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■5.聖夜の鬼は下僕に傅(かしず)く
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「ん……っ、ふぁっ、ぁ……っ、ぅん……ん……っ」
「薪、今日はいつもより濡れてる」
「そんなこと……んぁ……っ、い、言わないで。……恥ずかしい」
「いや、すげー可愛いと思って」
「主任だって、ん……っ、もう、おっきい……ぁっ、ですよ」
「ああ。もっと触って」
それから数時間――。
寝室のベッドの上では、薪と真紘が起こす衣擦れの音が断続的に響いていた。
甘く淫らなキスの合間に囁かれた薪は、秘所を撫でるように触る真紘の手から逃れるように少しだけ腰を引いて抗議したけれど、すぐに真紘の手が追いかけてきて、薪の身体は、もっと触ってほしいと勝手に脚が開いていった。
薪も真紘の大きく反り立った熱茎を握り、上下に動かすけれど、甘い刺激を与えられるたびに手が止まりかけてしまうので、なかなか思うようにはいかない。それでも、たどたどしい手つきにも亀頭がしっとり濡れているのがわかる。
お互いの服も下着も、もうとっくにベッドの下に落ちてその役割を終えていた。暖炉はリビングの一箇所だけのようだったものの、それでも火の温もりは十分に寝室も暖めてくれていて、裸でいても、むしろ少し暑いくらいかもしれない。
買い出しから戻ったあと、薪たちはキッチンに立って一緒に料理を作り、ワインを飲みながら「美味しい!」とお腹いっぱいになるまでそれを堪能した。
ほとんど真紘が包丁を握ったので、薪は味つけや盛り付けを手伝う程度だったけれど、そうしていると、なんだか結婚後の様子を疑似体験しているような気分になって、薪はひとりで勝手に照れたり恥ずかしくなったりしながら、真紘の指示に従ってキッチンやダイニングテーブルを行き来した。
食材の持ち込みが自由だというコテージのキッチンは、調理器具や食器類、調味料も充実していて、冷蔵庫も大型と、普通の家のキッチンと変わらない造りだ。もしかすると、少し豪華なくらいかもしれない。ふたりで立っても十分にゆとりがあって、ガスコンロもお洒落だし、シンクだって調理台だってモダンだった。
クリスマスらしく、チキンやポットパイ、ポテトサラダなどを並べたテーブルに向き合って座り、ワインを注いだグラスを鳴らして乾杯すれば、ふたりだけのクリスマスパーティーのはじまりだった。
リビングのクリスマスツリーが色とりどりに煌めく中、手作りの料理に舌鼓を打ちながら、とりとめのない会話をして、笑い合う。
食べ終わったあとは、暖炉の火を眺めながらソファーに寄り添って座り、やがて劣情を含んだ視線が絡んで、寝室のベッドの上――ふたりは今、お互いがお互いを確かめるように、一番敏感な部分を撫でるように触り合っている。
「主任、も……う、欲しい……」
「ダメ。まだ全身だって触ってないだろ」
「でも……。じゃあ、口で……したい。それなら、いいですよね?」
「それもダメ。全部、俺がする」
「……いじわる」
もう挿れてほしいと言っても、口でしたいと言っても真紘にダメだと返され、薪は少しだけ面白くない。自分でもけして上手いとは思っていないけれど、好きな人のものだ、薪だってたくさん愛したいし、真紘にも感じてもらいたい。
けれど、熱茎を握っていた手をやんわり離されると、真紘は身体を起こして少し下がり、薪の右足を掬うように持ち上げて、その甲に唐突にキスをした。続いて足の裏に、指に、そして指の間に沿って舌を這わせはじめるから、さすがに驚く。
「主任……⁉ ちょっ、そんなのダメですって……!」
「全身だって言った。ダメなところなんてない」
慌てて起き上がろうとする薪だったけれど、片足を持たれていることで上手くバランスが取れず、伸ばした手は空を切るばかりだ。
「ゃ……恥ずかしい、から」
「ん。でも、反応はいいから。それに、恥ずかしそうな顔も興奮する」
「……、……」
そう言われると、どうにも言葉に困る。
