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続編

その結末は

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見知らぬ天井だった。
それだけでも驚愕していたのに手足を拘束されたまま粗末なベッドに寝かされていてジュリアは混乱する。
確か、両親がなにかやらかして、そのせいか男たちが屋敷にきて、父と別の馬車で運ばれて---?
その後の記憶がない。

(どうしよう、ここはどこ、暗いし汚いし寒い!)

ジュリアの薄茶の瞳に涙が溢れる。
ジュリアはヒロインだ。男たちが皆、ジュリアに傅く。皆、ジュリアを愛するはずだ。
決して、イヴァンジェリカではない。
あの悪役令嬢、ゲーム開始時から何故婚約者がいるのだ。しかもフィリップだなんて!
ゲームと全然違う!
ぐっと歯をかみしめたその時、蝶番が軋む音が聞こえた。誰かが、部屋に入ってきたのだろう。でも、だれ?

「…ご機嫌よう、クレメント子爵令嬢」
「フィリップ…!」

闇に溶けるような色の髪と瞳。麗しい顔立ち。無表情は彼の美しさを際立たせていた。
フィリップはジュリアの姿を見下ろし、唇を釣り上げる。嘲笑だった。

「惨めなもので。貴族であったはずが手足を拘束され、逃げられず--なす術なく絶望する」
「フィリップ…?」
「イヴが一時期死にたいなどと思ったのも貴様が影響しているのだろう。あんな青ざめた顔、見たことなどなかった」
「なんでっ…、わたしを助けに来たんじゃないの…っ?!」

悲痛な叫びにフィリップは鼻で笑う。
再び蝶番の軋む音がした。また、誰か来たのだろうか。
闇の中から現れたのは一人じゃなかった。5人ほどの男たち。体格が良く肌の色が少し黒かった。

「な、に…」
「ローレンス・メルフィが担当でよかった。勝手に処罰でも下されたら困る。…貴様には、報復をさせてもらうと、言っておいたはずだ」

ジュリアは床に倒れたイヴァンジェリカの肩を踏みつけ、暴言を吐いた。どこまでも無防備で、フィリップが守らなければすぐにでも他の男に奪われるような花を踏みにじられた気分だった。
詳しい話は聞けていないが淑女とは思えない単語が幾つか聞こえた。この女が常識と分別のある人間には思えなかった。
だから、何をしてもフィリップの感情が動くことは決してない。

「わたしヒロインなのになに言ってんの?!わたしに何する気っ!?」
「この男たちの相手をしてもらうだけですから楽なものでしょう。それでは」
「こんなちっせえ女の子、本当にヤってしまっていいんですかい?」

男のうちの一人が下卑た笑みでフィリップに訊ねる。
フィリップは嘲笑を向けたまま答えた。

「えぇ、肉便器にしてくださって結構」

その言葉にジュリアは数秒理解できず、その後濁った悲鳴を上げた。






「フィリップ、おかえりなさい!」

私の婚約者はやはりかわいいと、フィリップは思う。
大人ぶって落ち着いていることが多いイヴァンジェリカだが言動のあちこちがかわいい。
まずその姿がかわいい。
初めて彼女に出会ったのは13年前、彼女が7歳、フィリップが15歳のとき。そのときからかわいいと思っていたが成長するにつれてかわいく、美しくなっていった。
仕え始めたばかりの頃、母親を喪い父に甘えられないイヴァンジェリカが頼ったのは一番年齢の近いフィリップだった。
紫瞳に涙を浮かべるイヴァンジェリカを膝に乗せ、何度か慰めた。
すると数日後には前を向いていたから、フィリップは驚いた。

きっとそれがきっかけだった。

もとは多くの使用人のうちの一人だったフィリップだが、これをきっかけに彼はイヴァンジェリカ付きの執事になった。公爵はイヴァンジェリカの行動をしっかり把握していたらしい。
少しでも歳の近い者を側に置いておこうとした。
そしてフィリップにとってそれは役得だった。
フィリップはいつでもイヴァンジェリカを掻っ攫う気でいたのだから。

「ただいま帰りました」
「こんな夜遅くにどこに行っていたの?」
「所用がありまして。怒ってますか?」
「いいえ。お仕事だったらしょうがないもの。ただちょっと、……寂しかっただけ」

こんなことを言う彼女にどうして惚れないのだろうか。かわいすぎる。
舞踏会ではかなり不安にさせたようで騎士ローレンスからは婚約者のどこを見ていた、と。
王太子セドリックからは甲斐性なしとまで言われた。
あれは完全にフィリップの落ち度だ。イヴァンジェリカの様子がおかしいのに気づいていたのに気を抜いていた。
その翌日にイヴァンジェリカはジュリア・クレメントと一戦を交えた。

「肩はどうです?」
「もう全然。一週間も前のことだもの」

そう、もう一週間が経った。ジュリア・クレメントに報復するためにここまで時間がかかったのはローレンスからの引き継ぎに手間取ったからだ。
クレメント子爵家の汚職は別の者だったがイヴァンジェリカへの暴行罪はローレンスが担当だった。
ただの暴行罪ならば一ヶ月ほどの謹慎で十分。しかも若い娘のしたことだった。
けれどフィリップはそれだけに留めるには足りないとわかっていた。

ジュリアは何度かイヴァンジェリカへ暴言を吐いた。
「肉便器」だの「悪役令嬢」だの聞くに堪えないものばかり。
女性が口にするとはとてもじゃないが思えない言葉の数々に虫酸が走った。

「……、フィリップ?」
「…はい?」
「どうしたの?こわい顔して」

よしよしと肩を撫でてくれる。なんて優しいのだろうか。
こんなに優しく美しくかわいい人がいるのにどうして他の女に目が移ると思われたのか、フィリップは不思議でならない。

「なんでもありません」

不安げなイヴァンジェリカを安心させるように笑みを浮かべ、白い額に口づけを落とした。

「愛してますよ、イヴ」

--貴女が私から離れられることはない。
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