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十五章 大空へ!
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「……分かった。
そういう事なら、ジュードにはひとまず事情を伏せておく事にするよ。
どういうつもりでそんな事をしてるのか、私の方で探っておこう。
だけどね、リッシュ。
これまで色々な冒険者を見てきたから分かるけど……ジュードは、中々優秀だよ。
私があんたらの居場所を言わなかったとしても、必要とあらば自分の頭と足で、あんたらを見つけ出すだろう。
その時はきちんと向き合って話をつけるべきだと思うよ。
ジュードがあんたらを裏切っているにしても、そうでないにしても」
シエナが諭す様に冷静に、言ってくる。
俺はそいつにただ無言で顔を背けた。
シエナが視線を俺から外して息をつく。
そうして時計の針を見て言う。
「さ、そろそろここを発った方がいい。
向こうに着いたら、あいつによろしく言っておくれ。
……ミーシャ、この子の事よろしく頼めるかい?」
ミーシャが……戸惑いながら俺を見、そうしてそれでも何も言わずに一つ頷いてみせる。
俺は──頭を振って無言のままにベッド下の、秘密の地下道へ降りた。
きちんと向き合って話をつけろ?
あいつと話す事なんか何もねぇ。
何をどう言い繕ったって、あいつがミーシャの事を裏切ったのは確かな事じゃねぇか。
ムカムカしながら犬カバとミーシャが降りてくるのを待って、そのまま歩き始める──と、上からシエナの声が降ってきた。
「~あんまりいつまでも引きずって、ミーシャを困らせるんじゃないよ。
また泣かせたりしたら、この私がタダじゃおかないからね」
クギを刺す様に、言ってくる。
その、『タダじゃおかないから』ってな言葉に……完治したはずの肋骨がギクリと疼いた……気がした。
それに、シエナにこないだ派手にぶっ叩かれた頰も。
つーか……『また泣かせたりしたら』って、この前のは訳が違っただろ。
思わずムッとしてシエナのいる方を見上げると、シエナがニヤリと俺を見て、そのまま地下道への隠し戸を上から閉めた。
犬カバがそそくさと俺の足元をすり抜けて、気取った感じで俺の前を先導する。
まるで『気を取り直して行くぞ』って言わんばかりだ。
ミーシャが……その、どっちに笑ったんだろうか、ほんのちょっとクスッと笑って、俺に向かう。
「──行きましょう。
ジュードの事は、落ち着いてから考えればいいわ」
まるで育ちのいいお姫様が言ったみてぇに落ち着いた声でミーシャが言うのに……俺は何だか毒気を抜かれた様な気持ちで、
「……おう、」
と一言返したのだった──……。
◆◆◆◆◆
ふっと静かに息をつく。
そうしてからそいつは──ヘイデンは、俺やミーシャを見、そうして(……ここが一番長く時間を取っていたが)犬カバを見、思わずってばかりに片眉を上げる。
……まぁ、実際にはいつも通り目は固く閉じられているし、見た様に思ったってだけの話だが。
何はともあれ第一声、ヘイデンが口を開く。
「──大体の話は、電話でシエナから聞いている。
どこまで本気で捉えていい話かは、分からないが……」
珍しくも語尾を濁らせ、ヘイデンが言う。
その視線は自然と犬カバに向いている。
たぶん……この犬カバが『聖獣』だなんて呼ばれた事や、ノワールに追われている(かもしれない)話を、とても信じられねぇんだろう。
俺だってまだ半信半疑なんだから、ヘイデンがんな反応すんのもムリはねぇ。
まぁ、そいつはともかく──。
──そう、俺やミーシャ、それに犬カバが地下道を通り、馬車に乗ってはるばるやって来たのは、ヘイデンの屋敷だった。
この屋敷は街からも離れてるし、何より屋敷の主人が偏屈で人付き合いをしないタチだから、そもそも人が寄り付かねぇ。
おまけに屋敷には部屋があり余り、俺の記憶が正しけりゃ隠し部屋なんて物まであったハズだから……身を隠させてもらうにはかなり都合のいい場所だろ?
