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藤原史郎の殺人遊戯3/白昼夢5
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あまりの潔癖症から避難民ともワンダーランドの人間とも離れてネット経由で情報収集をしていた加藤総次郎は奇妙な既視感に目頭を押さえた。
目の前では血塗れのポン太が穂村雫と命の取り合いをしている。暴漢から逃れてきた避難民が悲鳴を上げて新たな異常者から少しでも遠ざかろうとパニックになっている。何時か何処かで同じ景色を見た気がしていたのだ。
そう、もう少し低い視点から加藤はポン太を見上げていた。ポン太は手に血の滴る包丁を携えていた。
相対していたのは穂村雫ではなく―――。
「ポン太、てめえ何のつもりだ」
「あっちゃー。厄介そうな方が残っちゃったな。アカリちゃんってリンク能力者っすよね?」
「それがどうした」
「いや先制ダメージを与えた方が殺しやすいじゃないっすか」
ヘラヘラと笑うポン太を激怒して睨み付けているのは佐藤浩介だ。
それを加藤は腹部を押さえて見上げていた。深い刺し傷に雑菌が入るなと妙な心配をしていたのを加藤は覚えている。
「つーか前から思ってたんすけど、何でわざわざ赤髪のキャラに変身してるんすか? 日本人にはギリギリ見えるにしても、すっげー浮いてるっすよ」
「何でそんなことを聞く」
「だってもう聞けなくなるじゃないっすか。ここでアカリちゃん死ぬんだし」
当然のように告げてくるポン太に浩介は怒りで血管を浮き上がらせながらも、一度、深く息を整えてアイテムボックスから武装を取り出した。
大型シャベルを素振りした浩介は肩に柄を乗せると口を開いた。
「知んねーのか、赤は主人公の色なんだよ」
「ぶっは。ダッセー」
吹き出したポン太の隙を見逃さず大上段からシャベルを振り下ろした浩介を見て、何故か加藤は安心していた。
何故か。そう浩介が生きているからだ。
ポン太に殺害されかけた浩介を庇う事が出来たから、満足して加藤は倒れていたのだった。
食中毒で親しい友人が何人も死んでから執拗に清潔である事を意識してきた加藤はもう何年も人と触れ合っていない。食事もビタミン剤や点滴で済ませて最低限も口にせず、死に急ぐように生きてきた。何時も何処か満たされない空白が胸にポッカリと空いて埋まらなかった。
病気のように他人の動向を注視して雑菌に触れないように気を付けて気を付けて気を付けて、もう限界だった。
だから浩介が加藤の為に作ってくれた料理を食べた時、口の中に広がったご飯の暖かい熱がどうしようもなく心に沁みたのだ。
加藤が本当に怖かったのは病原菌ではなく、もう友人達はいないのだと思い出してしまう事で。
ただ、それだけのことが、心の底から恐ろしかったのだ。
「アミ!」
女性の声にハッとして加藤は顔を上げた。
あまりもの非常事態に呆然としてしまっていて現状を正しく認識できていなかったのだろう。もう何を考えていたのかすら思い出せない。
顔を上げた目の前には小学生くらいの女の子がいて涙目で地面に座り込んでいた。足を捻挫でもしたのだろう、立ち上がろうとしていない。
その子の頭上へ猛スピードで机が落下し始めていた。ポン太が手に入れた強靱な身体能力で穂村が転移できない重量の物体を避難民に投擲しているのだ。聞こえてくる笑い声から意図的に狙ったのだと判断できる。まるで悪魔のような男だ。
「グゥッ」
庇おうと思考する暇すらなく気付けば加藤は落下物と少女の間に飛び出していた。
額から流れ落ちる血がポタポタと少女に降りかかる光景が加藤の目に入る。
「お、お兄ちゃん大丈夫?」
「ああ」
朦朧とする意識の中、加藤は言った。
「早く避難して殺菌しなさい」
何処か晴れやかな笑顔であった。
目の前では血塗れのポン太が穂村雫と命の取り合いをしている。暴漢から逃れてきた避難民が悲鳴を上げて新たな異常者から少しでも遠ざかろうとパニックになっている。何時か何処かで同じ景色を見た気がしていたのだ。
そう、もう少し低い視点から加藤はポン太を見上げていた。ポン太は手に血の滴る包丁を携えていた。
相対していたのは穂村雫ではなく―――。
「ポン太、てめえ何のつもりだ」
「あっちゃー。厄介そうな方が残っちゃったな。アカリちゃんってリンク能力者っすよね?」
「それがどうした」
「いや先制ダメージを与えた方が殺しやすいじゃないっすか」
ヘラヘラと笑うポン太を激怒して睨み付けているのは佐藤浩介だ。
それを加藤は腹部を押さえて見上げていた。深い刺し傷に雑菌が入るなと妙な心配をしていたのを加藤は覚えている。
「つーか前から思ってたんすけど、何でわざわざ赤髪のキャラに変身してるんすか? 日本人にはギリギリ見えるにしても、すっげー浮いてるっすよ」
「何でそんなことを聞く」
「だってもう聞けなくなるじゃないっすか。ここでアカリちゃん死ぬんだし」
当然のように告げてくるポン太に浩介は怒りで血管を浮き上がらせながらも、一度、深く息を整えてアイテムボックスから武装を取り出した。
大型シャベルを素振りした浩介は肩に柄を乗せると口を開いた。
「知んねーのか、赤は主人公の色なんだよ」
「ぶっは。ダッセー」
吹き出したポン太の隙を見逃さず大上段からシャベルを振り下ろした浩介を見て、何故か加藤は安心していた。
何故か。そう浩介が生きているからだ。
ポン太に殺害されかけた浩介を庇う事が出来たから、満足して加藤は倒れていたのだった。
食中毒で親しい友人が何人も死んでから執拗に清潔である事を意識してきた加藤はもう何年も人と触れ合っていない。食事もビタミン剤や点滴で済ませて最低限も口にせず、死に急ぐように生きてきた。何時も何処か満たされない空白が胸にポッカリと空いて埋まらなかった。
病気のように他人の動向を注視して雑菌に触れないように気を付けて気を付けて気を付けて、もう限界だった。
だから浩介が加藤の為に作ってくれた料理を食べた時、口の中に広がったご飯の暖かい熱がどうしようもなく心に沁みたのだ。
加藤が本当に怖かったのは病原菌ではなく、もう友人達はいないのだと思い出してしまう事で。
ただ、それだけのことが、心の底から恐ろしかったのだ。
「アミ!」
女性の声にハッとして加藤は顔を上げた。
あまりもの非常事態に呆然としてしまっていて現状を正しく認識できていなかったのだろう。もう何を考えていたのかすら思い出せない。
顔を上げた目の前には小学生くらいの女の子がいて涙目で地面に座り込んでいた。足を捻挫でもしたのだろう、立ち上がろうとしていない。
その子の頭上へ猛スピードで机が落下し始めていた。ポン太が手に入れた強靱な身体能力で穂村が転移できない重量の物体を避難民に投擲しているのだ。聞こえてくる笑い声から意図的に狙ったのだと判断できる。まるで悪魔のような男だ。
「グゥッ」
庇おうと思考する暇すらなく気付けば加藤は落下物と少女の間に飛び出していた。
額から流れ落ちる血がポタポタと少女に降りかかる光景が加藤の目に入る。
「お、お兄ちゃん大丈夫?」
「ああ」
朦朧とする意識の中、加藤は言った。
「早く避難して殺菌しなさい」
何処か晴れやかな笑顔であった。
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