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二十一章 協力者達

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「きっとリッシュ様なら父からうまく内心を聞き出せると思いますわ。
反応が良ければその困り事を父に話して、悪ければそのままやめればいいんです。
レイジス様もご同行されてもいいとは思いますけれど……。
正体を隠しつつ父の前に現れるというのは少し難しいかもしれません。
他の人より頭一つ抜けて背が高くていらっしゃるし、その紺色のお髪も……。
きっと遠目でも父に勘づかれてしまうかもしれませんから……」

う~ん、と懸命に考えながら唸るマリーに……俺はふとある事を思いついてマリーへ向かって問いかけた。

「……なあ、マリー?」

「はい?」

マリーが首を傾げて返事する中、俺は問いかける。

「もし俺やレイジスが、他の誰にも内密で大統領と話が出来る様 場所や時間を取り計らって欲しいっつったら……マリーはそいつに協力してくれたりするか?」

じっ、と真剣にマリーの目を見つめ、問いかける。

マリーは……目をぱちぱちとゆっくり瞬いて──ほんのり頬を赤くしながら俺を見つめ返す。

そーして二、三秒程も置いてから──何かにハッとした様に「はっ、はいっ、もちろん!」といい返事をくれる。

「リッシュ様からのお願いでしたら、もちろん協力します!
喜んで!」

ぎゅっと胸の前に握り拳二つ作ってぐっと前のめりになりながら、言う。

俺はそいつに思わずくしゃっと笑って「ありがとう!」と礼を言う。

そーしてそのままレイジスへ顔を向けた。

「~だそうだぜ、レイジス」

ニヤッとしながら声をかけると、レイジスが苦笑する様に小さく俺に目端だけでうなづいた。

そーしてきちんとマリーへ向き直り、

「マリー嬢、」

と一言声をかける。

マリーがそいつに はっとしてこっちもきちんとレイジスへ向き直った。

「手間を取らせ申し訳ないが……どうか力をお貸し下さい」

「~はいっ、お任せ下さい!
きっと全て上手く行きますわ。
うちの父との会談も、レイジス様のお困り事も。
きっと全て、良い方に」

にこにこっと快活な笑顔でマリーが言うのに、俺もレイジスも微笑みで返す。

マリーにゃその“レイジスの困り事”が一体何なのか、俺らが大統領にどーゆー相談を持ちかけようとしてんのか分かるハズもねぇんだが。

マリーがこーやって笑顔で言うと、本当にそうなるよーな気がすんのが不思議だ。

~っと、それはともかく。

俺はふっと思い至って口を開く。

「そーいや、マリー。
さっき街でさ、親父さんから俺に何か伝言があるよーな事言ってたよな?
あれって一体何だったんだ?」

問いかける。

街でのマリーの様子からすると、そんなに重大な話題ってわけじゃなさそーだった。

侍女に咳払いされるまで伝言がある事自体忘れちまってたみてぇだし。

だから俺も、ごくごく軽~い気持ちで聞いただけだったんだが。

マリーはそいつに ああ、ってな感じでポンと自分の手で手を打って、やっぱり大した話じゃなさそーにやたらに大した伝言を告げる。

「そうそう、父からの伝言でした。
たぶんじきにリッシュ様のお耳にも届くと思うのですけど、先日父の──グラノスの所に、ノワール国王からお電話が一つ入ったそうなんですの。
私にもよく分からないのですけど、そのお電話?がリッシュ様が以前予想していた通りの内容だったらしくって。
リッシュ様にお会いするなら丁度いい、それを話のついでに伝えてくれって。
父は本当にご満悦で、さすがはリッシュくんだって、リッシュ様の事をものすごく褒めておりましたわよ」