いつまでここに居させてもらう事になるかは分からねぇが、とりあえずミーシャと犬カバにはここにしっかり隠れてもらって、犬カバや冒険者ダルク、そして『リア』とも接点がない(と世間一般には思われてる)『リッシュ・カルト』が街での様子を探りつつゆったりノワール貴族の旦那対策を考える……ってのが、この俺の作戦だ。
ちなみにシエナが話をつけておいてくれたからだろう、ここに着いた時には執事のじーさんが待機してくれていて素早く俺らを屋敷の中に入れてくれた。
屋敷の中でもわりと奥まった、外からは覗き見を一切出来ねぇこの部屋に案内されるとそこにはヘイデンがいて──そこで今、こーして話をしてるって訳だ。
その部屋の中で珍しくも語尾を濁らせ言ったヘイデンに、俺は言う。
「……ま、用心するに越した事はねぇからさ。
それに犬カバの元飼い主の見世物屋の話ぶり、ちょっとマジな風だったんだ。
詳しい事は後で説明するけど……」
俺は肩をすくめて見せる。
「前に、頼れる人間がいるならちゃんと頼れって言ってくれただろ?
今がその時だと思ってさ。
リアと関わりの深い旧市街の家もギルドの救護室も、今は危なっかしくて使えねぇ。
ここだって絶対安全って訳じゃねぇだろうが、ここには普段ヘイデンや執事のじーさんがいるし、俺が犬カバの件で街の様子を探りに行ったりって時もこの二人の用心棒くらいはしてくれるだろ?
だから──……。
しばらくの間、ここに匿って下さい。
お願いします」
俺にしては殊勝な心構えで、しっかりと頭を下げる。
隣にいたミーシャも静かに頭を下げ、今回一番の当事者の犬カバも「きゅん」とかわいらしく一声鳴いてヘイデンを見上げる。
ヘイデンが気難し気に鼻で息をついた。
「……うちは警護付きのホテルという訳ではないのだがな」
呆れる様に、言ってくる。
けどその口調の奥底には──すごく分かりにくいが、ヘイデンなりの優しさが滲んでいた。
まるで、仕方がねぇなっていう様な……そういうフリをしてるみてぇな、そんな口調だ。
案の定ヘイデンは仕方がないって口調のまま「だが、」と言葉を続けた。
「──好きにすればいい。
どうせ部屋もあり余っているからな」
言ってくる。
俺はそいつにパッと下げていた頭を上げ、破顔した。
「~ありがとう!」
ミーシャも、俺よりずっと神妙な声で「ありがとうございます」と礼を言う。
そして俺の足元の犬カバも、
「クッヒー!」
どこまでちゃんと分かって言ってんのか、元気に鳴いてヘイデンに向かって礼をする。
そいつを横目にしながら──俺は「それから……」と言葉を続けた。
「もしかしたら、なんだけど……。
ここに、ジュードって名の男が訪ねてくるかもしれねぇ。
俺やミーシャを探しにな。
けど……そいつには……」
言いかけながら……ギュッと拳を握りしめる。
そのまま言葉が途切れちまった俺に、ヘイデンが一つ鼻で息をついた。
「──その時は適当に追い返しておこう。
その男とどんな因縁があるのかは知らんが。
どちらにせよ、お前たちがここに身を隠している事を誰かに公言するつもりはない。
その点は安心していい」
キッパリとそう言った言葉端から……今回の犬カバの件とジュードの件を、ヘイデンが全く別の因縁として把握したんだって事が分かった。
実際その通りなんだが……。
何にしろヘイデンがそう言ってくれるのに、俺は黙ったまま頷いた。
ヘイデンがそれに──ほんの少し思案する様にしながらも、話を続けた。
「ここが安全であるうちは、二人とも……それから、その犬カバという犬も、好きなだけここにいて構わない。
だが、もし万が一本当にその犬がノワール王に狙われていると言うのなら、世界中、どこへ逃げ隠れしようとも安全な場所はないかもしれん。
問題の『元』を正さん限りはな」
ヘイデンが──たぶん、犬カバが聖獣でノワールにつけ狙われてるって話をよっぽど信じられねぇんだろう、万が一本当にとまで言って、言ってくる。
けど──……。
『元』を正さない限りはって、そりゃ、ノワール王をどうにかしない限りはって事だろ?
