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1話「ここはいったいどこなのよ」

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 青い空。白い雲。目の前に広がる平原と、見た事もない大きな獣たち!


(どうしてこうなった……)

 どうしたもこうしたも、気づけば周りに何もない見知らぬ野原のど真ん中に、いつもの通勤スタイルで寝ていて、「ここどこー!」と叫んでみたら、近くの樹の下にいた見た事もない獣たちが3頭、声に釣られて寄って来たのだ。

 仕事に疲れると猫カフェに行って癒される程度の動物好きなわたしですが、頭に一本角を生やし、狼を大きくしたような獣たちはどう見ても仲良く遊んでくれそうな雰囲気じゃない。

 獣は鋭い視線で此方の動きを観察してるし、わたしの頭なんて軽く入りそうな口からはよだれがボトボトと零れている。

(これは……どうあがいても食べられる以外選択肢無さそう……)

 訳も分からないまま平原の真ん中で目を覚まし、訳も分からないままバリバリ食べられそうな目に逢う覚えなんてないんですけど……?

 いや、待って。そもそも目を覚ます前、何してたっけ。仕事? 睡眠? それとも……。

 目の前のピンチから現実逃避するかのように、記憶の糸をたぐり寄せる。

 だってもしかしたら、それでこの状況を打破できるかもしれない。

 一縷の望みをかけてたぐった糸の先に、目もくらむ程のまばゆい光があった。


_____________________________


 わたしの名前は遠藤まりな。27歳で独身兼彼氏ナシ。絶賛ブラック一歩手前企業で日夜仕事に勤しんでいる社会人だ。

 趣味という程ではないけれど、携帯アプリの女性向けゲーム『アルブレアの神獣』にハマって、最近二次創作の小説を書き始めたりしている。

 今まで読み専だったけれど、実際自分で書いてみると結構大変。でも自分の好きって気持ちを文章に綴れるのはとっても楽しい。

 何時も通り、終電ギリギリの時間まで働き、帰りのコンビニで新作のちょっと良いお菓子と明日の朝食を買う。

 今日は帰ったら、外では顔がニヤけるのでガマンしていたゲームのイベントシナリオを読んで、SNSに感想書こう。あ~、めちゃくちゃ疲れたけど、ちょっと元気出た!


 もうすぐ自宅のアパートが見えるという所で、いきなり地面が光った。

 びっくりして足元を見ると、ゲームで見る様な魔法陣が、自分の脚の下で光っている。

「え? 何これ、誰かのいたずら?」

 周りを見ても誰も居ない。それどころか、つま先からずぶずぶと魔法陣に飲み込まれていく。

 いたずらでこんな事できるわけない。というか、自然現象ですらない。

「もしかしてホントに魔法? このまま異世界に召喚されるヤツ?」

 アニメやゲームによくあるけど、現実でそんなコト起こる訳ないじゃない! そんなバカな……と、現実逃避してる間に身体はどんどんと魔法陣に飲み込まれていく。

 なんでもいいからとにかく掴まる物を見つけようと周りを見回すが、手に届く所に電柱もガードレールもない。そうこうしてるうちに胸の下まで身体が飲み込まれていた。

 せめてこれだけはと、肩に掛けた通勤カバンのベルトを握りしめ、ぎゅっと目を閉じた。


――トプン。


 頭まで魔法陣に飲み込まれると、ふわりと温かい風が身体を包みこむ。

 恐る恐る目を開くと、大小たくさんの柔らかい光の玉と、その光の衣を纏った綺麗な女性がいた。

『はじめまして。次の聖女まりな』

 女性はにこりと微笑み、口を閉じたままそう言った。彼女の声は耳から聞こえた、というより頭に直接響いてきた。そしてどう考えても初対面なのにわたしの名前を知っている。ていうか、今この人わたしのこと『聖女』って呼ばなかった?

『そうです、遠藤まりなさん。あなたはこれから私の世界の次の聖女として迎えられます』

「……はい?」

 目の前のぺかぺか光って、ぽえぽえした表情のふわっふわの彼女は今なんて言った?

「聞き間違えならいいんですが、今、わたしが次の聖女に選ばれたとか言いませんでした?」

『言いましたよ。世界を統べる女神ソフィアが言うのですから、間違いないです。あ、でもあなたを呼んだのは信徒であるディオクレスですから。私は世界を渡る前に貴方に祝福を与えるために来ただけなので』

 混乱している所に、一度に色々言わないで欲しい。情報が……、情報が多い! 状況が全然整理できないんですけど!

『女神の祝福と加護を。そして世界の均衡をもたらす力をあなたに』

 手を合わせた女神に応えるように、わたしの頭の真上に真っ白の大きな花が咲いて、そこから光が振り注ぐ。

『聖女まりな。あなたの感じるままに進みなさい。私の愛する世界、アルブレアをよろしく』

「え? ちょ、何言ってんの! 一人で納得して一人で勝手に始めないでよ! あと今アルブレアって言わなかった?」

 急に足元がおぼつかなくなり、身体が落ちていく感じがする。こちらに手を振る女神が遠ざかり、どんどん小さくなる。何がどうなってるのか分からないまま、また別の所へ連れていかれるらしい。

(ああ、せめて次はもうちょっと、こっちの話を聞いてくれる人のいる所に行けますように……)

 身体を落ちるに身を任せ、そっと目を閉じる。次に目を開く時は、誰かわたしの理不尽な境遇に一人くらいは同情してくれる人がいますように。

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