばらくは必要に応じてここに取りに来ようと思う。

「私が錬金術の中でも、とりわけ爆破に興味があるのは、子供の頃の出来事に理由があるの」

 鞄と籠一杯に紅鉱石をつめて一休みすることになった段階で、約束通り話を始めた。
 これは、私が錬金術師を志した理由でもある。

「ふむ。子供が爆破に興味を持つっていうと、なかなか凄い体験をしたってことだよね」

 お茶とクッキーを口にしながら言ったトラヤに私は頷く。

「私は田舎の町の出身でね。五歳の頃、そこが大変なことになったの。疫病と凶作と近くに魔獣の巣が出現して……」

「ちょっと待って。どれか一つでも町が滅びかねないと思うんだけど」

 その通り。当時、町の誰もがもう終わりだと思っていた。体を鍛え、日頃から薬草などで健康に気を使っていた我が家は無事だったけれど、町全体に蔓延する死の気配は今でもよく覚えている。

「実際、あのままだったら今の私はないわね。なんというか、運が良かったのよ。旅の錬金術師さんがふらりと現れたんだけれど、凄腕でね。あっという間に全部解決してくれたの」

「全部? 疫病と凶作と魔獣を? 魔獣の巣って、突発的に発生した魔境だよね」

 この世界では、まったく何もないところに、いきなり魔境が発生することがある。非常に希だし、発生するのが魔獣の巣であることなんてさらに珍しいが、当時はそれが起こったのだ。

「錬金術師さんは本当に凄かったんだよ。ポーションで病気を治して、錬金具で大地を癒し、魔物の巣は爆破した。全部終わるまで一月かからなかった」

「爆破? 魔境を一つ丸ごと?」

「うん。凄いんだよ。おっきなクレーターになっててね。地面が揺れたのとあの爆音、今でも覚えてる」

 ちなみに今はそのクレーターの中心に記念碑が建ち、観光地になっている。

「錬金具でそんなことできるんだ……。ほとんど大魔法だよ」

「普通は無理なんじゃないかな。錬金術師になってから色々研究してるけど、魔境を丸ごと吹き飛ばす錬金具なんて、私にはまだ作れないもの」

 『錬金術の塔』に入る前、学院時代に仲間達と色々研究して、海岸線の形を変えるくらいのものは作れたけれど、それが精一杯だった。

「えっと、子供の頃に助けてくれた人に憧れて、錬金術師の道に入ったってのは素敵だね」

「そうかな。まだまだ未熟だし、あの人みたいにかっこよく人助けできないけれどね」

「でも、納得したよ。あたしに親切にしてくれたの、イルマは誰かを助ける錬金術師になりたいからなんだね」

「そんな大層なものじゃないよ」

 どうにもトラヤの素直な感想というのは照れくさいので顔を背ける。いや、私の錬金術師としての方針に子供の頃に会ったあの人は大きく影響している。でも、面と向かって他人に言われるとちょっと気恥ずかしい。

「納得した上で一つ聞きたいんだけれど。なんでポーションや錬金具じゃ無くて、爆破の道にいっちゃったの?」

「……それが一番刺激的だったから」

 正直に答えると、トラヤは軽く息を吐いて、頷いた。

「そっか。それは仕方ないね。友達だから言うけれど、危ないこと、しないでね?」

「しないよ! ちゃんと必要な場面でしか爆破はしないもん!」

「なんでイルマがフェニアさんと仲良くできるかわかった気がするよ」

「どういう意味!?」

 しばらく楽しく歓談した後、私達は紅鉱石を満載してルトゥールに帰ったのだった。
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