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二十一章 協力者達
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そう思うが故に……「……は、」と返した短かな返事は、自分で思うより弱々しく、情けのない声だった。
マリーはそんなジュードの返事に少し悲しげな顔をして──そうして少し遠慮がちに言葉を足した。
「きっと、リッシュ様なら。
騎士様のご相談にも乗ってくれますわよ。
きっと一緒に騎士様にとって一番いい方法を考えて下さると思います。
だってリッシュ様は、ものすごいカリスマさんでいらっしゃるんですもの」
にこっと笑って、何の衒《てら》いもなくそんな事を言ってくる。
そのきっぱりとした飾りのない言葉に。
ジュードは思わず目を瞬いて──そうしてここしばらくでは久々に、ふっと小さく笑ってしまった。
マリーがそれに明るくにこっと微笑んでみせる。
どうやら彼女は心の底からリッシュの事を信頼しているらしい。
一片の疑いもなく。
ジュードの心にじんわりと温かなものが込み上げた。
それは『懐かしさ』だったのかもしれない。
「──……お気遣い、感謝します。
少し……考えてみます」
懐かしさに絆《ほだ》される様に言うと……マリーが明るい笑顔で「はいっ」と一つ返事する。
「きっといい様になりますわよ」
心からそう信じて言っている様なその言葉に──……ジュードは優しく微笑んでそれに返したのだった──。
◆◆◆◆◆
次の日の夕刻──。
俺は色々と考え事をしながら、飛行船を隠してあるあの洞窟へ向かって歩いていた。
つってもそこに行こうと思って歩き進めてたって訳じゃなく、考え事しながら歩いてたらいつの間にかそのルートを通ってたってな訳だが。
俺の足元にはいつもどーり犬カバがとてとてとくっついてきている。
ただ単に散歩のつもりで出てきただけだからミーシャはいねぇ。
だから俺は存分に一人で考えに耽る事が出来た。
サランディール奪還の事──。
ヘイデンから聞いた、サランディールの協力者の話。
副操縦士をやるって言い出したゴルドーの事。
明日会いに行く予定のグラノス大統領との対話。
何かを思い詰めまくってるジュードの様子……と、考え事は尽きなかったが、その中でも俺が最も気にしていたのは、
「……ミーシャとの事、ちゃんと早ぇうちにレイジスの兄貴に言っておきてぇんだけどなぁ」
だった。
まぁ今の今考えなくちゃならねぇ事でもねぇし、んな事今考えてるなんて知れたらゴルドー辺りに『浮ついてんじゃねぇぞ、コラァ』とか何とかドヤされそうだが。
けど、俺にとっちゃあ大問題だぜ。
結局昨日はあの後、んな話をするってぇ雰囲気でもなくなっちまったからレイジスに言えずじまいになっちまったしよ。
こーゆー事は早めにキッチリ話しとく方がいいんだけどなぁ……。
なんて悩みながらの俺の呟きに犬カバが「クヒ」と一言返してくる。
『ま、気にすんな、そのうち言えるだろ』とでも言ってるみてぇな感じだ。
俺ははぁ~っと大きく息をついた。
そーして正面へ目を戻した……ところで。
洞窟の戸を隠す緑のカーテンの前で──茫然と立ち尽くすある一人の男の姿が目に入った。
茶金色の短髪。
いつも通りに腰に穿いた剣。
こっからじゃその後ろ姿しか見えねぇが……そいつが誰なのかはすぐに分かった。
「……おい、ジュード」
一言声をかけてやると、そいつが……ジュードがスッと俺の方を振り返る。
ジュードにゃあにつかわしくもねぇ、ちょっとぼんやりとした、うわの空みてぇな顔つきだ。
昨日マリーを宿まで送って戻ってきた時も、おんなじ様な顔をしてたが……。
俺は思わず口をへの字に曲げて、一つ肩をすくめて見せる。
「……なんだよ、どーしたんだ?