そんな勝手なとも思うし、言われた通り、すごく恥ずかしい。けれど気持ちよくもあって、足にも性感帯があるんだろうかと思ってしまうほどだ。それに、なんだか真紘に服従されているような、不思議な気分にもなってくる。
舌で舐められるくすぐったさや、かかる吐息の熱さ、それに何より、どうにも形容しがたい気持ちよさが、次第に薪の頭の芯を犯していく。
「知ってるか、薪。足にするキスには、場所によって意味があるらしい」
そんな中、踵にちゅっと吸い付いた真紘が、ちらりとこちらに目を向けた。
「……意味、ですか?」
「そうだ。足の甲は〝眷属〟の意味――心から相手に尽くしたい、それくらい愛してるって意味らしい。足の裏は〝忠誠〟――相手を労わる気持ちや、自分を信じてほしいっていう気持ちが込められているそうだ」
尋ねる薪にふっと笑うと、真紘はそう言いながら、また甲に、裏にキスをする。
「足の指にするキスは〝崇拝〟だし、踵は〝服従〟らしい」
そして、足の指にも、踵にも、同じようにキスをしていった。
「そんな……。それじゃあ、まるで――」
「〝俺は薪のものみたいだ〟って?」
言葉尻を奪うように聞かれて、薪は小さく頷く。足へのキスがはじまったときに、まるで真紘に服従されているようだと思ったけれど、まさか同じ意味だったり、もっと強い意味も持っているだなんて、思いもよらなかった。
「何も違わないだろ。俺は薪のものだし、薪だって俺のものだ。薪が気持ちいいことは、どんなことでもしてやりたいし、薪も俺にいろいろしたいって言ってくれる。今日は俺が薪に全部したいけど、逆のときだってあるんだ。だから薪は、黙って〝俺は薪のものだ〟って思いながら全身くまなく感じていればいい」
「……主任」
「な? だから今日は、全部、俺にさせてほしい」
「っ……」
真っすぐに見つめられて、薪は、ずんと子宮が降りてくるような感覚がした。
もとより、付き合ってから抱き合うたびに真紘に身体の隅々まで愛され、求められて、薪は自分でも〝真紘のもの〟という感覚があった。
それはけして、これまでの仕事上での〝鬼と下僕の主従関係〟みたいなものが抜けきらないとか、上司と部下だからとか、そういうんじゃなく、ただたた、真紘に触れられたところが喜びに満ちていって、真紘にだから鳴る心臓の音が、薪に、私は主任のものなんだという安心感を与えてくれていた。
けれど、真紘のほうからも〝真紘は自分のもの〟と思ってほしいと言葉でも足へのキスでも示されるなんて、こんなにも幸せなことがあるんだろうかと思う。
きっと真紘が言いたいのは、征服とか支配とか、そういう、どちらか一方が相手を自分のものにしようとして身体を重ねるわけじゃない、ということだろう。足へのキスには眷属や忠誠や崇拝なんていう、ちょっと驚くような意味もあったものの、それくらい真紘は薪にも〝自分のもの〟と思ってほしいのだ。
それなら、と薪は思う。
真紘にしてほしいことは、たくさんある。
「はい。……じゃあ、身体中、主任のキスでいっぱいにしてほしいです」
「わかった。あとは?」
「反対の足も。同じようにしてほしいです」
「薪が望むなら、いくらでも」
それから真紘は、薪の左足も包み込むように持ち上げると、甲に、裏に、指に、踵に、くまなくキスをしていった。唇が触れるたび、吐息や舌が這うたびに薪は得も言われぬ感覚に全身が甘く蕩けていき、徐々に身体の中心が熱くなっていく。
「今度はどこにしてほしい?」
それを見逃す真紘ではなく、聞かれて薪は、枕を掴んでいた手を中空に伸ばし、そこに指を絡めてきた真紘を熱くなっている中心に導いていく。言葉にするには恥ずかしくて、けれどやっぱり、そこもたくさん愛してほしい。
「……欲しがりめ。本当に可愛いな、薪は」
「ぁ……っ、うぅん……っ」
すると真紘が下肢の顔を埋めて、薪の口から甘い声が漏れていった。
「んぁ……っ、あ……んっ、んんっ……ああっ、ん……っ!」
次第に艶を帯びていく声は、真紘が秘裂を指で開いて花芽を露わにさせ、口に含んで硬く尖らせた舌先で舐めたり、転がしてみたりと、そこに集中して甘い刺激を送り込んでくる強さに比例している。身体を拘束されているわけでもないのに脚が閉じれず、両手も枕をきつく握りしめたまま、そこから離せない。
