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お出迎え
しおりを挟む「しおりちゃん、パパが帰ってきたらお誕生日しましょうね」
「うん!」
ニコニコと楽しげに夕食の準備をするお母さんに、私は大きく頷いた。
今日は、あの日できなかったお誕生日のお祝いをしてくれるみたいだ。前回はお母さんに嫌われていて、お祝いしてもらった記憶がないから、すごく嬉しい。
ソファーに座って、鼻歌を歌いながら料理をするお母さんの後ろ姿を眺めていると、ピーンポーン、とチャイムが鳴った。
その音に、ビクッと体が跳ねて固まっていると、モニターを見たお母さんがにっこり笑った。
「しおりちゃん。パパ、帰ってきたわよ」
「……パパ?」
そっか、お父さんか。
ホッと体から力が抜ける。
そうだ! お父さんが帰ってきたならお出迎えしないと。
「しー、おでむかえ、してくる!」
「あら。じゃあお願いね」
「うん!」
ピョンとソファーから降りて、玄関へ急ぐ。
前回は記憶になかったお父さんは、とても真面目そうな人だった。
口数が少なくて、無表情って訳じゃないけど、あまり笑わない人。
入院中、毎日夜に会いに来てくれたお父さんが笑ったところを見たのは、数回だけ。それも、口角が上がっただけの控えめな笑み。
だけど、フッて笑ったその顔が、すごく優しくて、温かくて。
私はお父さんが大好きになった。
もっともっと笑って欲しい、って。私を見て、笑って欲しいって思った。
きっとお母さんも、お父さんのそんなところに惚れたんだろうなって思った。
そんなわけで、お父さんに愛嬌を振り撒くためにも。そして、お父さんに笑ってもらうためにも。
私は元気に可愛く、お父さんをお出迎えするのだ。
「あ…………」
小さな足でトテトテと。
なんとか玄関にたどり着いて、カギを開けようとした私は、重大なことに気づいて固まった。
「どーしよう……。とどかない……」
手を伸ばしても、つま先立ちをしても、カギに手が届かないのだ。
どうしよう。これじゃあカギが開けられない。
お父さんが外で待ってるのに……。
お母さんを呼ぶ?
だけど怒られないかな?
自分からお出迎えするなんて言っといて、カギを開けられないなんて。
どうしよう……。
どうしよう……。
ドアの前でグルグル考え込んでいると、様子を見に、お母さんが来た。
「しおりちゃん? どうしたの?」
不思議そうな顔で歩いてくるお母さんに、涙がこぼれそうになる。
「ごめ、しゃい……。しー、とどかない……」
「あら。そうだったわね」
お母さんはきょとんとして、それからふわりと笑うと、私がどんなに手を伸ばしても届かなかったカギをカチャリと開けた。
すると、直ぐにドアが開く。
「ただいま。……詩織はどうして泣いてるんだ?」
「お帰りなさい、史和さん。しおりちゃん、史和さんのお出迎えしようとしたんだけど、カギに手が届かなかったのよ」
「ああ、それで」
うふふ、と笑うお母さんに、お父さんは納得したように頷いた。
そしてカバンをお母さんに手渡して、私を抱き上げた。
ビックリしてお父さんの肩にしがみつくと、お父さんが目線を合わせた。そして。
「ただいま、詩織。お出迎えしてくれて、ありがとう」
フッと優しく笑うお父さん。
お父さんが、笑ってくれた!
私はそれが嬉しくて、こくんと頷いてお父さんに抱きついた。
顔が赤くなるのがわかる。それくらい嬉しい。
「おかえりなさい、パパ!」
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