んなところでボーッと突っ立ってよ。
飛行船でも見に来たのか?」
問う。
ジュードは「……いや」と一言、否定ともそうじゃねぇとも取れる曖昧な返事を寄越した。
そーしてらしくもなく目を伏せ、言う。
「……どうなのだろうな。
考え事をしながら歩いていたら……いつの間にか、ここへ来ていた」
んな事を言ってくる。
行動だけ見りゃあ 俺と同じだな、奇遇だな、で話が終わるとこだが、んなに単純じゃねぇのはジュードがこうも“ぼんやり“してるせいだ。
俺はちらっと足元の犬カバへ目線をやる。
犬カバもこっちを見上げてきた。
ジュードの様子のおかしさは、どーやら犬カバにもしっかり伝わっちまってるらしい。
俺は一つ肩をすくめて「へぇ」とジュードに返し、そのままジュードの脇を追い越して緑のカーテンをサッと片手で上げる。
もう一方の手でズボンのポッケに入れてた洞窟の戸の鍵を取り出し、ジャラリと軽く掲げた。
「ま、い~や。
せっかくここまで来たんだ、ちょっと入ってけよ。
茶もな~んもねぇけど、ここでいつまでもボーッと突っ立ってるよかマシだろ?」
言うと……ジュードが“ぼんやり“のまま陰鬱そうに俺を見つめた──。
◆◆◆◆◆
洞窟ん中は当たり前ながらいつもとなんら変わりなかった。
洞窟内を照らす電気の明かり。
その明かりの中央で燦然と輝く飛行船。
そして静寂。
ジュードは変わらず陰鬱そうで……俺はその重苦しい空気を払拭する為に「さぁてと、」と至って明るく声を上げた。
「んじゃあせっかくだから今日も飛行船の整備に勤しむとしますかね。
犬カバ、お前も手伝ってくれんだろ?」
軽い調子で問いかけると、犬カバが「キュッ」と一言澄まして答える。
もちろん当たり前だ……ってな訳だろう。
俺はそいつにニヤリと笑って未だにぼんやりしているジュードの方へも声をかける。
「お前にも手伝ってもらうぜ。
どーせそのままボーッと突っ立ってるだけだろ?
だったらダルクの供養とでも思って、あいつの大事にしてた飛行船の整備、手伝ってくれよ。
ダルクもきっと、喜ぶと思うしさ」
言うと……ジュードが眉を寄せたまま……それでも一応は目線を上げ、俺の方を見てくる。
俺は一つ息をついて口の両端を上げてみせた。
もしかしたら……俺の意思に反して、ほんの少し弱々しい笑みに、なっちまってたかもしんねぇ。
それでも促すようにジュードを見つめ続けると……少しの間を置いてジュードから
「……分かった」
と短く返事が返ってくる。
視線はサッと外され、ま~た下を向いちまったが……俺は気にせずニッ、と笑ってそいつに応えたのだった。
◆◆◆◆◆
「~あーっと、そこの小さいレンチ取ってくれ。
右から三番目の……ああ、それそれ」
ジュードが『これの事か……?』と戸惑いながら渡してきたレンチをもらい、俺は鼻歌まじりにいつもの手順で飛行船の整備を進めていく。
大きな部品や小さな部品、複雑に繋がれたコード。
果てはナットやボルトまで。
どっかがほんの一ミリでも緩んでりゃあきちんと締め直し、部品の一部にほんの微かなキズが入ってりゃあ補修してやったり新しい部品に変えてやったりと作業は中々に果てしねぇ。
地上と上空とじゃ気圧も気温も全然違うからよ。
地上じゃこんくらい何ともねぇやっていう様な小さな問題でも、上空に上がった途端に気圧やら気温の変化によってそいつが致命的とも言える大問題になっちまう……なんて事は多々ある。
飛行船の事故なんて言やぁ、火災や墜落ってなイメージが強いが、『たった一つの部品のほんの小さなキズ一つ』のせいで飛行船が空中で粉々に分解……なぁんて事も過去の事例としてはいくつもある。