「もっと聞かせて」
「ぁんっ……、あ……んっ、んん……っ、主任っ、それ、好き……っ」
「もっと?」
「いっぱい……っ、欲し、っ。もっと……っ」
「いい子だ」
腰が浮くたび、薪は自分の乳房がその動きに合わせて揺れているのがわかった。先端もさっきからずっと硬いままで、ピリピリと甘苦い刺激を感じ続けている。
そこもいずれ触ってほしいし、キスもしてほしいけれど、今、たくさん欲しいのは、真紘がとめどなく快感を送り込んでいるそこだ。太ももの内側に真紘の柔らかい髪の毛が触れてくすぐったい。吐息がかかってピクンと秘所がひくつく。その快感の全部で〝真紘は自分のもの〟と感じたい。
「一回、いくか? 辛そうだ」
「い、きたい……っ。主任、いかせてほし……っ」
すると、下肢の間から少し顔を上げた真紘に聞かれて、薪は溜まり続ける快感を一回、身体の外に出したいと途切れ途切れに懇願した。
どうやら真紘には、もうそろそろ大きな波が来ることを見透かされていたらしい。とはいえ、自分でも真紘の舌が這うそばから蜜が溢れて止まらないのはわかっていたし、腰ももう、どうにもできないくらい、ひくひく動いて、まるで真紘を誘っているみたいだった。これでは、わかりやすいにも程があるだろう。
「いいよ。見せて」
「んあっ……!」
直後、中にするりと指が入って、隘路を進むその感覚だけで、薪はひとつ、大きく嬌声を上げた。と同時に、身体を起こした真紘に反対の手で乳房を掴まれ、強い力で揉まれはじめる。
「ああ……っ、ぁっ、あっ……ん、んんっ、ぅんん……っ!」
真紘の指の間や手の平で乳首が転がり、ビリビリと甘い刺激が走る。無造作な動きがかえって興奮を助長するようで、薪はそれがたまらなく気持ちいい。
中に入った指はまた違う動きで薪の興奮を高めていく。
隘路を進んだり戻ったり、ぐっと押し込んで奥を攻めてみたり、そこで搔き回すように動いたり、そのたびに、薪の耳に自分が出す蜜のじゅぶじゅぶという卑猥な音が聞こえて、羞恥に頬が火照りながらも、さらに興奮が加速した。
まるで〝もうとっくに知っている〟〝薪はここが好きだもんな〟と言わんばかりに、膣壁の上側の一番弱いところを爪でカリカリと掻かれれば、もう十分なほどに高められた身体には、送り込まれる快感を留めておくのは無理な話だった。
「ぁん、んん……っ、ぃく、いっちゃう……んぁああ――っ!」
ひと際強く掻かれた爪の先での刺激にあっという間に達するのと同時に背筋が弓なりにしなり、強い余韻の波にぴくん、ぴくんと腰が跳ねる。口からは、はぁはぁと荒い息が漏れて、薪は頭に白い靄がかかっていくようだった。
「キスは?」
「ほ、しい……主任、いっぱい、して。中にも、主任が欲しい……」
「ん。キスと挿れるのと、どっちが先がいい?」
「一緒、がいい。……激しいの、いっぱい、欲しい」
登り詰めたばかりで至るところが敏感になっている身体を優しく撫でられながら、薪は上がった息の合間に真紘に聞かれるままにしてほしいことを答えていく。
口にしながら、薪は自分でも、こんなにも〝性〟に貪欲な部分があったなんてと驚いたし、それに比例するように出ていった直接的な言葉も、本当に自分の口から出たんだろうかと、にわかには信じられないような気持ちだった。
けれど、こんな自分も真紘に見てほしい、真紘にだからこそ際限なく欲しいと言葉にする自分の姿をもっともっと曝け出したいと心の底から望むのだから、どうしようもないくらいに真紘に毒されているなと薪は思う。
「薪の仰せのままに」
「――ぅうんん……っ!」
すると、薪の顔の横に片方の肘を付いた真紘が、そう言うなりキスと挿入を同時にし、真紘のキスで塞がれた薪の口からは、くぐもった嬌声が漏れていった。ぬらぬらと蜜を絡ませながら入り口を探し当て、難なく進んだ真紘の屹立が膣壁の奥のほうに当たって甘い腹痛をもたらし、薪は眉間にしわが寄る。
