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二十五章 アルフォンソ
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段を十数段上がりきると、そこには小さな踊り場みてぇなちょっとした空間と、その奥にまた鉄の扉があった。
たぶん、ここがゴールだ。
正直方向感覚もイマイチ掴めちゃいねぇし、この扉の先が一体どーゆー所に繋がってんのかも読めねぇ。
ただ歩いた距離と勘だけで言うと、恐らく城の敷地外。
相当安全に配慮されてて人通りの滅多にねぇ様な場所なんじゃねぇかってな予測だけだ。
……そいつがガイアスん家に近い場所だってんなら万々歳なんだけどな。
そんな、甘い期待をかけてみるが……。
──ま、そう都合良く行く訳ねぇか。
そう、溜息混じりにあっさりと、んな甘い考えを諦める。
そうして気持ちを切り替え よし、と気合を入れて鉄扉のノブに手をかけた。
そのままゆっくり静かにそっと押してみたが、どーにも全く動かねぇ。
もしかして、と逆にそっと手前に引いてみると、今度は鉄の重さを一切感じねぇ程軽く扉が開く。
念の為ごくごく薄く開けた扉の向こうは、今度こそ完全なる暗闇、みてぇだった。
──外じゃ、なさそうだ。
そう、肌感覚に感じ取る。
どこかの納屋の中か、家の中か、とにかく室内なのには違いねぇ。
注意深く感覚を研ぎ澄まして人の気配を探ったが、どうやら人っ子一人、ネズミ一匹の気配すらなさそうだ。
俺はアルフォンソをしっかり背負い直して扉を開き、向こう側に足を踏み出した。
そうして完全にそっち側へ入り込むと、念の為すぐにその扉を一旦後ろ手に閉める。
向こうからの明かりが長くこっちに漏れるのを避ける為、だったが……。
そこから二秒、三秒とじっとその場に立って待ってみても、部屋にはやっぱり何の気配も、動きもねぇ。
どーやら、本当に安全そうだ。
そう判断して──。
俺はそっとさっき後ろ手に閉めた扉をもう一度軽く開けてみる事にした。
まだほんのりと明るく点る小さなオレンジ色の明かりが、こっちの部屋をほんの僅か明るくしてくれる。
そこは、本当に小さな部屋、だった。
広さは、さっきの塔の『牢』の部屋の四分の一程度。
床材はさっきまでと同じく白い石で造られているが、壁には洒落たツタと花の模様がついた壁紙が張られている。
部屋の中程にはフカフカそうな大きな丸いカーペットが敷かれ、そこに座り心地の良さそうな、いかにも高級そうな一人掛け用のソファーが一脚置いてある。
小部屋の右壁側にはこれまたいかにも上等そうなダークブラウン系の色味の小箪笥。
小部屋ん中はそれだけのものしかねぇが、ちょっとした休憩スペースとしてはかなり上等だ。
窓はなく、俺が今開けてる扉の真正面の壁にゃあまた一つ扉がある。
そして、その扉の脇に何かのスイッチが見えた。
ちらっと振り返って後ろを見てみりゃあ、俺がさっき開け放した扉の脇にも同じスイッチがあった。
俺は少し逡巡しつつも、思い切ってそのスイッチを押してみる事にした。
と──。
パッと何かの魔法みてぇに、部屋の中が一気に明るくなる。
さっきまでの淡く小さなオレンジ光をぎゅっと天井の一つ所に集めて大きくしたみてぇな、だけど意外にも柔らかいオレンジ色の明かりだった。
見れば部屋の天井、中央部に小型版のシャンデリアみてぇな洒落た感じの電灯(って言うのか?あれ)が下がって、オレンジの明かりをキラキラと辺りに反射させている。
こいつぁ中々……。
『牢』に入れられた罪人がいくら王族っつってもだぜ?
