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十一章 会議

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借金の肩代わりの件も、もうどうだっていい。

大統領なんて大人物にそんな借りを作って、もし万が一どっかでミーシャとの接点を作る事になっちまったら……それこそ目も当てられねぇからな。

サクッと『リッシュ・カルト』の姿で会議に出て、借金の肩代わりも断って、あとはトイレかどっかで『リア』の姿に変身して……さっさと帰ってこよう。

んで、今後はこんな目立つ事件に関わらなくて済む様に、もっと静かに……地道にコツコツギルドの依頼をこなして生活するんだ。

そう、心に決めて言うと、

「クヒッ!」

「ああ」

犬カバとジュード、二人共からもいい返事が返ってきた。

よし……。

やってやるぜ。

◆◆◆◆◆


そんなやりとりがあってから二週間が経った頃──

俺はベッドの脇にすっくと立ち、自分の両手を腰に当てて、

「ふっふっふっ」

と満足して笑ってみせた。

俺の足元には犬カバが、『俺がリッシュの世話をしてやったんだぜ』って言わんばかりに誇らし気に顔を上げて四本足で立っている。

──あれから静養する事二週間。

よーやくどうにか、こうして一人で立ったり、ゆっくりとではあるが歩ける様にもなった。

完治とはいかねぇし、まだちょっとはあばらの辺りに鈍痛があるが、こないだまでに比べりゃあこんなの全然痛みの部類に入らねぇ。

実際じーさん医師にもこの調子なら多少動いたりしても問題ねぇだろうって言われてる。

最初はひと月は安静に、な~んて言われてたが、こいつも俺の奇跡の回復力の為せる技だな。

まぁ、だからってここで調子に乗っちゃいけねぇんだろーが。

それにしても、だぜ?

こーしてほとんど何の痛みもなく立てて、一人でも好きなトコに歩いていけるっつーのはほんと幸せな事だったんだなぁ。

大ケガして初めてこのありがたみが分かったぜ。

人間 健康で平和に暮らせるのが一番だよな。

な~んてしみじみ思ってると、シエナが声をかけてくる。

「どーやら本当に良さそうだね。
明日の会議も問題なく行けそうかい?」

言ってくるのに俺は元気よく「おう」としっかり返事してみせる。

会議っつーのはもちろん、あの大統領を交えた会議の事だ。

あれから──ジュードと話して数日後には、会議の日程が決まった。

各地のギルドのマスター達やトルスの外交官、そして大統領を交えての、かなり大きなものになる。

このギルドから出るのはギルドのマスターであるシエナと、山賊事件に直接関わり、大統領に借金の肩代わり付きでお呼ばれ・・・・しているこの俺、『リッシュ・カルト』。

『ダルク』として俺と同じく山賊事件に関わったミーシャやお付きのジュードはギルドに残っての留守番だ。

ダルクは風邪を引いたって事にしちまうから、ミーシャは救護室のいつもの部屋で一日休む事に。

ジュードは念の為、その救護室の扉の前で不審人物が来ない様見張りを担当する事になっている。

ま、この場合の不審人物ってのはノワールだのトルスの官僚だのって大きな人物達じゃなく、主に『冒険者ダルク』の風邪を心配して見舞いにやって来るかもしれねぇラビーンとかクアンとか、ラビーンとかクアンとか、だ。

そして──まぁ、まずないだろうが──もしこないだの山賊共の残党がいたら、そういう奴らって事になる。

犬カバは……まぁ、好きな様にするだろ。

ちなみに言えば、行き帰りは『リア』の姿でここを出るしかねぇと思っていた俺だが、ありがたい事にシエナたちの話じゃ、すでに俺の指名手配は凍結状態になってるらしい。

ま、ゴルドーだって賞金稼ぎに俺をとっ捕まえさせて一億ハーツの報奨金をはたくより、大統領に借金を肩代わりさせて一億ハーツを取り戻す方が得だしな。

大統領が確実に払うと言ってくるまでは、とりあえず様子見で手配を凍結させることにしたんだろう。

だから明日は一日まるっと『リッシュ・カルト』の姿で行動出来るって訳だ。

『リア』と『リッシュ』が同一人物だってバレねぇ様にって事だけ気をつければ、明日の会議も何も怖いことはねぇ。

考えてっと、ちょうど同じタイミングで同じ話題を考えてたんだろうシエナが俺を諭す様な口調で言う。

「そうそう。
あんたが調子に乗らない様に言っておくけど、大統領の借金の肩代わり、させてもらうんならさせてもらうで構わないけど、浮かれてバカやらかすんじゃないよ?
借金が無くなったからって調子に乗って、今ある貯金をまたギャンブルなんかに使っちまう様な事だけは絶対に───」

言われかけて、俺は「ああ、」としれっとして答えた。

「その事なんだけどよ。
大統領の借金の肩代わり、俺 断るつもりだから」

あっさりと言ってやる……と。

「………。
~えっ?」

シエナが──考えてもなかった答えだったんだろう、目を瞬いて返してくる。

俺は肩をすくめてみせた。

「シエナも聞いてるだろ?
ミーシャが大統領と面識がある事とか……それに……ノワール王との……」

口にしかけながら、俺はどーにもその言葉を言うのが嫌で、顔をしかめる。

「──婚約話、だね。
ジュードから聞いてるよ」

俺が言い難そうにしてるのを見て、シエナが言ってくる。

俺は肩をすぼめてみせた。

「……ミーシャと、そーゆうお偉方との間に、接点作りたくねぇんだよ。
特に、俺の借金みてぇな下らねぇモンの為にミーシャの身を危険に晒すのは、ゴメンだ。
俺の借金は、ちゃんと自分の力で働いて、きっちり耳を揃えてゴルドーのやつに返す。
色々考えて、決めた事なんだ」

静かに、自分でも思いの外真剣な口調で言う。

シエナが──……口を開けたまま、呆けた様に俺を見ている。

俺は───その視線にどーにも耐えられず、また一つ肩をすくめてみせた。

「ま、こんな機会逃したらいつ借金返済して飛行船取り戻せるかも分かんねぇけどさ。
地道にやってくさ。
うまい話には裏があるとも言うしなー」

最後はへらーっと笑いながら言ってやる……と。

シエナが、今度はぱちぱちと目を瞬いて俺を見た。

まるでハトが豆鉄砲でも食らった様な顔に、

「……なんだよ?」

俺は軽くいぶかしみながら首を傾げ言う。

シエナがそいつにハッとした様に頭を軽く振ってみせた。

「──いいや、なんでも?」

そう言った、顔が笑ってる。

なんだかうれしそうな、おかしそうな、そんな笑いだ。

……ったく、なんだよ。

半ばふてくされながらそっぽ向くと、シエナがパシッと俺の背を叩いてきた。

もちろんあばらに配慮された、軽い叩きだ。

「~あんたちょっとはいい男になってきたじゃないか。
ミーシャの為にちゃんとそこまで考えたなんて、見直したよ。
……まぁ、明日の会議はほとんど何の滞りもなく終わるだろ。
借金の事を断るっていうならなおさらね。
だけど、決して油断はしない事。
もし断る事によって立場が悪くなる様なら、私も出来る限りあんたの力になるから──……ミーシャの為にも、明日はお互い頑張ろうじゃないか」

シエナが言う。

俺はそいつに大きくうなづいて、

「おう」

と一言返したのだった──。
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