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二十二章 グラノス大統領

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ついでにジュードにゃ内々に話しておかなきゃならねぇ事もあるし、色んな意味で同室ってぇのは丁度いい。

んな事を思いつつソファの上でだらけていると。

「──……どういうつもりだ」

何の前置きもなしに、ジュードがそう問いかけてくる。

俺は一瞬何の事だか計りかねて──だがすぐに心当たりに行き着き、小さく肩をすくめて見せた。

ジュードは眉間にシワを寄せ、訝しみ半分、怒り半分に言ってくる。

「~サランディールの偵察、俺をレイジス様達から引き離してどうするつもりだ。
何か計り事があるなら言え!」

言った口調が荒々しい。

どーやらよっぽど不満があるらしい。

ま、そりゃそーか。

ジュードからしてみりゃ本来つくべきレイジスやミーシャの護衛を意味もなく外された上、何の義理もねぇこの俺の護衛なんかさせられるハメになったんだからな。

荒ぶるジュードの声に、ソファの下で俺と同じくだらけていた犬カバがビクッとしてふかふかの絨毯の上でビョッと一瞬跳ね上がる。

が、ジュードは一切気にしやしねぇ。

俺は仕方なく──って事もねぇが、とにもかくにも一つ息をついてジュードへ向けて口を開く。

「──計り事って訳じゃねぇけど。
もちろん理由ならあるぜ。
それも、とびっきりのやつがな」

言ってやるとジュードが心底ムカついてる様に俺を睨む。

俺はそいつを真っ向から見据えながら言う。

「俺とお前、二人でサランディールに潜り込んで、アルフォンソの事を探るんだよ。
アルフォンソが本当は生きてんのか死んでんのか。
もし生きてんならサランディールの表舞台から降りて、今一体どこで何をやってんだか。
俺とお前でそいつを探る。
その為に行くんだ」

きっぱりと迷いなくそう告げた俺に。

「なっ……」

「クヒ?」

ジュードと犬カバが揃って返してくる。

俺は手をひらりとさせながら言ってやる。

「もちろんレイジス達に言った通り、飛行条件の確認や城内の様子もキッチリ偵察するぜ?
けど、それとは別にアルフォンソの事も独自に調べてくる。
あの内乱の日、どうしてアルフォンソは王と王妃を手にかけたのか、本当の首謀者は誰だったのか。
何もかも全部、皆より先に解き明かして“皆にとって一番いい道“を探る。
前にも言ったけど……そういう道を探らねぇ限り、俺もお前も先に進めねぇよ。
ちゃんとレイジスとミーシャの味方になって、本腰入れてサランディール奪還に協力する気があるんなら、なおさらさ」

