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二十一章 協力者達

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ゴルドーがいつになく鋭い眼差しでレイジスを見下ろし睨みつけるが、一つも効いた様子がねぇ。

口を開いたのはゴルドーだった。

「……おい、てめぇ。
てめぇがサランディールの第二王子か」

質問ってぇよりは、どうやら確固たる確信を持って出された言葉、みてぇだった。

どーゆーつもりかしんねぇが、ドスもかなり効いている。

今はビミョーな立場とはいえ、レイジスみてぇな王子サマに一介の商人ごときがかけていい言い様じゃあねぇ。

フツーの王子なら怒り狂うなり何なりする所、なんだろーが……。

レイジスは違っていた。

至って平静に──むしろやんわりとした穏やかな声で返す。

「ええ。
サランディールのレイジスといいます。
あなたは?」

どっちが身分が上でどっちが年上だよって思わず突っ込みたくなっちまう程、しっかりと礼儀正しい大人の対応だ。

にも関わらずゴルドーはレイジスの問いかけを無視してレイジスからミーシャ、そして俺までをも見渡し、まったく別な事を口にする。

「~てめーら揃って飛行船使ってサランディールに殴り込みかけに行くつもりらしいじゃねぇか。
ヘイデンの野郎から聞いたぞ」

言ってくるのに──……俺は思わず怪訝な顔でゴルドーと、呆れ顔のままそのゴルドーを少し離れた所から“見て“いるヘイデンの顔を見た。

『殴り込み』ってぇ言葉の選び方にもツッコミどころはあるんだけどよ、それより何より。

何でヘイデンがその事知ってんだよ?

そもそも俺がレイジスのサランディール奪還を手伝うって決めたのは昨日の事だし、ヘイデンにゃあその事も伝えてねぇ。

いずれそーいう事になるだろうって予測くらいは立つにしても、このゴルドーの言い方じゃ、どーやらそーゆーアバウトな見立てで告げた訳でもなさそうだ。

と、訝しみながら隣のミーシャを見ると、ミーシャが俺の視線に気がついて──そーしてちょっと訳知り顔で、俺を見た。

そいつに俺はミーシャから、チラリとヘイデンの方へ視線を転じてみた。

そーして確信する。

ミーシャがヘイデンに話を通してたのか。

俺がレイジスに協力しようと決めた事や、それに飛行船を使うと決めた事を。

そーして訳を知ったヘイデンが、ゴルドーに話しちまった、と。

……まぁ、意外ではあるが。

考えてみりゃあヘイデンとゴルドー、それにシエナは、なんだかんだ言っていつもちゃんと情報共有してんだよな。

俺がゴルドーから一奥ハーツの借金をしてそいつを何に使い込んだか、とか、そーゆーどーでもいい話とかまでさ。

とにもかくにも、だ。

レイジスが──ゴルドーからヘイデンへ視線を転じる。

どーやら説明を求めたらしい。

ヘイデンは深く息をついて口を開いた。

「──この男は、この街のカフェやカジノの経営をしているゴルドー商会のゴルドーだ。
今リッリュが所有する飛行船造りには、この男も携わっていた。
飛行船についての知識と技術は一流だ」