こいつはちょっと気を利かせすぎだろ。
確かに狭いのは狭いが、これじゃフツーにお貴族様のゲストルームだぜ。
まぁでも一応ここまでしてるって事は……。
俺は一つ見当をつけ、ひとまずアルフォンソを柔らかいソファーの上にそっと降ろす。
そーしてそのまま不自然に一つ置かれた小箪笥の前へ向かった。
明るい所で見ると、そいつが思った通り相当に上等なモンだって事が一目で分かる。
木の素材感もそうだが、引き出しの表面に草花モチーフの品のいい細かな彫り込みがされてるんだよな。
シャンデリアの明かりに照らされて、艶やかなダークブラウンの小箪笥がやたらに輝いて見える。
引き出しの数は全部で三段。
俺は躊躇いなく上から順に開けてってみる。
思った通り、中々どーして使えそうなモンがしっかり入っていた。
まず一段目には長方形に折り畳まれた地図と方位磁針。
麻の小袋に入った金に、小型の折りたたみ式ナイフ。
二段目は庶民感漂う服と、同じく庶民感漂う紺色のマント。
三段目はこれまた庶民感満載の靴が一足、だった。
ここで高級な絹の服からこいつに着替えて、目立たねぇ様に出ていけよ、とそういうこったろう。
金も逃亡者が持つにしても案外潤沢に入っている。
それに何より一番ありがてぇのが地図だ。
サッと広げて見てみると、何ともお優しい事に今のこの現在地らしい場所に赤い印が打ってある。
サランディール城からは、まぁまぁ割に離れている。
城下街からもちょっと外れた様な、郊外の森の中を少し奥へ進んだ辺りってトコか。
こっからならアルフォンソを背負ったまま移動しても、ガイアスん家まで三、四十分くらいで辿り着けそうだ。
──まだ、外は暗いはずだけどな。
念には念を押して、俺の着替えくらいはしてった方がいいだろう。
どう考えたってメイド服の女の子が男一人軽く背負って歩いてたら悪目立ちし過ぎるからな。
そう考えて、俺は引き出しに入ってた服と靴を拝借して、ついでに一段目に入ってた諸々の小物類も服のポケットに押し込んで上から自分の姿を確認する。
服も靴も、まぁまぁ地味めだがそう悪いこたぁねぇ。
それに見た目に反して着心地は結構良かった。
箪笥には一応女物も一揃いあったが……そいつはもちろんそのまま残しておいた。
俺はそれ以外に箪笥に一つ残った紺色のマントを手にアルフォンソの元へ向かう。
たぶん、ここがゴールだ。
正直方向感覚もイマイチ掴めちゃいねぇし、この扉の先が一体どーゆー所に繋がってんのかも読めねぇ。
ただ歩いた距離と勘だけで言うと、恐らく城の敷地外。
相当安全に配慮されてて人通りの滅多にねぇ様な場所なんじゃねぇかってな予測だけだ。
……そいつがガイアスん家に近い場所だってんなら万々歳なんだけどな。
そんな、甘い期待をかけてみるが……。
──ま、そう都合良く行く訳ねぇか。
そう、溜息混じりにあっさりと、んな甘い考えを諦める。
そうして気持ちを切り替え よし、と気合を入れて鉄扉のノブに手をかけた。
そのままゆっくり静かにそっと押してみたが、どーにも全く動かねぇ。
もしかして、と逆にそっと手前に引いてみると、今度は鉄の重さを一切感じねぇ程軽く扉が開く。
念の為ごくごく薄く開けた扉の向こうは、今度こそ完全なる暗闇、みてぇだった。
──外じゃ、なさそうだ。
そう、肌感覚に感じ取る。
どこかの納屋の中か、家の中か、とにかく室内なのには違いねぇ。
注意深く感覚を研ぎ澄まして人の気配を探ったが、どうやら人っ子一人、ネズミ一匹の気配すらなさそうだ。
俺はアルフォンソをしっかり背負い直して扉を開き、向こう側に足を踏み出した。
そうして完全にそっち側へ入り込むと、念の為すぐにその扉を一旦後ろ手に閉める。
向こうからの明かりが長くこっちに漏れるのを避ける為、だったが……。
そこから二秒、三秒とじっとその場に立って待ってみても、部屋にはやっぱり何の気配も、動きもねぇ。
どーやら、本当に安全そうだ。
そう判断して──。
俺はそっとさっき後ろ手に閉めた扉をもう一度軽く開けてみる事にした。
