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十六章 再会

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実際──その気持ちもあるんだろう。

レイジスは最初に基本的には・・・・・俺やリアの悲しむよーな事はしたくねぇんだと言っていた。

そして最後に今の話を踏まえた上で・・・・・・・・・・答えろって。

だから──例えば俺がここで、ダルクの飛行船は んなに大層な代物じゃねぇ、出来る事と言やぁ空の上にぷかぷか浮いて、多少動きをコントロールして、まったりした空の遊覧飛行を楽しむ事くらいのモンだ、とそう答えれば、レイジスはそれで納得してくれる気……なんじゃねぇか?

レイジスは、自分の計画に飛行船を利用した時、俺や飛行船がその計画に巻き込まれる事を分かっている。

俺に何かあればリアが悲しむ。

実際は違うが、少なくともレイジスはそう信じている。

だから、飛行船を んな事に使われたくねぇと思うならそう言え、そう聞けば手を引く──って──……。

そういう事を、レイジスは俺に言ったんだ。

俺は──喉をこくりと一つ鳴らす。

ミーシャの言葉が脳裏に蘇った。

『──ダルクさんは、サランディールと関わった事で命を落としてしまった。
ヘイデンさんが私に仰ったのと同じ様に、ジュードが飛行船を利用しようと考えないとは限らない。
私はそれが心配なの』

あの時はまさかレイジスが生きていて、ジュードの名が『レイジス』に取って代わるなんて思いもしなかったが……。

その時のミーシャの考え自体は、的を得てたって訳だ。

俺は──答えを出そうと、口を動かしかけた。

ミーシャは、たぶん俺の答えに反対するだろう。

もしかしたら、心配だってさせるかもしれねぇ。

だけど──……。

もしレイジスに協力して、レイジスがきちんと無事にサランディールを奪還出来たら──……。

きっとサランディールはレイジスの手によって、元通りの平和な国に戻るだろう。

今みてぇにミーシャやレイジスが素性を隠して暮らす必要もなくなる。

それに、今の話ならレイジスたちがサランディールを奪還するのに国境を越える際──いや、もしかしたら城まで、かもしれねぇが……飛行船でただ送ってやりゃあいいだけの話だろ?