目を閉じていることでより、その大きすぎるほどの存在感と圧迫感が感じられ、それが薪に〝これは私のもの〟という感覚を頭にも身体にも植え付けていく。
「ん……っ、ふぁっ、ぁ……っ、ぅん……ん……っ」
「薪、今日はいつもより濡れてる」
「そんなこと……んぁ……っ、い、言わないで。……恥ずかしい」
「いや、すげー可愛いと思って」
「主任だって、ん……っ、もう、おっきい……ぁっ、ですよ」
「ああ。もっと触って」
それから数時間――。
寝室のベッドの上では、薪と真紘が起こす衣擦れの音が断続的に響いていた。
甘く淫らなキスの合間に囁かれた薪は、秘所を撫でるように触る真紘の手から逃れるように少しだけ腰を引いて抗議したけれど、すぐに真紘の手が追いかけてきて、薪の身体は、もっと触ってほしいと勝手に脚が開いていった。
薪も真紘の大きく反り立った熱茎を握り、上下に動かすけれど、甘い刺激を与えられるたびに手が止まりかけてしまうので、なかなか思うようにはいかない。それでも、たどたどしい手つきにも亀頭がしっとり濡れているのがわかる。
お互いの服も下着も、もうとっくにベッドの下に落ちてその役割を終えていた。暖炉はリビングの一箇所だけのようだったものの、それでも火の温もりは十分に寝室も暖めてくれていて、裸でいても、むしろ少し暑いくらいかもしれない。
買い出しから戻ったあと、薪たちはキッチンに立って一緒に料理を作り、ワインを飲みながら「美味しい!」とお腹いっぱいになるまでそれを堪能した。
ほとんど真紘が包丁を握ったので、薪は味つけや盛り付けを手伝う程度だったけれど、そうしていると、なんだか結婚後の様子を疑似体験しているような気分になって、薪はひとりで勝手に照れたり恥ずかしくなったりしながら、真紘の指示に従ってキッチンやダイニングテーブルを行き来した。
食材の持ち込みが自由だというコテージのキッチンは、調理器具や食器類、調味料も充実していて、冷蔵庫も大型と、普通の家のキッチンと変わらない造りだ。もしかすると、少し豪華なくらいかもしれない。ふたりで立っても十分にゆとりがあって、ガスコンロもお洒落だし、シンクだって調理台だってモダンだった。
クリスマスらしく、チキンやポットパイ、ポテトサラダなどを並べたテーブルに向き合って座り、ワインを注いだグラスを鳴らして乾杯すれば、ふたりだけのクリスマスパーティーのはじまりだった。
リビングのクリスマスツリーが色とりどりに煌めく中、手作りの料理に舌鼓を打ちながら、とりとめのない会話をして、笑い合う。
食べ終わったあとは、暖炉の火を眺めながらソファーに寄り添って座り、やがて劣情を含んだ視線が絡んで、寝室のベッドの上――ふたりは今、お互いがお互いを確かめるように、一番敏感な部分を撫でるように触り合っている。
「主任、も……う、欲しい……」
「ダメ。まだ全身だって触ってないだろ」
「でも……。じゃあ、口で……したい。それなら、いいですよね?」
「それもダメ。全部、俺がする」
「……いじわる」
もう挿れてほしいと言っても、口でしたいと言っても真紘にダメだと返され、薪は少しだけ面白くない。自分でもけして上手いとは思っていないけれど、好きな人のものだ、薪だってたくさん愛したいし、真紘にも感じてもらいたい。
けれど、熱茎を握っていた手をやんわり離されると、真紘は身体を起こして少し下がり、薪の右足を掬うように持ち上げて、その甲に唐突にキスをした。続いて足の裏に、指に、そして指の間に沿って舌を這わせはじめるから、さすがに驚く。
「主任……⁉ ちょっ、そんなのダメですって……!」
「全身だって言った。ダメなところなんてない」
慌てて起き上がろうとする薪だったけれど、片足を持たれていることで上手くバランスが取れず、伸ばした手は空を切るばかりだ。
「ゃ……恥ずかしい、から」
「ん。でも、反応はいいから。それに、恥ずかしそうな顔も興奮する」
「……、……」
そう言われると、どうにも言葉に困る。
そんな勝手なとも思うし、言われた通り、すごく恥ずかしい。けれど気持ちよくもあって、足にも性感帯があるんだろうかと思ってしまうほどだ。それに、なんだか真紘に服従されているような、不思議な気分にもなってくる。