まぁ今んとここのダルクの飛行船じゃそーゆー事は起こらなかったみてぇだが。
マリーはそんなジュードの返事に少し悲しげな顔をして──そうして少し遠慮がちに言葉を足した。
「きっと、リッシュ様なら。
騎士様のご相談にも乗ってくれますわよ。
きっと一緒に騎士様にとって一番いい方法を考えて下さると思います。
だってリッシュ様は、ものすごいカリスマさんでいらっしゃるんですもの」
にこっと笑って、何の衒《てら》いもなくそんな事を言ってくる。
そのきっぱりとした飾りのない言葉に。
ジュードは思わず目を瞬いて──そうしてここしばらくでは久々に、ふっと小さく笑ってしまった。
マリーがそれに明るくにこっと微笑んでみせる。
どうやら彼女は心の底からリッシュの事を信頼しているらしい。
一片の疑いもなく。
ジュードの心にじんわりと温かなものが込み上げた。
それは『懐かしさ』だったのかもしれない。
「──……お気遣い、感謝します。
少し……考えてみます」
懐かしさに絆《ほだ》される様に言うと……マリーが明るい笑顔で「はいっ」と一つ返事する。
「きっといい様になりますわよ」
心からそう信じて言っている様なその言葉に──……ジュードは優しく微笑んでそれに返したのだった──。
◆◆◆◆◆
次の日の夕刻──。
俺は色々と考え事をしながら、飛行船を隠してあるあの洞窟へ向かって歩いていた。
つってもそこに行こうと思って歩き進めてたって訳じゃなく、考え事しながら歩いてたらいつの間にかそのルートを通ってたってな訳だが。
俺の足元にはいつもどーり犬カバがとてとてとくっついてきている。
ただ単に散歩のつもりで出てきただけだからミーシャはいねぇ。
だから俺は存分に一人で考えに耽る事が出来た。
サランディール奪還の事──。
ヘイデンから聞いた、サランディールの協力者の話。
副操縦士をやるって言い出したゴルドーの事。
明日会いに行く予定のグラノス大統領との対話。
何かを思い詰めまくってるジュードの様子……と、考え事は尽きなかったが、その中でも俺が最も気にしていたのは、
「……ミーシャとの事、ちゃんと早ぇうちにレイジスの兄貴に言っておきてぇんだけどなぁ」
だった。
まぁ今の今考えなくちゃならねぇ事でもねぇし、んな事今考えてるなんて知れたらゴルドー辺りに『浮ついてんじゃねぇぞ、コラァ』とか何とかドヤされそうだが。
けど、俺にとっちゃあ大問題だぜ。
結局昨日はあの後、んな話をするってぇ雰囲気でもなくなっちまったからレイジスに言えずじまいになっちまったしよ。
こーゆー事は早めにキッチリ話しとく方がいいんだけどなぁ……。
なんて悩みながらの俺の呟きに犬カバが「クヒ」と一言返してくる。
『ま、気にすんな、そのうち言えるだろ』とでも言ってるみてぇな感じだ。
俺ははぁ~っと大きく息をついた。
そーして正面へ目を戻した……ところで。
洞窟の戸を隠す緑のカーテンの前で──茫然と立ち尽くすある一人の男の姿が目に入った。
茶金色の短髪。
いつも通りに腰に穿いた剣。
こっからじゃその後ろ姿しか見えねぇが……そいつが誰なのかはすぐに分かった。
「……おい、ジュード」
一言声をかけてやると、そいつが……ジュードがスッと俺の方を振り返る。
ジュードにゃあにつかわしくもねぇ、ちょっとぼんやりとした、うわの空みてぇな顔つきだ。
昨日マリーを宿まで送って戻ってきた時も、おんなじ様な顔をしてたが……。
俺は思わず口をへの字に曲げて、一つ肩をすくめて見せる。
「……なんだよ、どーしたんだ?