そこにミーシャやヘイデンが言う様な危険は何もねぇ。

だから──と答えの始めの一音を、出しかけたん……だが。

ふいに──昔のダルクが言ったあの一言が、俺の脳裏によぎった。

『~ざけんな!
こいつをなんだと思ってる!
俺は んな事の為にこいつを作ってる訳じゃねぇ!!』

そいつは俺のド頭から足の先までを雷の様にビリリと流れて止まらせた。

舌が痺れたみてぇに、言葉が出ねぇ。

ピタッと止まっちまった俺の動きに、レイジスは気づいたんだろう。

じっくりと俺の次の言葉を待ってから──ふっと深く、息をつく。

「──答えはまた今度ゆっくりと聞かせてくれ。
君の人生の、命運を分けるかもしれない答えだ。
後悔しない様に」

レイジスがやんわりとそう告げる。

俺は──そいつに俯いて、何も反応する事が出来なかった。

どういう気持ちでかは分からねぇが、ジュードが俺を見るのが分かる。

レイジスは「さて、」と明るくもう一声上げる。

「そろそろ街も近い。
ここから先は俺とジュードで帰れそうだ。
道案内、ご苦労だったね、リッシュくん」

にこにことしてんのが、見てもいねぇがよく分かる。

ポンッと俺の肩に乗せた手は、温かく大きい。

さっきまでの真剣な話なんか、一ミリもしてなかったみてぇな風だ。

切り替えが早いっつーか何つーか……。

まぁけど、不思議と悪い気はしねぇんだよな。

俺は曖昧に笑って、レイジスの顔を見上げてみせる。

レイジスはそれに何だか一瞬ハッとして、そのまま悲しそうな切なそうな顔をしたんだが……。

まぁ、どうせまた俺とリアの姿でもダブって見えたか、そうでなくてもリアを思い出しちまったんだろ。

目の端にちょっぴり涙が浮かんだ様な気もしたし。

俺はとりあえずそいつを見なかった事にしてやる事にした。

と──レイジスが、ちょっと何かを考える様に虚空を見上げる。

そうしてそのまま顔を俺に向けた。

「そうそう、君に言っておく事がもう一つあった」

そう言って──レイジスが内緒話をする様にジュードに背を向けたまま俺の耳元に顔を寄せ、小さく低い声で囁く。

──ジュードの事を、あまり信用しすぎない方がいい──

聞き違いかと思える様なささやかな声に──俺は思わずレイジスの顔を二度見する。

その少し離れた後ろに立つジュードが何の話だっていう様な目を俺に向けてくる。

どうやら今のレイジスの声、ジュードの所までは全く聞こえなかったみてぇだが……。

レイジスは場の空気を変える様にポンポンッと俺の肩口を二度叩いて手を離し、言う。

「──また来るよ。
かわいい妹と、かわいい義弟の事も気になるし。
飛行船の話、急ぎではないが、一度きちんと考えてみてくれ。
いい返事を、期待している」

最後に爽やかな笑みでそう言って──レイジスが一人、街へ向けて歩き出す。

その後ろをジュードがゆっくりと歩き出した。

俺の真横を通る瞬間、ジュードが問う様な目で俺を厳しく見てきたが──……。

俺はそいつを軽く視線を逸らす事でやり過ごした。

──ジュードの事を、あまり信用しすぎない方がいい──

何でジュードの主であるレイジスの口から んな言葉が出るのか──そいつを単純に鵜呑みにしちまっていいもんなのかどうか──。

俺はどちらと判断する事も出来ずに、そのままレイジスとジュードの背を見送ったのだった──……。


◆◆◆◆◆

リッシュと別れてしばらく、ジュードと共に街への道を辿りながら──レイジスは後ろのジュードを振り返りもせずに口を開く。

「──さすが双子。
本当に顔から表情からよく似ているな。
さっきの困った様な笑みなんか、リアさんを思い出して切なくなったよ。
危うく惚れてしまうところだ」

冗談を半分にそんな風に話を投げかけるが、ジュードからの返答はない。

呆れているのかもしれないし、そうでないのかもしれなかったが、レイジスがリアの話をする時のジュードは大抵こんな感じだ。

レイジスは再びリアの美しい姿に想いを馳せ始めていたのだが……。

ほんの少しの間を置いて、ジュードが全く別な話を口にする。

「先程、リッシュに何を話されたのですか?」

ほんの少し、訝しむ様な口調が混じっている。

レイジスは内心を気取られない様表面上は穏やかに「ん?」とやんわり問い返す。

そうして穏やかな口調もそのままに先を続けた。

「ミーシャに恋しちゃダメだぞ、と釘を刺しただけだ。
あの子は可愛いからな。
ハント卿という保護者の様な人がいるとはいえ、一つ屋根の下で共同生活をしていたらリッシュくんがミーシャを好く可能性はあるだろう?
もし二人が恋仲になんて事になったら、俺がリアさんと結婚するという夢が遠のいてしまうかもしれない!
そんな事になったら俺は……!」

言いながら、段々自分でも本気になってきて思わずグッと胸の前に持ってきた拳を握りしめる。

と──ジュードが何とも言えない表情でレイジスを見、「……そうですか」とあっさり話を終わらせた。

それきり、二人の間に話はない。

レイジスはザクザクと靴音を響かせ道の先を歩きながら──しばらくして、背中越しにジュードにこんな質問を投げかけた。

「ジュード。
お前、この俺に何か隠している事はないか?」

やんわりと、問いかける。

その先で──ほんの一瞬、ジュードの歩が止まった。

レイジスはふと後ろを見やる。

ジュードは重く、何か追い詰められた様な顔をしている。

何か、言おうと口を開きかけた。

けれど──……

「──いいえ。
……何もありません」

きっぱりと、そう告げる。

レイジスは「そうか」と仕方なくそれだけを口にして、再び正面を向いて歩き出す。

ジュードは何か、隠している。

それもおそらく、あのサランディールの内乱に関する『何か』を。

そう確信しながらも──……レイジスはそれ以上問う事もせず、虚空を見上げた。

「──まずは犬カバくんを狙っているという邪魔なノワールの人間をどうにかしなくちゃなぁ。
そんな奴らにこの辺りを彷徨かれては俺の計画に支障をきたす」

のんびり間延びした声で言うと、ジュードが「──はい」とただ一言だけで同意した──。
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