舌で舐められるくすぐったさや、かかる吐息の熱さ、それに何より、どうにも形容しがたい気持ちよさが、次第に薪の頭の芯を犯していく。
「知ってるか、薪。足にするキスには、場所によって意味があるらしい」
そんな中、踵にちゅっと吸い付いた真紘が、ちらりとこちらに目を向けた。
「……意味、ですか?」
「そうだ。足の甲は〝眷属〟の意味――心から相手に尽くしたい、それくらい愛してるって意味らしい。足の裏は〝忠誠〟――相手を労わる気持ちや、自分を信じてほしいっていう気持ちが込められているそうだ」
尋ねる薪にふっと笑うと、真紘はそう言いながら、また甲に、裏にキスをする。
「足の指にするキスは〝崇拝〟だし、踵は〝服従〟らしい」
そして、足の指にも、踵にも、同じようにキスをしていった。
「そんな……。それじゃあ、まるで――」
「〝俺は薪のものみたいだ〟って?」
言葉尻を奪うように聞かれて、薪は小さく頷く。足へのキスがはじまったときに、まるで真紘に服従されているようだと思ったけれど、まさか同じ意味だったり、もっと強い意味も持っているだなんて、思いもよらなかった。
「何も違わないだろ。俺は薪のものだし、薪だって俺のものだ。薪が気持ちいいことは、どんなことでもしてやりたいし、薪も俺にいろいろしたいって言ってくれる。今日は俺が薪に全部したいけど、逆のときだってあるんだ。だから薪は、黙って〝俺は薪のものだ〟って思いながら全身くまなく感じていればいい」
「……主任」
「な? だから今日は、全部、俺にさせてほしい」
「っ……」
真っすぐに見つめられて、薪は、ずんと子宮が降りてくるような感覚がした。
もとより、付き合ってから抱き合うたびに真紘に身体の隅々まで愛され、求められて、薪は自分でも〝真紘のもの〟という感覚があった。
それはけして、これまでの仕事上での〝鬼と下僕の主従関係〟みたいなものが抜けきらないとか、上司と部下だからとか、そういうんじゃなく、ただたた、真紘に触れられたところが喜びに満ちていって、真紘にだから鳴る心臓の音が、薪に、私は主任のものなんだという安心感を与えてくれていた。
けれど、真紘のほうからも〝真紘は自分のもの〟と思ってほしいと言葉でも足へのキスでも示されるなんて、こんなにも幸せなことがあるんだろうかと思う。
きっと真紘が言いたいのは、征服とか支配とか、そういう、どちらか一方が相手を自分のものにしようとして身体を重ねるわけじゃない、ということだろう。足へのキスには眷属や忠誠や崇拝なんていう、ちょっと驚くような意味もあったものの、それくらい真紘は薪にも〝自分のもの〟と思ってほしいのだ。
それなら、と薪は思う。
真紘にしてほしいことは、たくさんある。
「はい。……じゃあ、身体中、主任のキスでいっぱいにしてほしいです」
「わかった。あとは?」
「反対の足も。同じようにしてほしいです」
「薪が望むなら、いくらでも」
それから真紘は、薪の左足も包み込むように持ち上げると、甲に、裏に、指に、踵に、くまなくキスをしていった。唇が触れるたび、吐息や舌が這うたびに薪は得も言われぬ感覚に全身が甘く蕩けていき、徐々に身体の中心が熱くなっていく。
「今度はどこにしてほしい?」
それを見逃す真紘ではなく、聞かれて薪は、枕を掴んでいた手を中空に伸ばし、そこに指を絡めてきた真紘を熱くなっている中心に導いていく。言葉にするには恥ずかしくて、けれどやっぱり、そこもたくさん愛してほしい。
「……欲しがりめ。本当に可愛いな、薪は」
「ぁ……っ、うぅん……っ」
すると真紘が下肢の顔を埋めて、薪の口から甘い声が漏れていった。
「んぁ……っ、あ……んっ、んんっ……ああっ、ん……っ!」
次第に艶を帯びていく声は、真紘が秘裂を指で開いて花芽を露わにさせ、口に含んで硬く尖らせた舌先で舐めたり、転がしてみたりと、そこに集中して甘い刺激を送り込んでくる強さに比例している。身体を拘束されているわけでもないのに脚が閉じれず、両手も枕をきつく握りしめたまま、そこから離せない。
「もっと聞かせて」
「ぁんっ……、あ……んっ、んん……っ、主任っ、それ、好き……っ」
