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9.妖精達の歓迎

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 森に入って5時間がたった。

「ありましたわ。ありましたわー!」
「…………ようやく見つかったか」

 俺達は森の中で疲れ果てていた。
 妖精の里に入るには『フェアリーサークル』なるものを見つける必要がある。
 事前の説明ではシーニャの魔法で簡単に見つかるはずだったんだが、これが全然ダメだった。

 俺達はシーニャの合ってるんだか間違ってるんだかわからない魔法の反応を頼りに、森の中を5時間も徘徊して回ることになった。
 精神的にもうボロボロだ。風呂入って寝たい。

「ここが里の入り口になってるんだな」

 全身汗だく泥だらけの俺達の前には、森の木々の間の空間に、突然現れた円形の花畑があった。
 色とりどりの花が咲くこの円陣『フェアリーサークル』は、花の並びが一種の魔法陣を形作っているそうだ。

「妖精の里は異世界のような場所。妖精達が二つの世界の出入りをした後がこのフェアリーサークルですの」
「そこで、私達の祖先が妖精から貰ったという秘宝『妖精の曙光』をかざせばいいという話ですが……」
「さっそくやってみますわ」
「お、おい、まだ心の準備が」

 俺が止める間もなくシーニャが『妖精の曙光』を手にサークルの前に立った。
 小さな宝石がちかちかと瞬くと、サークルが淡い光を放ち始める。 

「成功ですわっ!」
「……いきなり実行に移すのは心臓に悪いからやめてくれ」
「すいません。すぐ行動に移すのは姉上の美点であり欠点なのです」

 行動力があるのはいいことだと思うが、うっかりで大変なことをしでかしそうだ。

「とにかく、道は開かれたわけだ」
「はい。この先に先祖が訪れたという妖精の里があります」
「参りましょう。わたくし達の目的のために」

 こちらを向いて笑顔で言うシーニャに対して、俺とセインが静かに頷く。
 俺達は、三人同時にフェアリーサークルへ脚を踏み入れた。


○○○

「なんか景色が変わったように見えねぇな」

 フェアリーサークルの向こう側に出た最初の感想がそれだった。
 見えるのは直前と同じく鬱蒼とした森の木々だ。花畑とかメルヘンチックな建物とか、妖精の里という言葉からイメージされるものは全くない。
 これはどうしたものかな、と思ったときだった。
 森の奥から気配がした。

「何か来るな?」

 既にセインとシーニャも身構えていた。流石だ、俺なんかよりよっぽど実戦経験があるだけはある。

「油断なきようお願いします」
「だ、大丈夫ですわよ。きっと妖精さんですわよ」

 緊張する俺達の前に、複数の影が森から現れた。
 出て来た連中は、俺達を見るなりこう叫んだ。

「ようこそっ! 妖精の里へ! ライクレイの者達よ!!」

 そう言って大合唱したのは、20センチくらいの大きさの、背に透明な羽が生えた小さな人間。
 つまりは、妖精だった。
 ただし、全員男で、しかも上半身裸の凄いマッチョだ。
 元は全員爽やかな美形だったのだろう。顔立ちが整っているのが不気味さを引き立てていた。

「いやあぁぁぁ! こんなの妖精じゃありませんわぁぁぁ!」

 恐ろしいものを見せつけられたシーニャが杖を振り上げる。やばい、恐慌状態だ。しかも杖が光ってる。魔法の準備をしてやがる。
 俺は慌ててシーニャの手を掴んで押さえにかかる。

「シーニャやめろ! セイン、手伝ってくれ!!」
「よ、妖精……。これが……。ご先祖様は何を救ったのだ……」

 チィ、こっちもダメか。

「は、離してくださいまし! こんなのちがいますわ! こんなの……っ」
「落ち着け! これが現実だ! おいっ、妖精達、逃げるんだ! こいつは錯乱している!」

 このままだと妖精に攻撃魔法が炸裂してしまう。それはまずい。いや、気持ちはわかるが。
 そして、俺の忠告に妖精達は動いてくれない。というかびびってる。うん、明らかに凄い魔力を感じるからね。

「おやおや、驚かせてしまったようですな」

 混沌とした場に、落ち着いた声が響いた。
 現れたのは上半身裸では無いが、明らかにマッチョ体型のナイスミドルな妖精。パッツンパッツンのスーツ姿が特徴だ。

「『妖精の曙光』を持つお嬢さん。どうか落ち着いてください。私達にも事情があるのです」

 そういって、妖精は男臭い笑みを浮かべた。
 周囲の妖精も同時に「落ち着いてください!」と爽やかに男臭いスマイルを決めた。

「こ、恐いですわあああ!」
「あっ、こら!」

 シーニャのスカートの半透明部分が赤く光り始めた。こいつの痴女スカート(俺はそう呼んでいる)は魔法陣が刺繍されていて、発動すれば大規模破壊を起こせる切り札だと言っていた。
 やばい、なんかこの辺一帯吹き飛ぶくらいの魔法が発動するぞ……。
 そのとき、茫然自失としていたセインが動いた。

「ていっ」
「かはっ」

 迷い無く動いたセインの当て身を受け、短く息を吐いて、シーニャは意識を失った。

「ふう、姉上は自分を失うとよくこうなるのです。久しぶりですが上手くいきました」
「……そ、そうか良かったな」

 汗をぬぐい、よいしょっととシーニャを肩に担ぐセイン。荷物みたいに扱われてシーニャの下着が丸見えなんだが、全然嬉しくない。

「すまねぇ、うちの魔法使いはちょっと精神に問題があるんだ。ここは妖精の里で間違いないんだな?」

 とりあえず落ちついたので、妖精に謝罪する。
 紳士的マッチョ妖精は「いいんですよ」と笑顔で返してくれた後、俺の全身を興味深そうに眺めて言った。

「ふむ。どうやらライクレイ家の者以上に珍しい事情を抱えているご様子、私の家で話を伺いましょう。どうぞ、こちらへ」

 そう言って、ナイスミドルが森の奥へとふわふわ飛んで俺達を誘う。そして残りのマッチョ半裸妖精達が「お客様だ!お客様だ!」と嬉しそうに後に続く。……不気味だ。

「どうやら、歓迎はされてるみたいだな」
「ええ、行くしかないでしょう」
「…………」

 気絶してるお色気魔法使いを担いだまま、俺達も森の奥へと入っていくのだった。
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