まだほんのりと明るく点る小さなオレンジ色の明かりが、こっちの部屋をほんの僅か明るくしてくれる。
そこは、本当に小さな部屋、だった。
広さは、さっきの塔の『牢』の部屋の四分の一程度。
床材はさっきまでと同じく白い石で造られているが、壁には洒落たツタと花の模様がついた壁紙が張られている。
部屋の中程にはフカフカそうな大きな丸いカーペットが敷かれ、そこに座り心地の良さそうな、いかにも高級そうな一人掛け用のソファーが一脚置いてある。
小部屋の右壁側にはこれまたいかにも上等そうなダークブラウン系の色味の小箪笥。
小部屋ん中はそれだけのものしかねぇが、ちょっとした休憩スペースとしてはかなり上等だ。
窓はなく、俺が今開けてる扉の真正面の壁にゃあまた一つ扉がある。
そして、その扉の脇に何かのスイッチが見えた。
ちらっと振り返って後ろを見てみりゃあ、俺がさっき開け放した扉の脇にも同じスイッチがあった。
俺は少し逡巡しつつも、思い切ってそのスイッチを押してみる事にした。
と──。
パッと何かの魔法みてぇに、部屋の中が一気に明るくなる。
さっきまでの淡く小さなオレンジ光をぎゅっと天井の一つ所に集めて大きくしたみてぇな、だけど意外にも柔らかいオレンジ色の明かりだった。
見れば部屋の天井、中央部に小型版のシャンデリアみてぇな洒落た感じの電灯(って言うのか?あれ)が下がって、オレンジの明かりをキラキラと辺りに反射させている。
こいつぁ中々……。
『牢』に入れられた罪人がいくら王族っつってもだぜ?
こいつはちょっと気を利かせすぎだろ。
確かに狭いのは狭いが、これじゃフツーにお貴族様のゲストルームだぜ。
まぁでも一応ここまでしてるって事は……。
俺は一つ見当をつけ、ひとまずアルフォンソを柔らかいソファーの上にそっと降ろす。
そーしてそのまま不自然に一つ置かれた小箪笥の前へ向かった。
明るい所で見ると、そいつが思った通り相当に上等なモンだって事が一目で分かる。
木の素材感もそうだが、引き出しの表面に草花モチーフの品のいい細かな彫り込みがされてるんだよな。
シャンデリアの明かりに照らされて、艶やかなダークブラウンの小箪笥がやたらに輝いて見える。
引き出しの数は全部で三段。
俺は躊躇いなく上から順に開けてってみる。
思った通り、中々どーして使えそうなモンがしっかり入っていた。
まず一段目には長方形に折り畳まれた地図と方位磁針。
麻の小袋に入った金に、小型の折りたたみ式ナイフ。
二段目は庶民感漂う服と、同じく庶民感漂う紺色のマント。
三段目はこれまた庶民感満載の靴が一足、だった。
ここで高級な絹の服からこいつに着替えて、目立たねぇ様に出ていけよ、とそういうこったろう。
金も逃亡者が持つにしても案外潤沢に入っている。
それに何より一番ありがてぇのが地図だ。
サッと広げて見てみると、何ともお優しい事に今のこの現在地らしい場所に赤い印が打ってある。
サランディール城からは、まぁまぁ割に離れている。
城下街からもちょっと外れた様な、郊外の森の中を少し奥へ進んだ辺りってトコか。
こっからならアルフォンソを背負ったまま移動しても、ガイアスん家まで三、四十分くらいで辿り着けそうだ。
──まだ、外は暗いはずだけどな。
念には念を押して、俺の着替えくらいはしてった方がいいだろう。
どう考えたってメイド服の女の子が男一人軽く背負って歩いてたら悪目立ちし過ぎるからな。
そう考えて、俺は引き出しに入ってた服と靴を拝借して、ついでに一段目に入ってた諸々の小物類も服のポケットに押し込んで上から自分の姿を確認する。
服も靴も、まぁまぁ地味めだがそう悪いこたぁねぇ。
それに見た目に反して着心地は結構良かった。
箪笥には一応女物も一揃いあったが……そいつはもちろんそのまま残しておいた。
俺はそれ以外に箪笥に一つ残った紺色のマントを手にアルフォンソの元へ向かう。
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