ちゃんと真剣にジュードへ向けて言う。

ジュードが俺を見る。

そーして少しの間を置いて、重たい口を開いた。

「……理由は、分かった。
だが、本当にそんな事が可能なのか……」

「可能かどーか、じゃなく、やる・・んだよ。
無理かどうかはやってみなけりゃ分からねぇ。
問題は、そうしてぇ気持ちがあるかないか、だ」

ミーシャと初めて出会った時、言われたセリフを挟んで言ってやる。

そう──無理かどうかはやってみなけりゃ、分からねぇ。

あの時一億の借金を返すなんてムリだ、と慌てて笑ったこの俺が借金を返し、飛行船を買い取る事が出来た様に。

アルフォンソの事だって、生きてても死んでても、ジュードが前へ進める足掛かりくらい掴めるかもしれねぇ。

そういう思いで言った先で、ジュードが黙して俺を見る。

そうして数秒の後──

「──分かった、」

と珍しく素直に頷いた。

「やろう」

言った声に、力強さが戻る。

俺は思わずぐっと拳を握って「おぅ!」と元気に返した。

もちろん犬カバも一丁前に「クヒッ」としっかり同意の声を上げる。

よーし、これで舞台は整ったな。

っと、そういや。

「そーいやさ、さっき会議でレイジスが言ってた百年前の盟約?
あれって一体何だったんだ?
そいつを果たすとか果たさねーとか。
皆何の事だか分かってる風だったけど」

ま、別に俺が知らなくったって問題なさそーなんだが、何となく気になって聞いてみる。

と、ジュードから思いもよらねぇ答えが返ってきた。

昔も昔──それこそ百年も前、このトルス国はサランディールの領地の一つだったんだそうだ。

その当時サランディール王家には仲のいい二人の兄弟がいて、兄貴はサランディール王に、そして弟は今のトルス国にあたる領土の領主になった。

兄貴は後に、弟の領地を完全に独立した国家として認め、そーして“トルス国“が出来たんだそうだ。

大統領制になったのはその後だ。

そしてそのトルス独立の際に交わされた盟約が、

『互いに困った事があり、助けを求められた時には必ずもう一方が助ける』

ってぇものだったらしい。

つまりはそいつがレイジスの言った『百年前の盟約』って訳だ。

そいつを聞いて──俺は一つ妙に腑に落ちる事があった。

サランディール城から、トルスへ伸びる地下通路。

フツー城から落ち延びる為に作る通路を隣国まで伸ばしたりしねぇだろ。

そんな事してどっちかのトップが“悪い企み“をした場合、その避難経路が絶好の攻め口になっちまう。

けど元々トルスがサランディールの一部だったってんなら……きっと当時の落ち延び先として“いい場所“だったんだろう。

サランディール王家では代々その地下通路の存在が伝わってたみてぇだから、きっと逆にトルスの代々の大統領達にも同じ様に通路の事が伝わってたんじゃねぇか?

よく今まで悪用もされずに両国共にいられたもんだ。

そいつを言うと、ジュードは「いや、」と一言前置いて──真顔でこんな事を言ってきた。

「──過去には何度かそういう事もあったそうだ。
だが、その時には必ず悪事を働こうとした側の国に『呪い』が降りかかるのだという」

言ってくるのに、俺は思わず

「呪いぃ?」

と声を返す。

ジュードが至って深刻そうな顔で、重たく頷いてくる。

その、思わぬ本気さに。

俺はしばらくの間を置いて──。

思わずプッと笑っちまった。

悪ぃとは思いつつ くくくと笑いながら「呪いが降りかかるって、お前、」とやっぱり笑っちまう。

「んなもんある訳ねぇだろ?
偶然起こった悪い事を人が勝手に呪いだの何だの言ってるだけでさ」

俺の足下じゃ犬カバまで「クヒヒヒヒ」と噛み殺し損ねた笑い声をあげているが……ジュードは至って真顔で「いや、」とはっきりと否定する。

「呪いは、絶対にある。
これまでに地下通路を使って相手国に攻め入ろうとした王や大統領は悉《ことごと》く不慮の事故や病で亡くなっている。
そういった年には必ず大きな災害や、おかしな事・・・・・が起こっているしな。
そもそもお前の家がある旧市街もそう・・だろう」

「ああ?旧市街って……」

思わぬ所を出されて問いかける──と、ジュードが真面目くさった顔のまま言ってくる。

「あの辺りはその『呪い』に遭った為に一夜にして突然住民達が消えたという話だ。
サランディールにもそういった場所がある。
あれが呪いじゃないというなら、一体何なんだ?」

重たく問う口調で言われて、俺は口をへの字に曲げる。

しぃんと静まりかえって、ほとんど人が寄り付かねぇ旧市街の街並み。

住民がある日突然ふっとどこかへ消えちまったような、あの妙な家の中の様子……。

確かに『呪いに遭っちまったんだ』と聞かされりゃあ、そう思いたくなる気持ちも分からないじゃねぇが……。

思いつつ犬カバの方へ視線を向けると、犬カバが動揺した様に黒目を揺らし、ジュードの話に聞き入っている。

……どーやら、ジュードの本気の声に完全に飲まれちまったみてぇだ。

俺はポリポリと頬を掻く。

……まぁ、真実はどーあれ。

今回に関して言やぁ、トルス国はレイジスのサランディール奪還に協力してくれるってんだ。

呪いだの何だのが絡む余地はねぇ。

だったらそれで、いいじゃねぇか。

結局俺はジュードの問いかけには答えず(正確には答えられず、だが)ちょっと肩をすくめてその場をやり過ごしたのだった。
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