どっちかってぇとノワール王からの電話の内容より、大統領が俺を褒めたってぇマリーの感想の方に話が持ってかれてるが……これって……。

「……ノワール王からの、電話……?
以前言っていた通りの内容って……?」

ミーシャが──もちろん『ダルク』としてだが──品よく眉を潜め、俺に問う。

俺はそいつに軽く説明した。

「ほら、こないだ人拐い事件について大統領やギルドのマスター連中との会議に俺、参加しに行っただろ?
そん時の話でさ……。
人拐いの仲買人が何度もトルスとノワールを往復してたってぇから、国境警備をちゃんと見直した方がいいって言ってやったんだよ。
結果、もし黒幕がノワールだかその宰相だかなら、買い付ける為の子達が急にノワールに届かなくなったら焦るだろ?
もしかしたら焦って、トルスがどーゆーつもりで国境警備を固くしたのか探る為に、向こうから連絡取ってくるかもしんねぇぜ……ってな話をしてたんだよ。
大統領んトコにノワールから電話があって、そいつが俺が前に予想してた通りの内容だったってんなら、たぶんその探りの電話、だったんだろーな」

事件はもう俺らの手を離れたし、今は大統領を始め、トルスの外交官やギルドの面々が解決への糸口を探ってくれている。

だから俺んとこにも、話のついでにマリーからこの話が伝えられただけだ。

そいつは今の俺にゃあありがてぇ限りだった。

ノワール王と、ミーシャ。

ノワールと、その地で聖獣なんて言われて狙われてた犬カバ。

どっちも出来る限りあの国から遠ざけといてやりてぇからな。

んな事を思いながら説明した先で、マリーがいつも通り「さすがはリッシュ様!」とめちゃめちゃに褒めてくれる。

「あの重圧感たっぷりの人達が集まる会議の中でそんなにすごい提案と先読みをされていたなんて!
父も申し上げておりましたけど、やっぱりリッシュ様は頭脳明晰で度胸もあるカリスマさんなんですのね!」

いっぺんの曇りもなくそう褒めちぎってくれるマリーに、俺はすぐにいい気分になって「いや~、そーかな?」と問い返す。

マリーがキラキラした眼差しで俺を見ながら「はいっ!絶対にそうですわ!」と迷いなく断言してくれる。

フッフッフッ。

やっぱこーも手放しで褒めちぎられるとやたらに気分がいいぜ。

思いながら浮かれていると。

コホン、とミーシャが一つ、どっかトゲのある咳払いをしてくる。

やっべ、調子に乗りすぎたか?とミーシャを見ると、鼻の下伸びてんぞとでも言わんばかりの冷ややかーなしら~っとしたミーシャの目と目が合った。

……いや、そー思ってんのかどーかは知らねぇが、目が冷ややかな事だけは確かだ。

マリーがそいつにきょとんと首を傾げてミーシャを見る。

俺の足元で犬カバが「クヒュ、」と呆れ混じりの声を漏らした。

そのいつにも増してのヘンな鳴き声は、明らかに食いすぎて丸々太りすぎてるせいだ。

俺は思わずムッとして足元の犬カバへ視線を送る。

犬カバが……こっちもミーシャの真似をして、わざと冷ややか~な目で俺を見返してきた。

ゔ……っ、くそ……。

なんかしんねぇが今はこの目に勝てねぇ……。

……ってか、俺がこんなに褒めちぎられる事なんてほんと滅多にないんだぜ?

ちょっとくらい浮かれたっていいじゃねぇか。

何も二人して んな冷てぇ目で見なくてもさ。

なぁんて心の中で言い訳してると──。

ふいに──レイジスがきちんと真面目な静かな声で、

「──……ノワールか」

ぽつり、呟く。

そいつは何か、深く物事を考えてる様な……そんな声、だった。

俺も──ミーシャも犬カバも、それにマリーも……その声に思わずレイジスの真面目な顔を見る。

大した反応もしねぇのは、この席についてから──いや、もっとずっと前から何かを深刻そうに考えてダンマリを決め込んでるジュードだけだ。

そいつに気づいて、ちっとは見られてる事に気づけよって意味で目をすがめてジュードをしばらく見てみたが、そいつにゃあ何の意味もなかった。

俺はちょっと肩をすくめて「そーいや、」と何気なく口を開く。

「サランディールの内乱の首謀者、セルジオってぇ宰相がノワールと内通してたみてぇな話があったよな。
ついこないだの山賊事件、人攫い事件、それに、犬カバを狙ったノワール貴族の件もそーだしさ、ノワールって国はどーしてこうあちこちの事件で名前が上がってくるのかね」

半分呆れ混じりに言うと、マリーが ぱん、と手を合わせて半ば興奮した様に言ってくる。
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