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二十章 レイジス

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「まぁあんたらも少しゆっくりしてここで待っておいで。
何しろうちの冒険者総出の捜索だからね、レイジスだろうがジュードだろうが、あっという間に見つかって連れてこられるだろうから」

シエナが言うのに、

「おう」

「……はい」

「クッヒー!」

俺らは三者三様に返事したのだった──。

◆◆◆◆◆

シエナの言葉通り──それから一刻と経たずして、

「リッシュく~ん!
ジュードのヤローを連れてきてやったぜ」

「レイさん、連れてきたわよ」

ラビーン、クアンと他の冒険者男衆、それに女冒険者たちの手によって、ジュードとレイジスが捕獲されてきた。

レイジスの方は女冒険者たちにある程度の話を聞いてきたのか至って平静に──むしろ周りの様子に感心した様に優雅に辺りを見渡しているが、ジュードの方は男共に有無を言わせずとにかく力ずくで連れてこられたらしい。

逃れようとするのを両脇からがっちり男冒険者たち数名に固められ、「~離せ!」だの「~一体何なんだ!」だの喚いている。

挙句にゃあドンッと男冒険者の一人に背を押され、半分バランスを崩しそうになりながら俺らの前に出された。

ジュードが怒り満点の顔を上げるのに、俺はポリ、と頬を掻きつつジュードを見る。

ジュードはここでようやく俺と、それにミーシャの存在に気づいたらしい。

ジュードが訝しさ半分、問いかけ半分の顔で俺へ顔を向けた。

その横へ──悠々とやってきたのはレイジスだ。

レイジスはまずはミーシャににこっと笑いかけて──続いて俺には、そっと穏やかな表情で向き合った。

その目の奥には、どこか、俺やミーシャがレイジスを探した(呼びつけた?)理由に見当をつけてる様な──そんな色が見える。

レイジスは表情と同じく至って穏やかな様子で口を開いた。

「リッシュくん、ダルクくん、それに犬カバくんも。
こないだぶりだな。
三人が俺とジュードを探していると聞いて来たんだが──……もしかして、前に言ってた例の件・・・について、答えが出たのかな?」

やんわりとした口調で、そう問いかけてくる。

ミーシャの事もしっかり『ダルク』として対応してくる所はさすがだ。

俺やジュードじゃ喉元まで『ミーシャ』のミの字くらいは出かかる所だが、レイジスは毛ほども んな様子を見せねぇ。

レイジスの穏やかな問いかけに、ジュードがハッとした様に息を呑むのが横目に入る。

俺は──ジュードの方へは敢えて目をくれず、目だけでレイジスにしっかりと頷いて返事する。

レイジスが、こっちもそいつに目顔だけで『そうか』っていう様に頷いてみせた。

その様子にだろう、事情を知らねぇラビーンとクアンが、

「おいおい、例の件って一体何だ?」

「答えって、何の答えだよ??」

レイジスの後ろからそれぞれに口を挟んでくる。

その二人の耳をぐいと引っ張って「はいはいはい」と声を上げたのは、女冒険者の内の一人だ。

「ジュードくんとレイさんを二人の元に連れてきたんだから、私達の役目は終わり!
余計な詮索はやめなさい」

「そうよ、そうよ」

と、こいつはまた別の女冒険者だ。

ちなみに、ラビーンとクアンの耳を引っ張ってる女の子、ごくごく軽~く弱い力で引っ張ってるよーに見えるが、実際は多分そうじゃねぇ。

「いででででで!」

「いだっ……いだだだだだ!」

ラビーンとクアンが揃って痛そーに声を上げる。

二人が大袈裟ってんじゃなく、女の子の力の方が見た目以上に強いらしい。

その証拠に引っ張られる二人の耳は、どっちも茹でダコ並みに真っ赤になっちまってる。

女の子は二人の耳を引っ張ったままぐりんと後ろへ──他の冒険者たちの方へ向き直った。

その、捻りを受けて。

「ぎゃ……っ!ででででで……」

「いだい……いだいよ゛~」

ラビーンとクアンが一層痛そうな声を上げたが。

女の子はそいつをもろともせず、(こっちからは見えねぇが恐らくは恐ろしいほどにっこりと)他の男冒険者達へ向けて微笑んでみせる。

「はい、任務完了ー!
解散!」

言うと──……

「お……おう……」

「わ……分かったよ……」

どっか気遅れした様子で冒険者達が散らばっていく。

ラビーンとクアンの耳を引っ張りながら状況を取り仕切った女の子は、最後にビッと二人の耳を下へ引く様にしてそっから手を離し、ついでに二人の背をバシッと叩いてギルドの出口へ向けて押し出した。

わりに体格のしっかりしたラビーンとクアンが、つんのめる勢いで前にコケそうになる。

俺はその姿に、思わず目を瞬いた。

と、その目線に気づいたのか、女の子が俺の方を振り返ってにこっと笑う。

「それじゃあまたね。
大切なお話があったんでしょう?
こいつらと冒険者の男共が邪魔したりしない様に私たちがよ~く見張っておくから、安心していってらっしゃいね」

そう、明るく優しく言ってくれてから「ほら行くわよ、」とこっちにはどーしよーもねぇやつに言う口調で言って、ラビーンとクアンをギルドの外へ押し出そうとしてくれる。

そいつに他の女の子たちも倣って、ある子はギルドに残り、ある子は元々ここに用がなかったんだろう男冒険者の一部をギルドの外へ追いやろうとするのを見て──。

俺は、レイジスやジュードを探してくれた皆へ向けて、

「──あのさ」

と、声をかけた。

皆がそれぞれに俺の方を振り返る。

俺は口を開いた。

「皆、忙しいハズなのに俺らの事を手伝ってくれて、ありがとう。
すげぇ助かったよ」

心からの気持ちで言うと──女冒険者や男衆、外へ追いやられそーになっていたラビーンとクアンまでもが揃ってきょとんとして俺の方を振り返る。

俺はそいつににっこり最高のスマイルで応えてみせた。

と──。

『ポッ』

と皆の顔が、何故か赤らんだ。

……まぁ、女の子達はこの俺のイケメンスマイルに対してだとして。

いくら俺が魅力的だっつってもよ、男衆やラビーン・クアンのやつまで顔を赤らめるってぇのは、こりゃ一体どーゆー事だ?

思わず首を傾げるのと同時に ラビーン・クアンを含む男衆が、みんな揃ってブンブンっと頭を振ったり自分の頬を両手で叩いたりする。

ますます訳が分からず首を傾げる……と。

男冒険者の一人が「い、いや……」と何でかテレテレしつつ……そいつを誤魔化すようにコホンと一つ咳払いして、言う。

「~まっ、また何かあったら言ってくれりゃあいいからよ。
俺らはいつでも、お前らの助けになるぜ」

そう言って──カリカリと頭を掻いて、今度こそギルドの外へ出る。

「俺もいつでも力になるからな」

「俺も俺も」

ここに『リッシュ』として初めにやってきた時とは明らかに違う、その男冒険者たちの態度に──俺は思わず隣のミーシャと、足元の犬カバに「?」の視線を送る。

送った先で、二人も俺と同じく「?」の視線で返してきた。

俺はカリ、と頭を掻きつつも……まぁいいかと思い直して、本題のレイジスの方へ口を開きかけたんだが……。

そのレイジスが、ものすげぇ切なそうな悲しそうな目で俺を見ているのに気がついた。

「~っと……レイジス?」
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