マリッジブルーの花嫁

三原すず

文字の大きさ
上 下
6 / 6

私たちは共にする

しおりを挟む
「なにしてるんですかっっっ?!」

衣装室に響いた悲鳴に、私は恥ずかしさのあまり穴に埋まりたくなった。
幸い、寝坊(?)し、遅刻しかけたがぎりぎりセーフであった。少し遅れるくらいはよくあるらしくすぐに悠人と別れ、そのままあれよあれよと準備できたらよかったのだが服を脱いだ私の体を見て、ヘアメイクさんは真っ青になった。

「痕!これ一体どうするんですかっ?!」

今朝もわかったように私の身体には昨夜の行為によってつけられた痕がびっしり。
不幸にも、私の着るウエディングドレスは肩に鎖骨、背中が出たもので、ウエディングドレスでもポピュラーなプリンセスラインのものだ。ちなみに最終的に決めたのは悠人だ。
今朝はドレスのことなんて頭から飛んでたよ……。
ぐいっと、ヘアメイクさんの般若の顔が近づいた。

「…これだけ濃くちゃ、ヴェールでは隠せません。なので、コンシーラーでカバーできるとこはカバーしますよ?」
「は、はぃ…」
「ラメのとかも色々使いますから。ちょっと高いやつでもいいですか?!」
「ぉ、お願いしまーす……」

そうして鬼気迫る顔で私の着替えを手伝うヘアメイクさんの視線が背中に向かってからさらに鋭くなったのは気づかなかったことにしたい。
めちゃくちゃ悠人にお説教したくなった。




そんなこともあってなんとなく実感が湧かなかったのだが。
時間までお待ちくださいと控え室で一人でいるとどうしても色々と考えてしまう。そして、かなり緊張してきた。

結婚式は花嫁が主役とかいうが、そんな柄じゃないな、とか。さっきあのヘアメイクさんと見たときは別人みたいだったけど、ドレスに切られてないかな、とか。みんな私たちを祝福して「お幸せに」っていう言ってくれるかな、とか。

またちょぴり不安になってきた私を現実に引き戻したのは、知らない人の歓声だった。

「わあぁっ、綺麗!すごい綺麗っ!」
「え、ぇえっ?」
「碧海ちゃん、すごく綺麗だわ!悠人にやるのがもったいない!!」

大人っぽい紫のドレスに身を包んだ女性がそこにいた。明るい茶髪に整った中性的な顔、女性にしては背が高いし声も低い。それに、見たことがある顔だ。

「あ、…中村なかむら久弥ひさやさんですか?」
「うん。よろしくね、碧海ちゃん。結婚おめでとう。…悠人が話した?」
「はい。ありがとうございます、お世話になりました」

私が勘違いしてしまったあのひとだ。近くで見たらやっぱり綺麗な人だった。
私の首元にはあのペリドットのネックレス。頼んだらつけていていいよ、と快く了承してくれたのだ。
このネックレスがここにあるのは目の前の彼--いや、彼女のおかげだろう。

「悠人に頼まれたから。様子を見てきてほしいって」
「…わざわざありがとうございます」
「顔が暗かったけど、大丈夫?」

そんなところまで見られてたのか。確かに暗い表情はしていたと思うが、ちょっと緊張していただけだ。
不安は昨夜、悠人が取り除いてくれたから。

「大丈夫です。…本当に、ありがとうございます」

自然と微笑む私に中村さんもパッと華やかに笑った。そして内緒よ、と囁いてペリドットのネックレスに視線を落とした。

「ペリドットの石言葉って知ってる?」
「『夫婦の幸福』ですよね?」
「うん、でももう一つあるんだよ」

もったいぶる中村さんがようやく再び口を開いたとき、扉が開く音が聞こえたが、なぜか中村さんから目が離せなかった。

「ペリドットには、『信じる心』っていう石言葉もあるんだよ」

素敵でしょ、と言う中村さんに同意した。とっても素敵だ。
私たちが話す様子をやきもきしながら見つめているそこの花婿と同じくらい。

マリッジブルーだった私の心は、きっと外の空のように晴れていることだろう。





そうして準備には一苦労あったがつつがなく結婚式は結びへと向かい---。
その日の夜。言わずもがな結婚初夜である。私は先にシャワーを終え、ひとりでベッドにいた。
結婚初夜については以前から悠人と相談して、ホテルに泊まろうということになっていた。悠人は今シャワーを浴びているのだが…。

花嫁は、何をすべきか。

このまま今の状態でベッドで座ってたほうがいいのか、それとも立ってたほうがいいか。はたまたさりげなく外でも見ていたほうがいいのか。
ぼうっと考えていたら眠くなってきた。昨日の睡眠時間少なかったからなあ……。
ぱたんとふかふかベッドに倒れ、こくりこくりと船を漕いでいるとおぼろげに音が聞こえる。

「…碧海……?寝ちゃった?」

寝てない。断じて寝てない。眠いけど寝ないようにしてる。目を閉じてるのはちょっと考え事をしているだけだ。

「…、て、ない」
「起きた?できれば起きててほしいな」
「ぇ、なぃ、も…んっ」

むきになって言い返した私の唇を彼のもので塞がれた。縫いとめるように手首を押さえられ、指が絡む。その大きな手を私はぎゅっと握り返した。

「ぁ、ふ」

昨夜のゆったりした交わりとは違い、悠人は性急に手を動かす。けれど焦ったようなものでなくて、我慢できないと言いたげな可愛いものだった。
着ていたバスローブを脱がされ、鬱血の痕が残る胸に顔を寄せた。

