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八章 ジュード
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◆◆◆◆◆
丁度その頃──
シエナはギルドの中に一人残ったまま、カツカツカツと一方へ歩き進め、壁まで当たると折り返してまた歩き、といった調子で ただひたすらにギルド内をうろついていた。
まるで檻に入れられた獅子の様だが、それに気づく人間は一人もいない。
ギルドの冒険者達は総出でリアを探しに行ってくれている。
けれど──肝心の連絡はまだ誰からも届きはしなかった。
シエナは はぁ~っと思わず深い溜息をつく。
「まったく、リッシュときたら……。
昔も今も、ほんと人に心配かける名人だね」
ダルクを亡くし記憶を失った時も、そのまま行方不明になった時もそう。
ふらっと現れたと思ったらギャンブルで一億ハーツの借金をして終われていて、それから逃れる為にいつバレるかも分からない女装姿で街中を歩いて。
こちらからしたら、気が気ではない。
──今回は特に、昨日の山賊騒ぎがあったからね。
何もなけりゃあいいんだけど。
そう思いながらも、我知らずまた深く息をつく。
──ところで。
シエナの耳に、サッと小さな布の擦れる音が聞こえた。
シエナはパッと後ろを振り返り、
「誰だい!?」
声を上げる。
腰に穿いた短剣を構え──辺りの状況を見極める。
布擦れの音はシエナの後方から。
けれど気配で、それだけの人数ではない事が分かった。
それもどうやらこちらに敵意を持っている。
一息の間を置いて。
すっ、とそのうちの一人が、シエナの前に躍り出る。
シエナの目に煌めく剣先が映った。
シエナはさっと半身だけでその一太刀を避け、短剣で相手の手首を狙う。
だが、相手の腕も早かった。
空振った剣を即座に身に引き戻し、シエナの短剣を止める。
ギリ、ギリ、と力の押し合いの様に剣と短剣が交差する。
その隙に。
他の連中が動き出した。
シエナの背後から、一人が剣を振りかざすのが音と気配で分かる。
シエナがまずい、と思った──ところで。
ゴオッという凄まじい風切り音が背後に巻き起こる。
そして、後ろに迫っていたはずの人間が、真横へ吹っ飛び激しく壁に打ち付けられるのが、目の端に映った。
「~なっ……、あんた……」
思わず視線をそちらに奪われかける……が。
「前を見てろ。
てめぇの後ろは任された」
その人物がパンッと片手に拳を打ち付けて、言ってくる。
シエナにとっては勝手知ったる人物だった。
シエナは──ニヤッと口の端だけで笑って見せると、全身を目の前の敵に集中させた。
さっさと倒して、こいつらがリアの件と関係あるのか聞き出さなくっちゃねぇ。
◆◆◆◆◆
林を出、街道を抜けて、馬は疾走する。
風がビュンビュンと吹き荒ぶ。
左右の景色が俺の横をぐんぐんと流れていった。
馬が地面を蹴る度、体をしならせて動く度に身体中がひどく痛む。
こーやって馬にしがみついて、落ちない様にするので精一杯だ。
俺とジュードの後ろを、ミーシャが馬でついてくるのが気配で分かる。
街へ入るとすぐ、
「~えっ、リアさん?」
「ダルクくん?」
あちこちから女の子の声がちらほら聞こえる。
聞いた事のある声もあった。
ギルドの女冒険者達みてぇだ。
顔を上げる事が出来ねぇから姿は見えねぇが、たぶんそうだ。
……つー事は、ギルドの中には本当にほとんど人がいねぇんじゃ……。
嫌な予感が頭の中を掠める。
ジュードが手綱を引くと、馬が「ヒヒーン!」と前足を上げて停まる。
ギルドの丁度真ん前だ。
俺は半ば滑り落ちる様にしながら馬から降りると、ギルドの戸を開け「シエナ!」と大声で呼びかける。
──が。
そこにあったのは──俺の予想とはかなり違う光景だった。
床やカウンターの上にぐでんと倒れた四、五人の男達。
カウンターの内側──いつもの場所にいつも通りに立つシエナの姿。
それに、カウンター席に座る悪趣味なアロハシャツを着た男──。
──ゴルドーだ。
俺が呆気に取られて思わずぽかんとしている──と。
「~あんた、その顔……。
ひどい怪我じゃないか!こんなに血まみれで……」
シエナが驚いた様にカウンターから出てきて声を上げる。
けど、俺からしたらここのこの光景の方がよっぽど驚きだぜ。
すぐ後ろからミーシャと犬カバ、それにジュードが入ってくる……が、その誰もが面食らったみてぇに辺りの惨状を見てその場で立ち止まった。
「~シエナ、こいつら……。
つーか、何でゴルドーがここに……?」
思わず問いかけた、ところで。
声を上げたのは、カウンター席に相変わらず流暢に座っているゴルドーだった。
ゆったりとこっちを向いて俺を見る。
その目の鋭さに……俺は思わずヤベッと口に手を当てた。
ゴルドーが睨むよーな目で俺を見る。
「……口の悪ぃ嬢ちゃんだな。
人の事も呼び捨てかぁ?」
言ってくる。
俺は思わず固まったまま、ゴルドーから視線を反らした。
そいつに、何と思ったのかは分からねぇ。
ゴルドーは一つ肩をすくめて、答えてくる。
「……うちのバカコンビがまたどっかで油売ってんじゃねぇかと思って立ち寄ったらシエナがこいつら相手に一人でやりあってたからな。
助太刀したのよ」
バカコンビってのは、ラビーンとクアンの事だろう。
俺は半ば納得したような しないような心地で倒れた男共を見やる。
剣の柄みてぇなモンで顎を打たれた男、頬に強烈なパンチの跡が残った男、腹にどぎつい一撃を食らったらしい男……様々だ。
俺が相変わらずボケッとして突っ立ってるからだろう、シエナが「そんな事より」と俺の背に手を当て、言う。
「ヘイデンとこの医者を呼んであるから、とりあえず医務室で横になった方がいいね。
あんたの事情もちゃんと分かってる人だから安心しな。
~歩けるかい?」
聞いてくる。
俺はそれに「お、おう……」といいかけて側にいるゴルドーの存在を思い出し、
「え、ええ……大丈夫、です」
きちんと言い直す。
そうして一歩を踏み出しかけた──とたん。
左あばらがひどく痛んでそのまま足が崩折れかける。
シエナがそいつに手を伸べようとしてくれるのが目に入るが、間に合わねぇ。
そのまま倒れかけた俺の体を。
さっと支えてくれたのは、ミーシャだった。
「~大丈夫?」
聞いてきてくれる。
俺が脂汗垂らしながら「~お、おう」とやっと一言言った、所で。
ぐい、とミーシャとは反対の側から、しっかりと支えられる。
~ジュードだ。
まるでミーシャから引き剥がす様にも思えたが……とにもかくにも、強い力で支えられる。
俺だって崩折れかけた足に力を入れてシャンと立とうとはしてるんだが……。
手も足も、俺の意思とは関係なく震えて力が入らねぇ。
脂汗がじわじわと額に浮かぶ。
目の前も朦朧とした感覚だ。
それでもどーにか踏ん張ってその場で立とうとしてたん……だが。
スッとその足を抱えて、背中に手を当てられ持ち上げられる。
ぐん、と高く視界が上がった。
「……?」
俺が目をぱちくりさせてジュードを見る。
これってまさか、“お姫様だっこ”ってやつじゃねぇか?
それもジュードにされてやがる。
「──医務室はどちらに?」
ジュードが表面上では何の感情も見せずにシエナに問う。
問われたシエナが目をぱたぱたと瞬いて俺のこの光景を見る。
そうして、
「あ、ああ……、こっちだよ」
シエナが戸惑いながらも案内する。
……まさかこの俺の人生で、男にお姫様だっこされる日が来るとは思わなかったぜ……。
何だか色んな意味でぐったりしながら思う。
屈辱っちゃあ屈辱だが……自力で医務室まで歩けたかって言われりゃ、確かにビミョーだったかもしれねぇ。
こーやってただ運ばれてるだけだってのに、目の前がクラクラしてるくらいだ。
ほんのついさっきまでは、どーにかこーにか立ってられたってのに、今じゃもう立てる様な気さえしねぇ。
ミーシャと、ミーシャの足元にいる犬カバがジュードの後について歩き出す。
俺は医務室に運ばれていく途中──ちらっと横目に、ただ一人悠長にカウンターに肘をついてこちらを見上げてくるゴルドーを見た。
眉間に寄ったシワ。
俺を見る、疑い混じりの鋭い眼差し──。
俺はそいつに思わず顔を背けて、そのまま医務室に運ばれて行ったのだった──。
丁度その頃──
シエナはギルドの中に一人残ったまま、カツカツカツと一方へ歩き進め、壁まで当たると折り返してまた歩き、といった調子で ただひたすらにギルド内をうろついていた。
まるで檻に入れられた獅子の様だが、それに気づく人間は一人もいない。
ギルドの冒険者達は総出でリアを探しに行ってくれている。
けれど──肝心の連絡はまだ誰からも届きはしなかった。
シエナは はぁ~っと思わず深い溜息をつく。
「まったく、リッシュときたら……。
昔も今も、ほんと人に心配かける名人だね」
ダルクを亡くし記憶を失った時も、そのまま行方不明になった時もそう。
ふらっと現れたと思ったらギャンブルで一億ハーツの借金をして終われていて、それから逃れる為にいつバレるかも分からない女装姿で街中を歩いて。
こちらからしたら、気が気ではない。
──今回は特に、昨日の山賊騒ぎがあったからね。
何もなけりゃあいいんだけど。
そう思いながらも、我知らずまた深く息をつく。
──ところで。
シエナの耳に、サッと小さな布の擦れる音が聞こえた。
シエナはパッと後ろを振り返り、
「誰だい!?」
声を上げる。
腰に穿いた短剣を構え──辺りの状況を見極める。
布擦れの音はシエナの後方から。
けれど気配で、それだけの人数ではない事が分かった。
それもどうやらこちらに敵意を持っている。
一息の間を置いて。
すっ、とそのうちの一人が、シエナの前に躍り出る。
シエナの目に煌めく剣先が映った。
シエナはさっと半身だけでその一太刀を避け、短剣で相手の手首を狙う。
だが、相手の腕も早かった。
空振った剣を即座に身に引き戻し、シエナの短剣を止める。
ギリ、ギリ、と力の押し合いの様に剣と短剣が交差する。
その隙に。
他の連中が動き出した。
シエナの背後から、一人が剣を振りかざすのが音と気配で分かる。
シエナがまずい、と思った──ところで。
ゴオッという凄まじい風切り音が背後に巻き起こる。
そして、後ろに迫っていたはずの人間が、真横へ吹っ飛び激しく壁に打ち付けられるのが、目の端に映った。
「~なっ……、あんた……」
思わず視線をそちらに奪われかける……が。
「前を見てろ。
てめぇの後ろは任された」
その人物がパンッと片手に拳を打ち付けて、言ってくる。
シエナにとっては勝手知ったる人物だった。
シエナは──ニヤッと口の端だけで笑って見せると、全身を目の前の敵に集中させた。
さっさと倒して、こいつらがリアの件と関係あるのか聞き出さなくっちゃねぇ。
◆◆◆◆◆
林を出、街道を抜けて、馬は疾走する。
風がビュンビュンと吹き荒ぶ。
左右の景色が俺の横をぐんぐんと流れていった。
馬が地面を蹴る度、体をしならせて動く度に身体中がひどく痛む。
こーやって馬にしがみついて、落ちない様にするので精一杯だ。
俺とジュードの後ろを、ミーシャが馬でついてくるのが気配で分かる。
街へ入るとすぐ、
「~えっ、リアさん?」
「ダルクくん?」
あちこちから女の子の声がちらほら聞こえる。
聞いた事のある声もあった。
ギルドの女冒険者達みてぇだ。
顔を上げる事が出来ねぇから姿は見えねぇが、たぶんそうだ。
……つー事は、ギルドの中には本当にほとんど人がいねぇんじゃ……。
嫌な予感が頭の中を掠める。
ジュードが手綱を引くと、馬が「ヒヒーン!」と前足を上げて停まる。
ギルドの丁度真ん前だ。
俺は半ば滑り落ちる様にしながら馬から降りると、ギルドの戸を開け「シエナ!」と大声で呼びかける。
──が。
そこにあったのは──俺の予想とはかなり違う光景だった。
床やカウンターの上にぐでんと倒れた四、五人の男達。
カウンターの内側──いつもの場所にいつも通りに立つシエナの姿。
