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 教わった錬金術師の工房はフェニアさんの店を挟んでおおよそ私の工房の反対側にあるようだった。
 私の工房の周辺よりも賑やかな雰囲気のある通りを抜けると、すぐに目的の場所は見つかった。

 作られた時代が近いのだろう、どこか私の工房と似た雰囲気を持った頑丈そうな佇まい。壁と屋根は綺麗な白と赤。扉の上には錬金術師の店であることを現す釜を描いた看板。
 見た感じ、工房の裏と横には畑が作られ、そこで素材を栽培しているようだ。
 
 さて、行くか……。

 懐に入れたフェニアさんの紹介状を取り出してみる。ちょっと緊張する。
 取引のためにお店に行くのと違って、同業への挨拶だからだろうか。というか、こういうの苦手なんだよな……。
 とはいえ、注文を受けたし、素材についての約束もしてしまった。このまま行かないわけにはいかない。

 距離をとって様子を窺っていたが、意を決して工房に向かう。
 玄関先につけられたノッカーに手を付けようとした時だった。

「あら、お客様かしら?」

 横からいきなり声をかけられた。
 慌てて声のした方を向くと、工房の畑部分の方からこちらに歩み寄ってくる女性が一人。
 白髪の、背の低い、品の良い女性だ。高齢に見えるけど、足腰はしっかりしている。着ているのは黒と紫の落ち着いた色の錬金術師の服。

「は、はじめまして。えっと、フェニアさんのお店から来ました。イルマ・ティンカーレと申します」

 慌てて挨拶混じりに手紙を渡す。しまった。脳内プランでは玄関先で落ち着いた挨拶を交わすはずが、大分変わってしまった。

「これはご丁寧に。フェニアちゃんから?」

 女性はゆっくりとした動作で手紙を受け取ると、外見通り品の良い笑みを浮かべて言う。

「もしかして、向こうの工房に引っ越して来た錬金術師さんかしら?」

「あ、はい。フェニアさんの所でご挨拶したら、こちらを紹介されまして」

「なるほどね。では、中でお話しましょうか」

 玄関の扉を開きながら、女性は朗らかな笑みを浮かべながら続ける。

「緊張しないでね。若い子と話すのが楽しみなだけだから。私はリベッタ。もうお婆ちゃんだけれど、錬金術師をやっているわ。よろしくね、イルマさん」

「よ、よろしくお願いします」

 リベッタさんが何だか楽しそうな足取りで室内へ入って行ってしまったので、私は慌てて追いかけたのだった。
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