「ひゃ!つめたッ…」
「あぁ、ごめんなさい」

まだ若干濡れた髪にびくっと震えた。寝ぼけてた身体が刺激によって目が覚めていく。
ちゅぱちゅぱと胸を舐め、吸われるとくぅっと喉が鳴った。口で愛せないもう片方の膨らみを悠人は容赦なく揉みしだく。柔らかさを強調するように食い込ませる指に強い快楽を感じた。

「ふぁ、あ、あんっ」
「かわいい…碧海」
「ん!ゆうと、ちゃんと、ひぁっ、して…?」
「わかってる。でも碧海、先に一回いって」
「ひぅう?!ゃだ、むねだけ、なんて…っ、んん」

カリッと硬くしこり紅くなった乳首を痛くない程度に甘噛みされる。胸に触れる手や唇は大胆なのにそれ以外の場所にはまったく触ってくれない。
結局私は、胸だけで達してしまった。

「あぁっ、はぁ、ゆーと…ぁん…っ」
「…すごく可愛かった」
「ひどっ…、やだって、言ったのに!」
「ごめん。もうしないから」

絶頂の余韻からびくびく震える私の脚を開かせ、悠人が形ばかりに謝る。どろどろに蕩けているそこに指を這わせ、花芽を突き、慣らすために指先を中に入れる。
そんなのでは足りないのを知ってるくせに「苦しくない?」なんて訊いてくる。確信犯か!

「だいじょうぶ、だからっ…」
「本当?」
「うん、ぁ、もぅ、いれてよ…ああ!」

先端が入り口に埋まる。いつもと違って薄膜がないため中が溶けそうなくらいに悠人のものに絡みついて締め付けてしまう。
ゆっくり慎重に腰を動かし、時折悪戯に私の感じる場所を抉りながら悠人は私を責める。

「あ、あん、あ、ひあ!」
「碧海、動いていい…?」
「ん!もっと、うごいてっ、ちゃんと、して…っ」

私から言葉を引き出させたかったのか、悠人はそこから容赦なかった。
がつがつと奥を穿ち、私の感じるところをぐりぐりと虐めて、けれど逃げようとすると途端に愛撫を低速させて逃げられないようにして。

「んんんっ!ぁあ、いあ!」
「碧海、…っ!」

そしてようやく彼が満足したときには疲労困憊であった。指一本動かすのすらだるい。

「………」
「やりすぎた。ごめん、碧海。お願いだからこっち向いて!」
「…も、しらない」

がらがらに枯れた声で答えて悠人に背を向けた。あわあわと悠人が慌てているがこれは悠人が悪いと思う。
でも、そこまで嫌だったわけではない。
けれどそれを教えるのは、一寝入りしたあとでも許されるだろう。

私たちにはこれから長い時間を、共にするのだから。
しおりを挟む
感想 3

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(3件)

kunoenokou
2018.07.19 kunoenokou

一緒に歩いていたのがオネエで友達だったとしても、第三者から見れば女性です。他にも見ていた人がいるかもしれません。いちいち「きれいな人と歩いているのも見たよ」と言ってくる訳でもありませんし。誤解を招くでしょうね。

解除
人魚
2017.05.10 人魚

展開上必要かもしれないが、男が女に手あげた時点でそいつ屑認定でいいんじゃないかなあと思ってみる。
暴力+優しい言葉で支配するのが典型的なDV男のやり口らしいっすよー。

三原すず
2017.05.13 三原すず

ありがとうございます。
実は作者自身があそこの展開に今でも悩んでいて、何も手を挙げなくても良かったかな、と思ってます汗
悠人くんにDV疑惑をかけさせてしまいました汗
彼はそういう男じゃないと思ってます…!

解除
関谷俊博
2016.08.19 関谷俊博
ネタバレ含む
三原すず
2016.08.19 三原すず

ありがとうございます。

楽しみだなんて、嬉しいです!
のんびり更新していくので、よろしければお付き合いください。

解除

あなたにおすすめの小説

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

騎士団長のアレは誰が手に入れるのか!?

うさぎくま
恋愛
黄金のようだと言われるほどに濁りがない金色の瞳。肩より少し短いくらいの、いい塩梅で切り揃えられた柔らかく靡く金色の髪。甘やかな声で、誰もが振り返る美男子であり、屈強な肉体美、魔力、剣技、男の象徴も立派、全てが完璧な騎士団長ギルバルドが、遅い初恋に落ち、男心を振り回される物語。 濃厚で甘やかな『性』やり取りを楽しんで頂けたら幸いです!

野獣御曹司から執着溺愛されちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
野獣御曹司から執着溺愛されちゃいました

婚約破棄寸前の悪役令嬢に転生したはずなのに!?

もふきゅな
恋愛
現代日本の普通一般人だった主人公は、突然異世界の豪華なベッドで目を覚ます。鏡に映るのは見たこともない美しい少女、アリシア・フォン・ルーベンス。悪役令嬢として知られるアリシアは、王子レオンハルトとの婚約破棄寸前にあるという。彼女は、王子の恋人に嫌がらせをしたとされていた。 王子との初対面で冷たく婚約破棄を告げられるが、美咲はアリシアとして無実を訴える。彼女の誠実な態度に次第に心を開くレオンハルト 悪役令嬢としてのレッテルを払拭し、彼と共に幸せな日々を歩もうと試みるアリシア。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

無表情いとこの隠れた欲望

春密まつり
恋愛
大学生で21歳の梓は、6歳年上のいとこの雪哉と一緒に暮らすことになった。 小さい頃よく遊んでくれたお兄さんは社会人になりかっこよく成長していて戸惑いがち。 緊張しながらも仲良く暮らせそうだと思った矢先、転んだ拍子にキスをしてしまう。 それから雪哉の態度が変わり――。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

もう2度と関わりたくなかった

鳴宮鶉子
恋愛
もう2度と関わりたくなかった

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。