一介の、何の力も身分もねぇただの街人の俺が、一体何をどうすりゃ んな事が出来るってんだよ。
そう思うが、ヘイデンの言葉に間違いがねぇ事も、確かに事実だった。
一生涯ここに隠れ住みてぇ訳じゃねぇんなら、何か対策は考えねぇと。
そういう事なら、ジュードにはひとまず事情を伏せておく事にするよ。
どういうつもりでそんな事をしてるのか、私の方で探っておこう。
だけどね、リッシュ。
これまで色々な冒険者を見てきたから分かるけど……ジュードは、中々優秀だよ。
私があんたらの居場所を言わなかったとしても、必要とあらば自分の頭と足で、あんたらを見つけ出すだろう。
その時はきちんと向き合って話をつけるべきだと思うよ。
ジュードがあんたらを裏切っているにしても、そうでないにしても」
シエナが諭す様に冷静に、言ってくる。
俺はそいつにただ無言で顔を背けた。
シエナが視線を俺から外して息をつく。
そうして時計の針を見て言う。
「さ、そろそろここを発った方がいい。
向こうに着いたら、あいつによろしく言っておくれ。
……ミーシャ、この子の事よろしく頼めるかい?」
ミーシャが……戸惑いながら俺を見、そうしてそれでも何も言わずに一つ頷いてみせる。
俺は──頭を振って無言のままにベッド下の、秘密の地下道へ降りた。
きちんと向き合って話をつけろ?
あいつと話す事なんか何もねぇ。
何をどう言い繕ったって、あいつがミーシャの事を裏切ったのは確かな事じゃねぇか。
ムカムカしながら犬カバとミーシャが降りてくるのを待って、そのまま歩き始める──と、上からシエナの声が降ってきた。
「~あんまりいつまでも引きずって、ミーシャを困らせるんじゃないよ。
また泣かせたりしたら、この私がタダじゃおかないからね」
クギを刺す様に、言ってくる。
その、『タダじゃおかないから』ってな言葉に……完治したはずの肋骨がギクリと疼いた……気がした。
それに、シエナにこないだ派手にぶっ叩かれた頰も。
つーか……『また泣かせたりしたら』って、この前のは訳が違っただろ。
思わずムッとしてシエナのいる方を見上げると、シエナがニヤリと俺を見て、そのまま地下道への隠し戸を上から閉めた。
犬カバがそそくさと俺の足元をすり抜けて、気取った感じで俺の前を先導する。
まるで『気を取り直して行くぞ』って言わんばかりだ。
ミーシャが……その、どっちに笑ったんだろうか、ほんのちょっとクスッと笑って、俺に向かう。
「──行きましょう。
ジュードの事は、落ち着いてから考えればいいわ」
まるで育ちのいいお姫様が言ったみてぇに落ち着いた声でミーシャが言うのに……俺は何だか毒気を抜かれた様な気持ちで、
「……おう、」
と一言返したのだった──……。
◆◆◆◆◆
ふっと静かに息をつく。
そうしてからそいつは──ヘイデンは、俺やミーシャを見、そうして(……ここが一番長く時間を取っていたが)犬カバを見、思わずってばかりに片眉を上げる。
……まぁ、実際にはいつも通り目は固く閉じられているし、見た様に思ったってだけの話だが。
何はともあれ第一声、ヘイデンが口を開く。
「──大体の話は、電話でシエナから聞いている。
どこまで本気で捉えていい話かは、分からないが……」
珍しくも語尾を濁らせ、ヘイデンが言う。
その視線は自然と犬カバに向いている。
たぶん……この犬カバが『聖獣』だなんて呼ばれた事や、ノワールに追われている(かもしれない)話を、とても信じられねぇんだろう。
俺だってまだ半信半疑なんだから、ヘイデンがんな反応すんのもムリはねぇ。
まぁ、そいつはともかく──。
──そう、俺やミーシャ、それに犬カバが地下道を通り、馬車に乗ってはるばるやって来たのは、ヘイデンの屋敷だった。
この屋敷は街からも離れてるし、何より屋敷の主人が偏屈で人付き合いをしないタチだから、そもそも人が寄り付かねぇ。
おまけに屋敷には部屋があり余り、俺の記憶が正しけりゃ隠し部屋なんて物まであったハズだから……身を隠させてもらうにはかなり都合のいい場所だろ?
