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二十章 レイジス
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しおりを挟むラビーンが何かの旗でも掲げる様にうおーっと片手を上へ振り上げると、
「「うおーーっ!!」」
一致団結した冒険者たちが鬨の声を上げてラビーンについていく。
おいおい……。
お前、んなカリスマ性あったのかよ?
それとも単に皆のリアへの想いが為せる技が強すぎるだけか?
「よーし、クアン隊も俺についてこい!
隅から隅まで徹底的に探して、リッシュくんとダルくんの役に立つぞ!!」
言ったクアンにも、クアン隊(??)が「「おーーっ!!」」と声を上げる。
……いや、俺は別に何でもいいんだけどよ、お前ら『クアン隊』でいいのかよ?
思いながらも呆気に取られたままその場に身を引いたまま立ち尽くしていると。
ラビーンとクアンが戸口んトコでこっちを振り返って、ニカッと笑ってウインク一つ寄越してきた。
俺らに任せとけって意味に違いねぇが、何だが一瞬背筋がゾクッとしちまったぜ……。
と……ギルド内にいた男冒険者共が全員ラビーンとクアンに引き連れられて行ってから──。
残ったのは俺、ミーシャ、犬カバとシエナ。
そして大いに呆れ顔で男冒険者たちを見送った、女冒険者たち数名だった。
自然、俺らは互いに目を合わせる。
と──女冒険者の一人が言う。
「──すごい人気だわね。
出遅れちゃった」
「リッシュくんとダルクくんは、ジュードとレイって男を探してるんだっけ?
私、あのレイって人がよく出没する場所知ってるよ。
あいつらのあんな勢いで探されたら、探される方はびっくりして逃げちゃうでしょ。
私らで探してあげるわよ」
「そうですね。
その方が良さそうな気がしますわ」
「じゃ、決まりって事で」
にこっと華やかに笑って、女の子たちが立ち上がる。
俺はさすがに「ああ、いや、」と声をかけた。
「んな、大捜索してもらうほどの事じゃねぇんだ。
あいつらはまぁ、リアの手前めちゃめちゃやる気出してくれてるけどよ、みんなにまでメーワクは……」
言いかける──と。
ちっちっち、と女の子の一人がピッと一本指を立てて横に振る。
「遠慮はダメよ。
っていうかメーワクでも何でもないし、好きでやるんだから」
「そうそ。
二人ともいい子だしイケメンだし、何かしてあげたいって思っただけよ」
ふふっと笑って、そう言ってくれる。
「~よし、じゃあ決まり。
二人はギルドで待っていて。
もしかしたらお探しの二人、ここに立ち寄るかもしれないし。
もし私らで見つけたらここへ連れてきてあげるから」
「お……おう、」
それ以上断る理由も思いつかず、戸惑いながらもそう言うと。
女冒険者は『任せておいて』と言わんばかりに俺とミーシャへ向けてウインク一つして、こちらもそのままぞろぞろと戸口の方へ向かう。
──と、俺から少し離れた所からミーシャが、
「──ありがとう、」
皆に向かってそう言う。
女冒険者たちはそいつに振り返って、にっこり笑った。
そうして今度こそそのまま戸を開け、外へ出ていく。
そしてとうとうこの場に残ったのは、俺とミーシャと犬カバ、そしてシエナの四人だけになった。
シエナが──俺の方を見て「それにしても、」と口を開く。
「──リアに双子の弟がいたとは驚いたよ」
たった一言、ちくりと言う。
俺は思わず「う゛っ、」と一つ唸ってみせた。
ミーシャが「ごめんなさい」と謝ったが、シエナはミーシャには優しく「あんたが悪い事は一つもないよ」と口にして、代わりに俺には半眼をくれた。
「本当にあんたってやつは。
私はどうなっても知らないよ。
女の子達はいいとしても、あの男共。
もし本当の事が知れたらあんた大変な事になるよ?