んなところでボーッと突っ立ってよ。
飛行船でも見に来たのか?」
問う。
ジュードは「……いや」と一言、否定ともそうじゃねぇとも取れる曖昧な返事を寄越した。
そーしてらしくもなく目を伏せ、言う。
「……どうなのだろうな。
考え事をしながら歩いていたら……いつの間にか、ここへ来ていた」
んな事を言ってくる。
行動だけ見りゃあ 俺と同じだな、奇遇だな、で話が終わるとこだが、んなに単純じゃねぇのはジュードがこうも“ぼんやり“してるせいだ。
俺はちらっと足元の犬カバへ目線をやる。
犬カバもこっちを見上げてきた。
ジュードの様子のおかしさは、どーやら犬カバにもしっかり伝わっちまってるらしい。
俺は一つ肩をすくめて「へぇ」とジュードに返し、そのままジュードの脇を追い越して緑のカーテンをサッと片手で上げる。
もう一方の手でズボンのポッケに入れてた洞窟の戸の鍵を取り出し、ジャラリと軽く掲げた。
「ま、い~や。
せっかくここまで来たんだ、ちょっと入ってけよ。
茶もな~んもねぇけど、ここでいつまでもボーッと突っ立ってるよかマシだろ?」
言うと……ジュードが“ぼんやり“のまま陰鬱そうに俺を見つめた──。
◆◆◆◆◆
洞窟ん中は当たり前ながらいつもとなんら変わりなかった。
洞窟内を照らす電気の明かり。
その明かりの中央で燦然と輝く飛行船。
そして静寂。
ジュードは変わらず陰鬱そうで……俺はその重苦しい空気を払拭する為に「さぁてと、」と至って明るく声を上げた。
「んじゃあせっかくだから今日も飛行船の整備に勤しむとしますかね。
犬カバ、お前も手伝ってくれんだろ?」
軽い調子で問いかけると、犬カバが「キュッ」と一言澄まして答える。
もちろん当たり前だ……ってな訳だろう。
俺はそいつにニヤリと笑って未だにぼんやりしているジュードの方へも声をかける。
「お前にも手伝ってもらうぜ。
どーせそのままボーッと突っ立ってるだけだろ?
だったらダルクの供養とでも思って、あいつの大事にしてた飛行船の整備、手伝ってくれよ。
ダルクもきっと、喜ぶと思うしさ」
言うと……ジュードが眉を寄せたまま……それでも一応は目線を上げ、俺の方を見てくる。
俺は一つ息をついて口の両端を上げてみせた。
もしかしたら……俺の意思に反して、ほんの少し弱々しい笑みに、なっちまってたかもしんねぇ。
それでも促すようにジュードを見つめ続けると……少しの間を置いてジュードから
「……分かった」
と短く返事が返ってくる。
視線はサッと外され、ま~た下を向いちまったが……俺は気にせずニッ、と笑ってそいつに応えたのだった。
◆◆◆◆◆
「~あーっと、そこの小さいレンチ取ってくれ。
右から三番目の……ああ、それそれ」
ジュードが『これの事か……?』と戸惑いながら渡してきたレンチをもらい、俺は鼻歌まじりにいつもの手順で飛行船の整備を進めていく。
大きな部品や小さな部品、複雑に繋がれたコード。
果てはナットやボルトまで。
どっかがほんの一ミリでも緩んでりゃあきちんと締め直し、部品の一部にほんの微かなキズが入ってりゃあ補修してやったり新しい部品に変えてやったりと作業は中々に果てしねぇ。
地上と上空とじゃ気圧も気温も全然違うからよ。
地上じゃこんくらい何ともねぇやっていう様な小さな問題でも、上空に上がった途端に気圧やら気温の変化によってそいつが致命的とも言える大問題になっちまう……なんて事は多々ある。
飛行船の事故なんて言やぁ、火災や墜落ってなイメージが強いが、『たった一つの部品のほんの小さなキズ一つ』のせいで飛行船が空中で粉々に分解……なぁんて事も過去の事例としてはいくつもある。
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