5 / 5
5.
しおりを挟む二上先輩が部室にいるのも大分慣れてきた。
秋は深まり、もうすぐ文化祭だ。
そんなわけで、俺は部室に来るといつもの読書はやめて、部室内の資料をあたっていた。
とりあえず、今年の展示を決めて、写真撮影に行く場所を決めなきゃな。
そんな感じで部室内でがさごそやっていると、二上先輩がやってきた。
「こんにちはー。あら、納谷君どうしたの? 掃除?」
「文化祭用の資料探しですよ。結果的に掃除することになりそうですけど」
部室内は窓の無い壁は片っ端から棚になっている。俺はそこからめぼしい物を床の上に出したので酷い有様だ。
「そっか。例の文化祭の活動ね」
「ええ、年に一度、ちょっと頑張るだけです。資料探しと写真撮影と展示だけ。それでここを守れます」
「いいことだね。私も手伝うよ。部員なんだから」
「お願いします」
そんなわけで、その日の活動は文化祭の準備になった。
「こんなもんかな……」
「あーあ、散らかしちゃった。片づけは明日かな」
「文化祭が終わるまで、綺麗にはできませんね」
下校時刻前まで頑張って、俺と二上先輩はめぼしい資料を選別した。
綺麗だった部室内は展示用の資料が雑然と積み上げられている。完全に片付くのは文化祭が終わったらだろう。
これから資料を読んで、写真の撮影場所を決めて……。
俺が今後の予定を頭の中で組んでいると二上先輩が目の前にやってきた。
「納谷君。これ……」
何故か、先輩が俺におずおずとスマホを差し出していた。
「どうしたんですか? ガチャで凄いキャラでも出たとか?」
「いや、違う……この前爆死した」
また爆死したんかい。
違うのか、じゃあ、
「先輩のスマホを貰っても困るんですが」
「そうじゃなくて……連絡先を教えて欲しい」
なるほど。理解しました。
「いいですけど。俺は先輩とそこまで連絡することがあるかな?」
「……私と連絡するの……嫌なの?」
「いや、そんなことは」
目を潤ませながら問いかけるのはずるい。その麗しい見た目をフルに駆使しないでほしい。
「文化祭も近いし、連絡取れる方が便利でしょ。写真撮影、一人でいくつもり?」
「え、一緒に行ってくれるんですか!?」
驚きだった。名所旧跡巡りなんて退屈だろうから、俺一人で行くつもりだったんだけど。
「行くよ! 結構楽しみにしてたんだからね!」
「あ、なんか……ありがとうございます」
まさか先輩がそんな熱心に部活動をするつもりだったとは。意外だ。
とにかく、俺もスマホを取り出し、電話番号やらSNSのIDやらを交換した。
これでいつでも、二上先輩と連絡を取れるわけだ。……クラスの奴には話せないな。
「えへへ。嬉しい」
なんだか先輩が凄く喜んでいた。何かを噛みしめるような笑顔は、それはとても淑やかで、先輩の魅力が最大限引き出されていた。
「…………」
「なによ、その顔」
「普通にしてるとやっぱり美人ですよね」
「…………セクハラだよ」
「すみません」
素直な気持ちを言ったら、怒られてしまった。
○○○
やったやったやったー。
放課後、下校前で誰もいない廊下を、私は小走りに駆けていた。
学年ごとに下駄箱が異なる関係で、私が納谷君と一緒に帰るには少し急がなければならないのだ。
今、私の顔はだらしなく緩んでいるだろう。誰もいないのが幸いだ、表情筋の仕事は少し休んで貰ってもいい。
ついに、納谷君の連絡先を手に入れた。まさか二ヶ月近くかかるとは思わなかった。全く、手こずらせやがって。
まさか、自分が男性の連絡先を手に入れて喜ぶことになるとは思わなかった。
最初は納谷君に対して興味を持っただけだった。
私がWIFIを求めて見苦しい行動をとっているのを咎めるでも無く、部室に迎え入れる。
正直、何かされそうになったら逃げようと警戒して緊張してたんだけど、彼はそんなそぶりは全くなかった。
それどころか、毎日顔を出す私に対して、迷惑そうな顔すらした。
下心とかそういうのを持たず、私に接してくれている、その証拠だ。
毎日放課後を一緒に過ごすうちに、いつの間にか、私の納谷君に対する興味が、好意に転換していた。
まあ、一緒にいて悪い印象もなければ何となく好感を持つものだ。
それに、納谷君が結構可愛い顔で可愛い反応を返すことがあるのもちょっと悪い。
これが本格的な恋愛感情と言っていいのか、男性を避け続けてきた私にはよくわからない。
でも、これから先、部活という名目で一緒にでかけたりするのを想像すると、割と楽しみでドキドキしてしまう。
つまりは、そういうことなのだろう。ちょっと癪だけど。
何はともあれ、一歩前進だ。
あの後輩は妙に鈍感なところがあるし、読めないところもある強敵だけど、今は自分の中の感情に従おう。
そう思って、軽くステップを踏んでみたら、私は盛大にすっ転んだのだった。
0
お気に入りに追加
5
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~
メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」
俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。
学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。
その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。
少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。
……どうやら彼は鈍感なようです。
――――――――――――――――――――――――――――――
【作者より】
九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。
また、R15は保険です。
毎朝20時投稿!
【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
シチュボ(女性向け)
身喰らう白蛇
恋愛
自発さえしなければ好きに使用してください。
アドリブ、改変、なんでもOKです。
他人を害することだけはお止め下さい。
使用報告は無しで商用でも練習でもなんでもOKです。
Twitterやコメント欄等にリアクションあるとむせながら喜びます✌︎︎(´ °∀︎°`)✌︎︎ゲホゴホ
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?
石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。
ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。
ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。
「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。
扉絵は汐の音さまに描いていただきました。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる