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第一章

圧倒的勝利

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 「見てください宗室さん! こ、こんなに金貨が。これって何グルトになるんでしょうか」

 無事に商品は完売しナナは売り上げの金貨の箱を持ってこちらにやって来た。

 「確か二七百グルトは稼げる計算だったが、全て売れたのなら、それぐらいだろう」
 「に、二七百グルトですかっ! そんなに稼ぐことが出来たなんて……その、ありがとうございます色々、助けてくれて」

 そう言って頭を下げるナナ。私はそれに対して無表情のまま顔を上げるよう促した。

 「礼を言うのはこっちの方さ、これだけの売り上げは私一人では出来なかっただろう。きっと君の笑顔が客を呼び寄せたんだろうね」

 「わ、私ですか……そんな、私は何も……」

 顔を真っ赤にしてナナは俯いた。実際、ナナは接客に関しては丁寧で上手と言えた。
 それはバイトでウエイトレスをやっているからというのもあるのだろうが、やはり純粋な笑顔が受けたのが大きかった。
 もっともそれに反してケーレスはそっち方面は得意ではないらしく、人と全く会話が出来ていなかった。
 だが、人間には得手不得手が存在するものだ。気にするほどでもないだろう。

 「それじゃあ、三人で売り上げを山分けして九百グルトで分けようか」

 これで材料費を差し引いても八百グルトの黒字だ。これだけの金額を稼げば前半の試験は大丈夫な筈だ。

 「はい、今渡しますねっ!」

 そう言って手に持っていた箱を渡そうとした。その刹那、馬の掛ける音が鳴り響いた。
 私はすぐに異常を察知しサイドステップで横へと避ける。それと同時に馬が私の居たであろう位置に突進をしてきた。

 「ちっ、外しやがったか。まあいい、おいっ、そこの女! 売り上げは頂いていくぜ」

 そのまま馬の勢いを弱めないでナナの売り上げ箱を奪い取ろうとする。

 「きゃっ! ちょっと何を……!」

 「五月蝿い女だ! 黙ってそれを寄越せよ!」

 「止めて下さ……やぁっ」

 馬のスピードと冑の男の力任せな強奪でナナは振り飛ばされる。
 そして男はそのまま箱を抱えると、そのまま商店街の奥へと走り去っていく。

 「ナナ。怪我はないか?」
 「ううっ、ごめんなさい。箱取られちゃいました」
 「なに、君が謝る必要はない。それよりも私は君の事が心配だ」
 「わ、私は大丈……っ!」

 そこまで言って怪我が痛んだのか腕を抑えるナナ。彼女の腕からは転んで擦りむいたのか傷が出来ていた。

 「ふむ……やはり怪我をしているようだな、ケーレス。治癒スキルで手当てをしてやってくれ。私は冑の男を追いかける」

 「ああ、任せてくれ。宗室くんも怪我をしないように気をつけるんだ」
 「ああ、分かっているさ」

 さて、ナナの怪我は彼女に任せておけば何とかなるだろう。私は彼に逃げられないように追い付かねば。
 私は地を蹴って小さくなりつつある人影を追う。
 だが、走るだけでは効率的ではないと感じた私は商店街の家の屋根へと飛び乗って、屋根から屋根へと移動する。

 「どの程度、刺激になるか試させて貰おうか」

 屋根を伝って距離が近くなるのを感じながら、私は頬を緩ませた。
 普段ならば屋根を渡るなどという芸当は出来るものではないのだが。今の身体の能力は百倍、何も難しい事ではない。
 ある程度、至近距離にまで移動したところで屋根から飛び降りて馬上の男を蹴り飛ばした。

 「がっ……! つっ……なんだ何が起きたんだ」

 馬から転げ落ちて、のそりと起き上がる男。その男の冑はさっきの衝撃で粉々に粉砕されて素顔が丸出しになっていた。

 「やはり君だったか」

 その姿は会場で会った赤髪の男そのものだった。ダンクは正体がバレた事に焦りの表情が見てとれた。

 「ちっ、俺の正体が……」

 「もう諦めた方が賢明だと思うがね、私が試験官にその趣旨を伝えれば君は失格だ。だったら君から自首をした方が罪は軽くなる」

 私はそう説得をしながら視線を彼の横にある大きな剣へと移動させる。
 その私の行動を見て、剣の存在を思い出したのか余裕の無かったダンクの顔に狂気染みた笑みが浮かぶ。

 「そ、そうだ。俺にはデストロイがあるんだ。それでお前を倒せば、バレずに済む」 

 四つん這いのまま、私に先を越されまいと必死に大剣を取るダンク。
 そしてそのまま立ち上がって剣を構えた。

 「見たところお前は丸腰じゃねーか、殺すのも楽で済みそうだぜ」

 「ふむ、確かに私は丸腰だが……」

 私の言葉を聞いてより一層、勝ち誇った笑みを浮かべるダンク。

 「ははっ! この勝負は俺の勝ちだ!!」

 ダンクは地を蹴って私への距離を詰めると大剣を大振りに振るった。
 私はそれをしゃがんで避けてその後、腹部に蹴りを撃ち込んだ。
 彼の肉体は固い鎧によって守られている。だが、その鎧が僅か、一蹴りでへこんだ。

 「三パーセントではこの程度と言ったところか」

 「ぐっ……なんだ。てめぇ何をしやがった……!」

 「するも何も君から攻撃をしたんだろう? 私は正当防衛をしただけに過ぎない」

 「ふざけやがって……!」

 そう言って力任せに剣を振るうダンク。それはほとんど錯乱しているようにも見える。

 「刃に感情が乗っている。それでは攻撃が読めてしまう気をつけた方がいい」

 「この野郎。そうやって俺を見下して!」

 何度も描かれる放物線、それを私は無駄な動きをせずに軽々と避ける。

 「しかし君のしている事は獣と何も変わらない。喚いて襲うだけでは芸が無いとは思わないか」

 「な、何を言ってんだ。お前は!」

 「時に野生の獣たちは人里下りて民達を襲う事があるという、その時どう対処すれば良いのかそれはね……」

 「訳の分からない事をごちゃごちゃと、さっさと斬られて死ねえぇぇ!!」

 「牙を抜いてあげれば良いのさ」

 ダンクが大剣の刃が私目掛けて襲いかかる。私はそれを手で軽く凪ぎ飛ばした。
 大剣は持ち主の手から離れて弧を描きながら地面へと突き刺さる。

 「ひ、ひぃぃ」

 「これは君から挑んだ戦いだ。逃げることは許されない。さて、どうしたものか」 

 私は彼へとゆっくりと近づいていく、ダンクは怯えながら後ろへと下がって。

 「べ、別に良いじゃねーか! 人の物を奪って何が悪いんだ! 世の中奪われる方が悪い、そうだろ!?」

 もはや逃げられないと察したのか開き直ったように口を開くダンク。
 私はそれに大した興味を示さず、腹部、肩、両腕と何発も打撃を与える。その度に相手の甲冑がへこんでいくのを感じる。
 既に甲冑は甲冑としての機能を保てていないように思えた。

 「別に君が何をしていようと興味の無いことだ。だが私達の物を奪われるのは些か不愉快でもある」

 私はダンクの胸元に蹴りを撃ち込んだ。
 その一撃によって胸元から細かな亀裂が入り、そのまま鎧が全て粉々になってしまう。
 だが、それで終わりではない。鎧から軽装に変わった後も側面から正面から背後から何度も蹴りを加える。
 その度に攻撃の威力を強めていき、ダンクは気がつけばボロボロになっていた。

 「ぐっ……あっ……お、俺が悪か……あぁ」

 ダンクが何かをいい終える前に腹部に最後の蹴りを撃ち込む。彼はそのまま気絶して動かなくなった。 

 「ふむ、予想以上に呆気ないものだな……」

 動かなくなった彼を見下ろして私は一言そう呟いた。
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