この子まで巻き込んで……」
「……わ、分かってるよ」
お説教が長く続きそうだったんでそう言うと、シエナは両手を腰に当てて俺に向かって言ってくる。
「もしあんたの事が世間からバレる時が来たら、私は徹底的にこの子を守らせてもらうからね。
悪いのは全部あんたで、『ダルク』はあんたの嘘に渋々付き合う羽目になっちまっただけなんだから」
「……へ~い」
わざわざ『渋々』の部分を強調して言ってくるシエナに、俺はそう返事する。
シエナは『本当に分かってんのかね?』って言わんばかりに俺を見たが、俺はカリカリと頭を掻いて視線を横に逸らした。
シエナは大きく息をつきながら肩をすくめる。
そーして「ところで、」と話を変えてきた。
「ジュードとレイ……レイジス、だっけ?あの二人に用があるなんて珍しいじゃないか。
それも、わざわざあんたらの方から探しにくるなんてさ。
何か重要な用件でもあったのかい?」
ごくごく普通に問いかけてくる。
そいつに。
ミーシャが思い詰めた表情で「──あの、」とシエナを真っ直ぐに見て口を開く。
おそらくシエナも予想外の深刻そうな眼差しに──面食らったんだろう、シエナが目をぱちぱちさせてミーシャを見た。
そんな中──
俺は「あ~……」と口にしながら頭を掻いた。
そーしてごくごく軽~い調子で言う。
「──俺、レイジスのサランディール奪還を手伝う事に決めたんだ。
その為に『ダルクの飛行船』にも、一肌脱いでもらおうと思ってる。
まぁ、レイジスの方でこいつはちょっと使えねぇかなってなりゃあ話は別だけど。
そいつを見定めてもらう為に二人に会って、直接飛行船を見てもらおうと思ってさ。
そーゆう訳だよ」
言うと──シエナが最初は少し驚いた様に、だけど次第に納得した様にゆっくりと大きく頷いた。
「──そうかい。
あんたはそう、決めたんだね」
しみじみと──シエナが言う。
言ったのはたった二言だったが、そこにゃあたくさんの感情って言やぁいいのか、想いって言やぁいいのか、そういうもんが詰まってる……様な気がした。
けど、そこに責める口調はねぇ。
その証拠にミーシャが再び「……ごめんなさい」と頭を垂れて謝るのに、シエナはそっと笑って言う。
「──いいんだよ。
あんたが謝る必要は、何にもない。
ダルクの作ったあの飛行船が、たくさんの人の役に立つんなら──サランディールの、たくさんの人を救う手助けになるんなら、飛行船だって本望だろうさ。
きっとダルクだって……生きていたら同じ事を考えて、同じ事をしただろうさ」
そう、ミーシャに言う。
その言葉は──ミーシャにだけじゃなく、半分俺にも宛てて言っている様な──そんな言葉みてぇに思えた。
実際に──ダルクが生きていたら、本当に今の俺と同じ事を考えて、同じ事をしようとしたかどうかは、分からねぇ。
もしかしたら『そんな事には使わせねぇ!』って大憤慨して、飛行船を使わせてくれようとはしなかったかもしれねぇ。
けど。
──シエナの言う通りだったら、いいな。
じんわりと、そんな事を思った。
『サランディールとは因縁があったが、レイジスやミーシャ、それに圧政に苦しんでるっていうサランディールの人達をこのままにしとく事は出来ねぇだろ』
『仕方がねぇから、俺の飛行船を使わせてやるよ』
そう言ってくれりゃあいい……なぁんて んな事を考えんのは、ムシが良すぎか。
ダルクが生きてたら、ダルクならどう考えたか、なんて実際のところは分からねぇ。
ゴルドーの言った通り──……俺は自分の頭で考えて、決断して、自分が正しいと思う道を進むしかねぇ。
例えあの世でダルクにめちゃめちゃ怒られて、恨まれる様な事に、なったとしても。
「キュヒ、」
いつの間に来てたのか──俺の足元から俺を見上げて、犬カバがそう、一鳴きする。
まるで『大丈夫だ』とでも言ってるよーな、自信たっぷりの悠長なその口調と顔に。
俺は思わずちょっと笑って、そいつに応えた。
あ~あ、まったく。
犬カバに元気づけられるたぁ、俺もまだまだだぜ。
シエナも犬カバの『元気づけ』にだろう、ふっと笑ってみせた。
そーして言う。
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