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攻略対象①アナスタシア!可愛い妹はやっぱり最高です!

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チュンチュン。

窓の外で小鳥が鳴く声がする。
夜が明けてまだ外はぼんやりと霞がかっている。

貫徹してしまった・・・。

ゲームしながら二日の徹夜くらい何でもないけど、子どもの身体で徹夜は結構ツラい。
でも、徹夜をしたことで子どもの頃ドリゼラの記憶と梨蘭わたしの記憶を情報整理して、状況を把握できたし結果オーライと言うことで!
まず、整理したことをノートに書き出して簡単にだけど対策も出してみた。


①シンデレラの世界に転生して「ドリゼラ」と「槌瀬つちせ梨蘭りら」両方の記憶がある。
【対策】梨蘭わたしの記憶を利用してどうにかいじめを止める!!

②母親の「トレメイン婦人」はエラの父親と再婚したばかりだが、エラいじめはすでに軽く始まっている。
【対策】トレメイン婦人がエラをいじめるのは嫉妬。嫉妬の原因を取り除けば優しくなる?

③姉のドリゼラ…つまり私は、見た目が平凡(といっても中の上はあると思う)のため、母は妹ばかり可愛いいと連呼していて性格が歪みかけている。甘やかされてはいるものの何かあれば母の愚痴を聞く相手になっている。愚痴聞きが嫌で勉強にのめり込んでいるようだ。
【対策】引き続き勉強をしつつ、母の愚痴が始まったら流しながら上手く心を懐柔する!

④妹のアナスタシアは、可愛い見た目で素敵な旦那様に見初められるから勉強なんてしなくても良いと母親に洗脳されていて、あまり勉強をせず遊んでばかりいる。
【対策】母親の洗脳を解く!可愛いから勉強しなくていいわけない!ある程度の知識を身に付けるよう教育あるのみ!

⑤父親は商人で裕福。放任主義だが病死した母親にそっくりなエラを溺愛している。
【対策】とにかく事故で亡くなってしまうと破産するので、死亡フラグ回避を最優先。もし、死亡フラグ回避が出来なかった時のために家計は私が握る!!!

⑥エラいじめが始まっているため、あまりエラとの交流はない。
【対策】とにかくトレメイン婦人とアナスタシアの性格を改善させながら、エラとは仲良くなる。天使の笑顔でお姉さまって呼ばれたい!!

いけない、最期には願望が駄々洩れしてしまってる。
なんだか目がショボショボする。ぼんやりとした頭のままベッドに倒れ込む。
まずは、アナスタシアをお母さまから引き離して「毒の言葉」から出来るだけ遠ざけなければ。どうしたらいいかしら。
私は10歳を過ぎたくらいだと思うけど、アナスタシアも学校へは通える年齢だし。
エラも一緒に学校へ通えないかお義父とう様に聞いてみようかしら。
だめだ、眠い。

一気にやってきた眠気には勝てず、そのまま眠ってしまった。


「ドリゼラ、大丈夫かい?」


優しい声で目を覚ますと、もうお昼前の時間となっていた。
義父とう様が心配そうな顔で私を見ている。


「はい、お義父とう様。よく眠ったので頭の痛みも取れました。もう大丈夫です。」


身体を起こしながら答えると、義父ちちおやは笑顔でドリゼラを抱きしめる。

いや、だからこれすっごい照れる!!!

顔が赤くなるのを感じながら、せっかく二人きりなので計画を遂行することにする。


「お義父とう様。お願いがあるのですが。」

「なんだい?また何か欲しい本でもあるのかい?ドリゼラは勉強熱心だから。それとも美味しいスコーンのお店にまた連れて行って欲しいのかな?」


ほんの数か月一緒に住んだだけで、連れ子が何が好きで何を喜ぶのかをこの人は把握しているのか。さすが良い男イケメンは見る目が違う!・・・って、そうじゃない!
照れてる場合か、私!