「もっと?」
「いっぱい……っ、欲し、っ。もっと……っ」
「いい子だ」
腰が浮くたび、薪は自分の乳房がその動きに合わせて揺れているのがわかった。先端もさっきからずっと硬いままで、ピリピリと甘苦い刺激を感じ続けている。
そこもいずれ触ってほしいし、キスもしてほしいけれど、今、たくさん欲しいのは、真紘がとめどなく快感を送り込んでいるそこだ。太ももの内側に真紘の柔らかい髪の毛が触れてくすぐったい。吐息がかかってピクンと秘所がひくつく。その快感の全部で〝真紘は自分のもの〟と感じたい。
「一回、いくか? 辛そうだ」
「い、きたい……っ。主任、いかせてほし……っ」
すると、下肢の間から少し顔を上げた真紘に聞かれて、薪は溜まり続ける快感を一回、身体の外に出したいと途切れ途切れに懇願した。
どうやら真紘には、もうそろそろ大きな波が来ることを見透かされていたらしい。とはいえ、自分でも真紘の舌が這うそばから蜜が溢れて止まらないのはわかっていたし、腰ももう、どうにもできないくらい、ひくひく動いて、まるで真紘を誘っているみたいだった。これでは、わかりやすいにも程があるだろう。
「いいよ。見せて」
「んあっ……!」
直後、中にするりと指が入って、隘路を進むその感覚だけで、薪はひとつ、大きく嬌声を上げた。と同時に、身体を起こした真紘に反対の手で乳房を掴まれ、強い力で揉まれはじめる。
「ああ……っ、ぁっ、あっ……ん、んんっ、ぅんん……っ!」
真紘の指の間や手の平で乳首が転がり、ビリビリと甘い刺激が走る。無造作な動きがかえって興奮を助長するようで、薪はそれがたまらなく気持ちいい。
中に入った指はまた違う動きで薪の興奮を高めていく。
隘路を進んだり戻ったり、ぐっと押し込んで奥を攻めてみたり、そこで搔き回すように動いたり、そのたびに、薪の耳に自分が出す蜜のじゅぶじゅぶという卑猥な音が聞こえて、羞恥に頬が火照りながらも、さらに興奮が加速した。
まるで〝もうとっくに知っている〟〝薪はここが好きだもんな〟と言わんばかりに、膣壁の上側の一番弱いところを爪でカリカリと掻かれれば、もう十分なほどに高められた身体には、送り込まれる快感を留めておくのは無理な話だった。
「ぁん、んん……っ、ぃく、いっちゃう……んぁああ――っ!」
ひと際強く掻かれた爪の先での刺激にあっという間に達するのと同時に背筋が弓なりにしなり、強い余韻の波にぴくん、ぴくんと腰が跳ねる。口からは、はぁはぁと荒い息が漏れて、薪は頭に白い靄がかかっていくようだった。
「キスは?」
「ほ、しい……主任、いっぱい、して。中にも、主任が欲しい……」
「ん。キスと挿れるのと、どっちが先がいい?」
「一緒、がいい。……激しいの、いっぱい、欲しい」
登り詰めたばかりで至るところが敏感になっている身体を優しく撫でられながら、薪は上がった息の合間に真紘に聞かれるままにしてほしいことを答えていく。
口にしながら、薪は自分でも、こんなにも〝性〟に貪欲な部分があったなんてと驚いたし、それに比例するように出ていった直接的な言葉も、本当に自分の口から出たんだろうかと、にわかには信じられないような気持ちだった。
けれど、こんな自分も真紘に見てほしい、真紘にだからこそ際限なく欲しいと言葉にする自分の姿をもっともっと曝け出したいと心の底から望むのだから、どうしようもないくらいに真紘に毒されているなと薪は思う。
「薪の仰せのままに」
「――ぅうんん……っ!」
すると、薪の顔の横に片方の肘を付いた真紘が、そう言うなりキスと挿入を同時にし、真紘のキスで塞がれた薪の口からは、くぐもった嬌声が漏れていった。ぬらぬらと蜜を絡ませながら入り口を探し当て、難なく進んだ真紘の屹立が膣壁の奥のほうに当たって甘い腹痛をもたらし、薪は眉間にしわが寄る。
目を閉じていることでより、その大きすぎるほどの存在感と圧迫感が感じられ、それが薪に〝これは私のもの〟という感覚を頭にも身体にも植え付けていく。
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