いつまでここに居させてもらう事になるかは分からねぇが、とりあえずミーシャと犬カバにはここにしっかり隠れてもらって、犬カバや冒険者ダルク、そして『リア』とも接点がない(と世間一般には思われてる)『リッシュ・カルト』が街での様子を探りつつゆったりノワール貴族の旦那対策を考える……ってのが、この俺の作戦だ。
ちなみにシエナが話をつけておいてくれたからだろう、ここに着いた時には執事のじーさんが待機してくれていて素早く俺らを屋敷の中に入れてくれた。
屋敷の中でもわりと奥まった、外からは覗き見を一切出来ねぇこの部屋に案内されるとそこにはヘイデンがいて──そこで今、こーして話をしてるって訳だ。
その部屋の中で珍しくも語尾を濁らせ言ったヘイデンに、俺は言う。
「……ま、用心するに越した事はねぇからさ。
それに犬カバの元飼い主の見世物屋の話ぶり、ちょっとマジな風だったんだ。
詳しい事は後で説明するけど……」
俺は肩をすくめて見せる。
「前に、頼れる人間がいるならちゃんと頼れって言ってくれただろ?
今がその時だと思ってさ。
リアと関わりの深い旧市街の家もギルドの救護室も、今は危なっかしくて使えねぇ。
ここだって絶対安全って訳じゃねぇだろうが、ここには普段ヘイデンや執事のじーさんがいるし、俺が犬カバの件で街の様子を探りに行ったりって時もこの二人の用心棒くらいはしてくれるだろ?
だから──……。
しばらくの間、ここに匿って下さい。
お願いします」
俺にしては殊勝な心構えで、しっかりと頭を下げる。
隣にいたミーシャも静かに頭を下げ、今回一番の当事者の犬カバも「きゅん」とかわいらしく一声鳴いてヘイデンを見上げる。
ヘイデンが気難し気に鼻で息をついた。
「……うちは警護付きのホテルという訳ではないのだがな」
呆れる様に、言ってくる。
けどその口調の奥底には──すごく分かりにくいが、ヘイデンなりの優しさが滲んでいた。
まるで、仕方がねぇなっていう様な……そういうフリをしてるみてぇな、そんな口調だ。
案の定ヘイデンは仕方がないって口調のまま「だが、」と言葉を続けた。
「──好きにすればいい。
どうせ部屋もあり余っているからな」
言ってくる。
俺はそいつにパッと下げていた頭を上げ、破顔した。
「~ありがとう!」
ミーシャも、俺よりずっと神妙な声で「ありがとうございます」と礼を言う。
そして俺の足元の犬カバも、
「クッヒー!」
どこまでちゃんと分かって言ってんのか、元気に鳴いてヘイデンに向かって礼をする。
そいつを横目にしながら──俺は「それから……」と言葉を続けた。
「もしかしたら、なんだけど……。
ここに、ジュードって名の男が訪ねてくるかもしれねぇ。
俺やミーシャを探しにな。
けど……そいつには……」
言いかけながら……ギュッと拳を握りしめる。
そのまま言葉が途切れちまった俺に、ヘイデンが一つ鼻で息をついた。
「──その時は適当に追い返しておこう。
その男とどんな因縁があるのかは知らんが。
どちらにせよ、お前たちがここに身を隠している事を誰かに公言するつもりはない。
その点は安心していい」
キッパリとそう言った言葉端から……今回の犬カバの件とジュードの件を、ヘイデンが全く別の因縁として把握したんだって事が分かった。
実際その通りなんだが……。
何にしろヘイデンがそう言ってくれるのに、俺は黙ったまま頷いた。
ヘイデンがそれに──ほんの少し思案する様にしながらも、話を続けた。
「ここが安全であるうちは、二人とも……それから、その犬カバという犬も、好きなだけここにいて構わない。
だが、もし万が一本当にその犬がノワール王に狙われていると言うのなら、世界中、どこへ逃げ隠れしようとも安全な場所はないかもしれん。
問題の『元』を正さん限りはな」
ヘイデンが──たぶん、犬カバが聖獣でノワールにつけ狙われてるって話をよっぽど信じられねぇんだろう、万が一本当にとまで言って、言ってくる。
けど──……。
『元』を正さない限りはって、そりゃ、ノワール王をどうにかしない限りはって事だろ?
一介の、何の力も身分もねぇただの街人の俺が、一体何をどうすりゃ んな事が出来るってんだよ。
そう思うが、ヘイデンの言葉に間違いがねぇ事も、確かに事実だった。
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★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
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