「違います、お義父とう様。私とナーシャとエラで学校に通いたいのです。今の時代、女性もある程度の教養は必要ですもの。私はともかくナーシャとエラは美しい娘になります。見初められれば貴族に嫁ぐこともあるでしょう。今のうちにしっかり勉強しておかなくては。」


義父ぎふは昨夜以上に目を丸くして絶句している。
ドリゼラは元からこんなことを言う子どもではないものね。急に変わってごめんなさい。
私が真剣な目でまっすぐお義父とう様を見ると、お義父とう様は私の思いを受け取ってくれたようで、


「わかったよ、ママにも聞いてみようね。」


そう言って、やさしくたんこぶが出来ていないほうの頭を撫でてくれた。
危うく「惚れてまうやろ~!」と叫ぶところだったのは内緒だ。

義父ちちおやが部屋を出ていくと、私は早速ネグリジェから服を着替えて1階にあるリビングへ顔を出す。
そこにはトレメイン婦人おかあさまと妹のアナスタシアがべったりくっついてソファーに座り、お菓子を食べていた。


「ああ、可愛い私のナーシャ。天使のように美しいナーシャ。あなたはこのまま美味しい物や綺麗な物に囲まれて美しく育って頂戴。」


ああ「負の言葉マインドコントロール」がしっかり刻まれている。アナスタシアも既に自分は可愛いと分かっているので、家族以外の他者への態度はかなり横柄だ。
確かに可愛いは正義だけど、それって頭のいい人が小悪魔的に自分の容姿を武器にするからいいのであって、ただのおバカさんが高慢ちきに私は可愛いと言ってもちっとも可愛くない。


「あ、お姉ちゃま。」


私を見つけると、アナスタシアが寄ってくる。
シンデレラのお話でも、お互いけん制し合っていても姉妹の仲は良かった。
きっと母親の毒話マインドコントロールが原因で人を信用できない子に育ってしまったから、姉妹すら信用できなくなってしまったのだろう。
そんなの悲しすぎる。
梨蘭わたし姉妹きょうだいはいないけど、せっかくできた妹二人は大切にしたい。


「ナーシャ。こっちにいらっしゃい。気持ちがいいお天気だしお外を少し散歩しましょう。」


トレメイン婦人とアナスタシアがギョッとした顔をしている。
ドリゼラは本を読んでいることが多く家に籠りがちで、陽の下に自分から行こうなどと言ったことがない。
むしろいつもなら外に行くときは嫌そうな顔をする。
だが、昨夜にドリゼラの異変を再婚相手だんなさまから聞かされていたトレメイン婦人は、慌てて表情を笑顔に戻した。


「そ、そうね。気分転換に少し外出してきなさいな。ただし、お屋敷の敷地から出るんじゃありませんよ。危ないですからね。それからあと2時間ほどで昼食ですから、ご飯までにちゃんと戻ってくるんですよ。」


ドリゼラは一体どうしてしまったのだろう?という表情がちらちらと顔を出しつつも、元々甘やかし体質のため笑顔で二人を送り出した。

私はアナスタシアを連れてトレメイン邸の裏庭を通り過ぎ、森を抜けて(途中でグズるアナスタシアをなだめながら)その先にある草原までたどり着いた。
ドリゼラの記憶では地図で見ていただけだったけど、ちゃんと草原があって良かった!
それに季節も良く、色とりどりの花が咲いていてとても綺麗だ。


「わあ!お姉ちゃま、凄くキレイ!」


沢山歩いて機嫌の悪かったアナスタシアも、綺麗な草花を見て笑顔を取り戻したようだ。
出かける時に持ってきたシートを良さそうな場所に敷いて腰を下ろす。


「ナーシャ、こちらにいらっしゃい!」


姉のすることをじっと見ていたアナスタシアは、大好きな姉に呼ばれて嬉しくて胸に飛び込んでくる。
ちょ、超絶かわいい・・・妹って思ってた以上の破壊力だわ。

思わずヨダレが出かかったのを慌てて止めて、アナスタシアの頭を撫でながらゆっくり話す。
アナスタシアは年齢の割に幼く、このままではお話シンデレラの通り見た目だけのおバカな娘に育ってしまう。
そんなもったいないことをしていいの?いや、美人は聡明であるべきよ!
自分の価値観を押し付けていいわけじゃないけど、やっぱり知識はあった方が絶対にいい。
アナスタシアは優しい子だから、お母さまの毒からは遠ざけなければ。


「ナーシャ、ナーシャは姉さまの事が好き?」

「うん!だいだいだーーーいすき!」


そう答える妹の笑顔が眩しい。


「ありがとう、姉さまもナーシャが大好きよ!姉さまと二人だけの秘密のお約束、しない?」

「ひみつのおやくそく・・・?」

「そう。お母さまにもお義父とう様にもナイショの二人だけの秘密。絶対誰にも言ってはいけないの。言ってしまったら姉さまはナーシャのこと、嫌いになってしまうかも。」

「やだやだ、お姉ちゃまがナーシャを嫌いになるなんて絶対やだ!ナーシャお約束できるよ!」


よほど姉に嫌われたくないのか、目にうっすら涙をためて懇願してくるアナスタシアの顔は・・・何ていうかこれも悪くない。変な性癖に目覚めそうな破壊力がある。
またうっかりよだれをたらしそうになって、慌てて口を閉じる。


