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雑貨屋に到着すると、迎えてくれたのは店長さんだった。
「おう。いらっしゃい。よく来たね」
「こんにちは。親父さん、色々気を遣って頂いてありがとうございます」
高級酒の入った木箱を置きながら、店長さんに礼を言う。フレナさんの父親は髭の似合うナイスミドルといった感じの方で、腕利きの商人だ。町に物品を供給する雑貨屋だけでなく、酒場まで経営している。
「気を使ったとかじゃなくて本当に困ったんだよ。急に言われても、この町で高級品なんてそんなにないしね」
親父さんの店は雑貨屋と酒場のどちらも大きいが、町の人向けの商売だ。
もっと賑わっていたという『魔王戦役』の時ならともかく、人が減って静かになった今は在庫の種類が減っているのだろう。
俺は木箱の蓋を開けて、中を見せる。緩衝材代わりの木くずの間から、高級酒の瓶が顔を覗かせた。
「一応あるものから選んでみたんですけど、どうです?」
「……完璧だよ。君の所の倉庫はどうなってるのか、一度見てみたいな」
良かった。リストにあった要望通りではないが、十分に満足いくものだったようだ。
「倉庫の中は企業秘密なので勘弁してください。危険なマジックアイテムもあるんで」
やろうと思えば全ての商品を収納魔法に保管できる俺だが、怪しまれないように倉庫を使っている。貴族や冒険者向きに中級程度のマジックアイテムも置いていて、うっかり触ると危険なものも中には存在するのだ。
「わかってるよ。お代は後で町長さんから貰った後になるけどいいかな?」
「それで大丈夫です。助かります。この前の依頼の報酬も入りますしね」
キメラの件が通って、依頼の報酬は増額だよ、と親父さんは伝えてくれた。
フレナさんと同じく、最初は俺を警戒していた人だが、今では何かと気にかけてくれている。こういう縁は大切にしたい。
「冒険者の仕事をしてくれるのは本当に助かるよ。そうだ、良い話を教えよう。北の方にあるウジャスの町でゴタゴタが起きててね。周りも巻き込んで戦争寸前らしい。武器の需要があるかもしれないよ?」
俺に対するサービスのつもりか、親父さんが聞き覚えのある情報を教えてくれた。
たしかに、あのままゴタゴタすれば店の武具を売る良い機会になったんだろう。
だが、それはもう終わった話だ。この世界の情報の速度を考えると、親父さんはなかなかの早耳である。目の前に当事者がいるのがおかしいんだ。
「あー、それなんですが。俺も聞いたんで、昔の仲間に連絡取ってみたんですが、普通に解決しそうらしいですよ」
そう答えると、親父さんはあからさまに落胆した。
「なんだ。せっかくイスト君に儲け話をしてあげれると思ったのに」
「ありがとうございます。でも、俺としては傭兵相手に武具を売るよりも、この町が賑やかになって普通に商売できる方が嬉しいですね」
「たしかに、戦争なんかより、そっちの方が長く商売できそうだ」
俺の本心からの言葉に笑顔を浮かべながら答えつつ、木箱を運ぶ親父さん。
その背中に問いかける。
「フレナさんとユニアは部屋ですか?」
「少し前まで騒いでたよ。そろそろ降りてくるだろうね。女の子を引き取るなんて、やるもんだねぇ」
感心だよ、と言いながら親父さんは奥に消えた。
雑貨屋は二階立てで、そこにフレナさん達の居住スペースがある。そちらに向かう階段がある扉に目を向けると、タイミングを図ったかのように開かれた。
「おう。いらっしゃい。よく来たね」
「こんにちは。親父さん、色々気を遣って頂いてありがとうございます」
高級酒の入った木箱を置きながら、店長さんに礼を言う。フレナさんの父親は髭の似合うナイスミドルといった感じの方で、腕利きの商人だ。町に物品を供給する雑貨屋だけでなく、酒場まで経営している。
「気を使ったとかじゃなくて本当に困ったんだよ。急に言われても、この町で高級品なんてそんなにないしね」
親父さんの店は雑貨屋と酒場のどちらも大きいが、町の人向けの商売だ。
もっと賑わっていたという『魔王戦役』の時ならともかく、人が減って静かになった今は在庫の種類が減っているのだろう。
俺は木箱の蓋を開けて、中を見せる。緩衝材代わりの木くずの間から、高級酒の瓶が顔を覗かせた。
「一応あるものから選んでみたんですけど、どうです?」
「……完璧だよ。君の所の倉庫はどうなってるのか、一度見てみたいな」
良かった。リストにあった要望通りではないが、十分に満足いくものだったようだ。
「倉庫の中は企業秘密なので勘弁してください。危険なマジックアイテムもあるんで」
やろうと思えば全ての商品を収納魔法に保管できる俺だが、怪しまれないように倉庫を使っている。貴族や冒険者向きに中級程度のマジックアイテムも置いていて、うっかり触ると危険なものも中には存在するのだ。
「わかってるよ。お代は後で町長さんから貰った後になるけどいいかな?」
「それで大丈夫です。助かります。この前の依頼の報酬も入りますしね」
キメラの件が通って、依頼の報酬は増額だよ、と親父さんは伝えてくれた。
フレナさんと同じく、最初は俺を警戒していた人だが、今では何かと気にかけてくれている。こういう縁は大切にしたい。
「冒険者の仕事をしてくれるのは本当に助かるよ。そうだ、良い話を教えよう。北の方にあるウジャスの町でゴタゴタが起きててね。周りも巻き込んで戦争寸前らしい。武器の需要があるかもしれないよ?」
俺に対するサービスのつもりか、親父さんが聞き覚えのある情報を教えてくれた。
たしかに、あのままゴタゴタすれば店の武具を売る良い機会になったんだろう。
だが、それはもう終わった話だ。この世界の情報の速度を考えると、親父さんはなかなかの早耳である。目の前に当事者がいるのがおかしいんだ。
「あー、それなんですが。俺も聞いたんで、昔の仲間に連絡取ってみたんですが、普通に解決しそうらしいですよ」
そう答えると、親父さんはあからさまに落胆した。
「なんだ。せっかくイスト君に儲け話をしてあげれると思ったのに」
「ありがとうございます。でも、俺としては傭兵相手に武具を売るよりも、この町が賑やかになって普通に商売できる方が嬉しいですね」
「たしかに、戦争なんかより、そっちの方が長く商売できそうだ」
俺の本心からの言葉に笑顔を浮かべながら答えつつ、木箱を運ぶ親父さん。
その背中に問いかける。
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「少し前まで騒いでたよ。そろそろ降りてくるだろうね。女の子を引き取るなんて、やるもんだねぇ」
感心だよ、と言いながら親父さんは奥に消えた。
雑貨屋は二階立てで、そこにフレナさん達の居住スペースがある。そちらに向かう階段がある扉に目を向けると、タイミングを図ったかのように開かれた。
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