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妖樹の森と化した魔物の巣、その入り口付近で出くわした傭兵団の悲劇。
彼らを木から下ろし、弔う余裕は俺達には与えられなかった。
あまりの光景に立ち止まっている間に、魔物達の襲撃を受けたからだ。
「全員! 応戦を!」
対応は早かった。クリスの声に応えて即座に戦闘態勢に入る精鋭達。その他の冒険者達もそれに釣られるように、それぞれの役目を果たすべく、行動に入る。
俺とユニアの役割は中衛。前衛の後ろ、クリスを守るように立ち、魔法と弓で応戦する。
持ち込んでいるのがレベルを落とした装備とはいえ、性能は悪くない。上手い具合に魔物を攻撃して、味方の撃破数に貢献するように動く。
「ようやく向こうに動きがあったな。ユニア」
「はい。少々お待ちください……」
奇襲を食らったが戦況は優勢。やはり、クリスとその仲間が頼もしい。
襲いかかってくる魔物は、ゴブリン、オーク、オーガ。それに森の獣が魔物化したもので、どれも結構強めの個体だ。人間より二回りは大きいトロルまでいるが、それすらものともしない。さすが『魔王戦役』を生き抜いた戦士達だ。
おかげでユニアが周囲の索敵に集中できる。
妖樹の森が現れて以来、動きを見せなかった敵がようやく明確な行動に出てくれた。しかも、いかにも「お前達をここから出さないぞ」というメッセージを暗に込めたやつだ。
俺達が傭兵団を発見した後、襲いかかってくるタイミングは完璧に近かった。
つまり、指令を出している奴がここを見ている。
この罠を準備した司令塔、それがこの近くにいる可能性は高い。
傭兵隊長のボルグが元凶だと思っていたが、どうもそこは外れたらしい。彼の死体もまた、木にぶらさがっていた。すると、別物か……。
傷ついた前衛に回復魔法を放ちながら、そんなことを考えていると、ユニアが口を開いた。
「いました。右前方。若干ですが霧が薄くなっている方向です」
「あっちか。言われてみれば……よし」
たしかに、右側の方を見ると霧が薄くなっているように見える。微妙だが、違いは違いだ。 罠の可能性もあるが、それならそれで踏み潰すまで。
俺は軽く下がってクリスの横に行く。
「どうかされましたか?」
周囲の冒険者が怪訝な反応をする中、クリスは落ち着いていた。
「ユニアが右前方に何かあると言っています。あいつは勘がいい。調べてきていいですか?」
「この状況でか?」
横にいた男性神官が疑問を挟む。まあ、たしかにそうだ。
「右前方……あちらですか。なるほど……」
俺が指し示した方角をじっと見た後、クリスは力の籠もった瞳で俺を見る。
「イストさん、でしたね。お二人で行くつもりですか?」
「加護を頂ければ偵察してきます。ヤバそうだったら、すぐに逃げてきますよ」
「……わかりました。加護を祈りましょう」
「クリス様!」
口を挟もうとした横の神官に対して、クリスは手で制す。
「この戦場ももうすぐ収まるでしょう。偵察を出す余裕はあります。むしろ、敵を撃退した後、近くにいるであろう黒幕に逃げられる心配をすべきです」
「……た、たしかに味方優勢ですが」
「見た限り、イストさんとユニアさんの動きは的確です。ここは頼って良いでしょう」
そう言うなり、クリスは目を閉じて聖句を唱える。
俺と少し離れた場所にいるユニア、それぞれの体が淡く輝いた。
「光の加護です。妖樹の霧は意に介さず進めるでしょう。今のうちに黒幕に迫り、足止めを」
「承知しました」
言葉を受けて、俺は駆け出す。それを見ていたのか、ユニアも当たり前のようについてくる。冒険者達の防御の陣を二人で抜けて、俺達は駆け出す。
「ユニア、道案内を頼む」
「了解です。こちらへ」
一足先も見えないくらい濃い霧の中、前を行くユニアの後を追いかける。