それに、カウンター席に座る悪趣味なアロハシャツを着た男──。
──ゴルドーだ。
俺が呆気に取られて思わずぽかんとしている──と。
「~あんた、その顔……。
ひどい怪我じゃないか!こんなに血まみれで……」
シエナが驚いた様にカウンターから出てきて声を上げる。
けど、俺からしたらここのこの光景の方がよっぽど驚きだぜ。
すぐ後ろからミーシャと犬カバ、それにジュードが入ってくる……が、その誰もが面食らったみてぇに辺りの惨状を見てその場で立ち止まった。
「~シエナ、こいつら……。
つーか、何でゴルドーがここに……?」
思わず問いかけた、ところで。
声を上げたのは、カウンター席に相変わらず流暢に座っているゴルドーだった。
ゆったりとこっちを向いて俺を見る。
その目の鋭さに……俺は思わずヤベッと口に手を当てた。
ゴルドーが睨むよーな目で俺を見る。
「……口の悪ぃ嬢ちゃんだな。
人の事も呼び捨てかぁ?」
言ってくる。
俺は思わず固まったまま、ゴルドーから視線を反らした。
そいつに、何と思ったのかは分からねぇ。
ゴルドーは一つ肩をすくめて、答えてくる。
「……うちのバカコンビがまたどっかで油売ってんじゃねぇかと思って立ち寄ったらシエナがこいつら相手に一人でやりあってたからな。
助太刀したのよ」
バカコンビってのは、ラビーンとクアンの事だろう。
俺は半ば納得したような しないような心地で倒れた男共を見やる。
剣の柄みてぇなモンで顎を打たれた男、頬に強烈なパンチの跡が残った男、腹にどぎつい一撃を食らったらしい男……様々だ。
俺が相変わらずボケッとして突っ立ってるからだろう、シエナが「そんな事より」と俺の背に手を当て、言う。
「ヘイデンとこの医者を呼んであるから、とりあえず医務室で横になった方がいいね。
あんたの事情もちゃんと分かってる人だから安心しな。
~歩けるかい?」
聞いてくる。
俺はそれに「お、おう……」といいかけて側にいるゴルドーの存在を思い出し、
「え、ええ……大丈夫、です」
きちんと言い直す。
そうして一歩を踏み出しかけた──とたん。
左あばらがひどく痛んでそのまま足が崩折れかける。
シエナがそいつに手を伸べようとしてくれるのが目に入るが、間に合わねぇ。
そのまま倒れかけた俺の体を。
さっと支えてくれたのは、ミーシャだった。
「~大丈夫?」
聞いてきてくれる。
俺が脂汗垂らしながら「~お、おう」とやっと一言言った、所で。
ぐい、とミーシャとは反対の側から、しっかりと支えられる。
~ジュードだ。
まるでミーシャから引き剥がす様にも思えたが……とにもかくにも、強い力で支えられる。
俺だって崩折れかけた足に力を入れてシャンと立とうとはしてるんだが……。
手も足も、俺の意思とは関係なく震えて力が入らねぇ。
脂汗がじわじわと額に浮かぶ。
目の前も朦朧とした感覚だ。
それでもどーにか踏ん張ってその場で立とうとしてたん……だが。
スッとその足を抱えて、背中に手を当てられ持ち上げられる。
ぐん、と高く視界が上がった。
「……?」
俺が目をぱちくりさせてジュードを見る。
これってまさか、“お姫様だっこ”ってやつじゃねぇか?
それもジュードにされてやがる。
「──医務室はどちらに?」
ジュードが表面上では何の感情も見せずにシエナに問う。
問われたシエナが目をぱたぱたと瞬いて俺のこの光景を見る。
そうして、
「あ、ああ……、こっちだよ」
シエナが戸惑いながらも案内する。
……まさかこの俺の人生で、男にお姫様だっこされる日が来るとは思わなかったぜ……。
何だか色んな意味でぐったりしながら思う。
屈辱っちゃあ屈辱だが……自力で医務室まで歩けたかって言われりゃ、確かにビミョーだったかもしれねぇ。
こーやってただ運ばれてるだけだってのに、目の前がクラクラしてるくらいだ。
ほんのついさっきまでは、どーにかこーにか立ってられたってのに、今じゃもう立てる様な気さえしねぇ。
ミーシャと、ミーシャの足元にいる犬カバがジュードの後について歩き出す。
俺は医務室に運ばれていく途中──ちらっと横目に、ただ一人悠長にカウンターに肘をついてこちらを見上げてくるゴルドーを見た。
眉間に寄ったシワ。
俺を見る、疑い混じりの鋭い眼差し──。
俺はそいつに思わず顔を背けて、そのまま医務室に運ばれて行ったのだった──。
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「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?!
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
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