ヘイデンの簡潔な説明に、レイジスがなるほど、とばかりに頷く。

……いや、待てよ。

そいつが確かなのは俺にも分かるが、まさか──。

嫌~な予感が頭をよぎる中──……ゴルドーがドンッと自分を自分の親指で指し、言ってくる。

「サランディール奪還時の飛行船には、この俺サマが同乗してやる。
副操縦士・・・・としてな」

言ってくるのに……俺は思わず一瞬、呆気に取られちまった。

「クヒッ!?」

っと犬カバが俺の足元でビビった様にビョンッと小さく一つ跳ね上がる。

そいつに俺は思わずハッとした。

ヤベ……今一瞬頭が真っ白になっちまってた。

俺は正気を取り戻す為にぶるぶると頭を振ってゴルドーへ向かって立ち上がりながら抗議する。

「~はっ……はぁ?!
副操縦士だぁ?!
いらねーよ、んなもん!」

本気の本気でそう言うと、ゴルドーの野郎が『バァンッ!!』とテーブルに片手をつき「なんだと、コラァッ!!」とすんげぇ剣幕で怒ってくる。

目の前でテーブルを叩かれ、大声で怒鳴るゴルドーに、レイジスが目をまあるくしてゴルドーと俺を見る。

が、俺もゴルドーも気にしやしねぇ。

「この俺サマがわざわざやってやるっつってんだ!
断る理由がねぇだろーが!!」

「あるに決まってんだろ!!
空の上でも横で んなにギャーギャー言われたらまともに操縦なんか出来ねぇってーの!!」

「ギャーギャーなんか言ってねぇだろーが!!」

「言ってんだろ!!」

文字通りギャーギャーやり合ってると──ヘイデンが大きく一つ咳払いしてみせた。

そうして珍しく一喝する様に「二人共やめないか!」と声を上げる。

そいつに……俺もゴルドーも、思わずそのままピタッと止まっちまう。

ただし、すぐに睨み合う事だけは再開したが。

ヘイデンが大きく深く息をつく。

やれやれとでも言いたげだが、これって明らかに俺のせいじゃねぇだろ。

大体 副操縦士なんて発想、一体どっから生まれたんだっての。

ぶうたれながら思ったそいつを読まれたのか──……ヘイデンがもう一つ息をついた。

そーしてレイジスとミーシャには「見苦しい所をお見せし、申し訳ない」と軽く詫びつつ、だが、と言葉を続ける。

「ゴルドーの話……ゴルドーが手前勝手に言っているだけの話ではない」

はっきりと、そう告げてくる。

俺は反論しようと口を開きかけたがヘイデンはそれをさせなかった。

レイジスの方から視線をはっきりと俺に移し、言う。

「現実的に──少し考えれば分かる事だ。
おそらくサランディールまで何のトラブルもなくあの飛行船を飛ばしたとしても、丸一日はかかるまい。
だがその一日、気象や方角、地理地形、そして飛行船自体のコンディションなどにも気を配りながら、一分の見落としなくトラブルにも対処し、到着地まで確実に安全に一人で運行する事が出来ると絶対に言い切れるか?」

問われる。

俺はそいつに、思わず嫌~な顔で返しちまった。

ヘイデンが言った事……自信がねぇ訳じゃねぇ。

もちろん んな話が出るまでは、ヘイデンが今言った通りの事をフツーに一人でこなす気でもいた。

やれるか?と問われればやってやるさ!とタンカを切ってやる所でもある。

けど……。

“一分の見落としなく“

“確実に安全に“

“絶対に言い切れるか“

ヘイデンの、いつも通りの嫌味な問いかけを聞いちまうと、どーにも「出来る!」と突っぱね切れねぇ自分がいた。

決して不可能じゃねぇ。

パイロットの端くれとして、もちろん自信もある。

だが、“絶対に確実に“とは言い切れねぇ。

このずば抜けた頭の回転力と行動力、それに観察眼も勘も鋭い俺だが、それでも言っちまえばただの人間だ。

どんなに神経注いで気をつけていても、間違いや勘違いもすりゃあ時には失敗しちまう事だって十二分にあり得る。

人間、一人で出来る事には限界がある……ってこった。

だからうざったくってもうるさくても、俺が万一見逃しちまったもしも・・・の穴を見つけたり埋めたりする副操縦士をつけろ、と。

そーゆーこった。

そーしてそいつにゃあ飛行船の構造から操縦までしっかり全てを知り尽くしてるゴルドーのヤローをつけるべきだ……と。

思わず歯噛みしてヘイデンを睨む中──口を開いたのはゴルドーだった。

「……おい、ガキ。
俺はまだ“あの日の約束“を違えたつもりはねぇ」

ただその一言、言ってくる。

レイジスが「?」の表情でゴルドーと俺を見る。

「……あの日の、約束……?」

ミーシャも不思議そうに問いかけたが……俺もゴルドーもそいつには答えなかった。

俺には、ゴルドーの言った『あの日の約束』が一体何なのか──息をするくらい簡単に分かっちまった。
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