その先にいる、この状況を作り出した黒幕に迫るために。
彼らを木から下ろし、弔う余裕は俺達には与えられなかった。
あまりの光景に立ち止まっている間に、魔物達の襲撃を受けたからだ。
「全員! 応戦を!」
対応は早かった。クリスの声に応えて即座に戦闘態勢に入る精鋭達。その他の冒険者達もそれに釣られるように、それぞれの役目を果たすべく、行動に入る。
俺とユニアの役割は中衛。前衛の後ろ、クリスを守るように立ち、魔法と弓で応戦する。
持ち込んでいるのがレベルを落とした装備とはいえ、性能は悪くない。上手い具合に魔物を攻撃して、味方の撃破数に貢献するように動く。
「ようやく向こうに動きがあったな。ユニア」
「はい。少々お待ちください……」
奇襲を食らったが戦況は優勢。やはり、クリスとその仲間が頼もしい。
襲いかかってくる魔物は、ゴブリン、オーク、オーガ。それに森の獣が魔物化したもので、どれも結構強めの個体だ。人間より二回りは大きいトロルまでいるが、それすらものともしない。さすが『魔王戦役』を生き抜いた戦士達だ。
おかげでユニアが周囲の索敵に集中できる。
妖樹の森が現れて以来、動きを見せなかった敵がようやく明確な行動に出てくれた。しかも、いかにも「お前達をここから出さないぞ」というメッセージを暗に込めたやつだ。
俺達が傭兵団を発見した後、襲いかかってくるタイミングは完璧に近かった。
つまり、指令を出している奴がここを見ている。
この罠を準備した司令塔、それがこの近くにいる可能性は高い。
傭兵隊長のボルグが元凶だと思っていたが、どうもそこは外れたらしい。彼の死体もまた、木にぶらさがっていた。すると、別物か……。
傷ついた前衛に回復魔法を放ちながら、そんなことを考えていると、ユニアが口を開いた。
「いました。右前方。若干ですが霧が薄くなっている方向です」
「あっちか。言われてみれば……よし」
たしかに、右側の方を見ると霧が薄くなっているように見える。微妙だが、違いは違いだ。 罠の可能性もあるが、それならそれで踏み潰すまで。
俺は軽く下がってクリスの横に行く。
「どうかされましたか?」
周囲の冒険者が怪訝な反応をする中、クリスは落ち着いていた。
「ユニアが右前方に何かあると言っています。あいつは勘がいい。調べてきていいですか?」
「この状況でか?」
横にいた男性神官が疑問を挟む。まあ、たしかにそうだ。
「右前方……あちらですか。なるほど……」
俺が指し示した方角をじっと見た後、クリスは力の籠もった瞳で俺を見る。
「イストさん、でしたね。お二人で行くつもりですか?」
「加護を頂ければ偵察してきます。ヤバそうだったら、すぐに逃げてきますよ」
「……わかりました。加護を祈りましょう」
「クリス様!」
口を挟もうとした横の神官に対して、クリスは手で制す。
「この戦場ももうすぐ収まるでしょう。偵察を出す余裕はあります。むしろ、敵を撃退した後、近くにいるであろう黒幕に逃げられる心配をすべきです」
「……た、たしかに味方優勢ですが」
「見た限り、イストさんとユニアさんの動きは的確です。ここは頼って良いでしょう」
そう言うなり、クリスは目を閉じて聖句を唱える。
俺と少し離れた場所にいるユニア、それぞれの体が淡く輝いた。
「光の加護です。妖樹の霧は意に介さず進めるでしょう。今のうちに黒幕に迫り、足止めを」
「承知しました」
言葉を受けて、俺は駆け出す。それを見ていたのか、ユニアも当たり前のようについてくる。冒険者達の防御の陣を二人で抜けて、俺達は駆け出す。
「ユニア、道案内を頼む」
「了解です。こちらへ」
一足先も見えないくらい濃い霧の中、前を行くユニアの後を追いかける。
その先にいる、この状況を作り出した黒幕に迫るために。
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