「そう、お約束を守れるナーシャのこと大好きよ!」

「やったー!」


嬉しそうに笑う妹の笑顔にやられながら、続ける。


「ひとつ。お母さまが毒の言葉いやなこと・・・そうね、お義父とう様やエラの悪いところを話しだしたら、聞かないように耳をふさぐか、遊ぶふりをしてお部屋に戻ること。できる?」

「うん!出来る!悪いことを言うお母さまは嫌い。でもやめてくれなくてナーシャも言いたくないのに、たまにすごく嫌なことを言ってしまうことがあるもん。本当は聞きたくないからできるよ。」


まだ小さいのに、きちんと悪口がダメなことと分かっている様子のアナスタシアを思わず抱きしめる。
毒の言葉を吐く親が子に与える影響って、本当に残酷だ。


「大丈夫よ、これからは姉さまがお母さまの毒の言葉わるぐちからナーシャを守るね。だからもし姉さまが居ない時でも、お母さまが毒の言葉わるぐちを言い出したら逃げるのよ。わかった?」

「うん!お姉ちゃま大好き!」


ギュッと抱きしめ返してくる妹の様子を見るに、相当辛かったのだろうことが想像できる。
妹の頭を撫でながら続ける。


「ふたつ。きちんとお勉強をすること。姉さまほど沢山しなくてもいいけれど、ちゃんと人並みにお勉強はできたほうが良いわ。私たちは将来、どんな家にお嫁に行くか分からない。そんな時に可愛さだけで何とかなることはないの。わかる?」

「でも、お母さまは可愛い顔の子はお勉強はしなくてもいいって。」

「いいえ。お勉強は見た目は関係なく小さなころからしておいた方がいいわ。マナーも教養も姉さまと一緒に頑張れるかしら?」

「うん!お姉ちゃまと一緒なら頑張れる!ナーシャちょっとご本読んでみたいもの。絵本の素敵な絵の横に沢山の字が並んでて、読めたらきっと素敵なの!」

「そう、ナーシャはご本を読みたいのね。姉さまが教えてあげるわ。じゃあ、みっつめのお約束。エラを大切にすること。姉さまと同じくらいエラのことも大切な姉妹として認めてあげてほしいの。できる?」

「うん!できる!本当はナーシャ、エラと遊びたかったの!だってエラってとっても綺麗でしょ?お人形みたい!!でも、お母さまがダメだって。お姉ちゃまとナーシャとエラの三人で一緒に遊びたい!」


ぱあっと晴れた妹の笑顔が本当に眩しい。言いたいことも言えずにアナスタシア自身も随分我慢をしていたようだ。約束を忘れないよう、小指を立てて誓いの儀式を行う。
まあ、指切りげんまんなんだけど。この世界にはそういうのなさそうだから。


「指と指の誓いをしたら、絶対に破ってはだめよ。ではお約束を」


二人だけの秘密の儀式をしたことで、アナスタシアはとても満足気だ。
その後、心地よい風が吹く草原の中で持ってきた絵本を開き少しだけ文字の勉強をして、お腹が空いてきたので家へと戻ることにした。

これで、アナスタシアはこれ以上性格が歪むことがないと思う。
親の影響って本当に恐ろしいのね。ドリゼラの記憶を探るとドリゼラ自身もかなり自己肯定感が低くて、劣等感の塊のように思っているところがある。
それは「おまえは顔が可愛くない」と、見た目のことを母親にずっと言われ続けてきたからだ。
子どもの時に否定されたことは、一生ついて回る。正直、今後この感情に振り回されないという自信がないくらいには根深いもののように思う。

きつい言い方をする人との接し方のひとつに「距離感を調整する」というのがある。
とにかく、妹アナスタシアを救うためには母親と距離を取らせることだ。その約束が出来て、一歩前進できたことは誇らしい。

それ以上に、アナスタシアの笑顔は天使みたいにすごく素敵でとびっきり可愛くて、今後ヨダレを我慢する生活が待っているのは必至だ。
アナスタシアは繋いだ手を元気よく降って、全開の笑顔で私を見てくる。


口元の閉まりを良くするために表情筋、しっかり鍛えよう。
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