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ゲーム終盤
情報過多で引きこもれない!②
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あまりの悪口にちょっと涙目になった私を見て、力が抜けたのか少年はあっさり口を割った。
「マリーを助ける為に、どんな状態でも回復出来るって言う『クロエ』という女が必要だったんだ。オレたちみたいな人間にお貴族様の区別なんてつかないから、方々聞いて回って回復魔法を持っているって言う金髪女を襲ったんだ。でもまさか、人違いだなんて……」
急に少年の目が潤み、みるみるうちに大粒の涙がこぼれはじめた。
私は正直ぎょっとした。子どもを泣かせるなんて不本意すぎるし、何より人を泣かせるほどの迫力は無いはず……うん、ないハズなの!
「あの……ネール? 急に泣かれましても、こちらには事情はわかりませんわ。お話、できます?」
できるだけ優しく、男の子に接する。
「……ぅくっ、まさかクロエという女が……ひっく、こんなゴリラ女だなんて……ひっく、思わないじゃんかー。身分に関係なく回復魔法を使ってくれるなんて、優しくて天使みたいな人だって思うじゃん……かぁ……ひっく」
待って、私のダメージが大きい。これ以上聞くの辛い。けれど、ネールは言葉を止めないし選ばない。お願いだからちょっとは気を使ってほしい。こっちが泣きたい。
「ひっく……アニキどうなるのー? アニキがいなきゃ……でも回復できる女が居なきゃ……ひっく、マリーが……マリーどうなっちゃうの? この赤毛のゴリラ女に殺されるんだ、オレもアニキもマリーも……! うあああああああん!」
とうとうネールはギャン泣きしてしまった。悪口に傷つきながらも私はネールの拘束を解き、その場で泣き崩れる少年を抱きしめて、よしよしと背中を撫でた。ぐしょぐしょの顔を屋内に置いてあったタオルで拭き、落ち着くのを待ってもう一度優しく聞く。
「私は人を殺したりしませんわ。自慢ではありませんが、私は人を助ける事が趣味みたいなものですわよ? もう一度伺います。マリーとは誰ですか?」
「マリーはオレのねーちゃん……。病気で……この前隣国の貴族のお抱え薬師から薬を買ったけど、バカ高かったのにインチキだったんだ。アニキはそれに激怒して、回復魔法が使える貴族をさらおうって計画して」
「だから、アメリアをさらったのね?」
「うん、噂でどっかのスラム街のぼろアパートに住んでた男を、すっごい回復魔法で癒した聖女が居るって聞いて。名前がクロエということと、貴族としか噂では分からなくて。きっと天使みたいなんだろうって。色んなところで話を聞いて、行きついたのがあの美少女……でも違ったんだよね?」
どうやら、ガイウスを癒したあのアパートの住人から噂が出たみたい。聖女って話はきっと噂にいっぱい尾ひれがついたんだろうけど……噂の人物は間違いなく私だ。
「そうね。その噂の人物ということなら、間違いなく私ですわ。アメリアは確かに完璧美少女です。見た目も天使だし、回復魔法を使います。ですが、スラム街で男を回復させたのは間違いなく私ですわ」
あの時、私もアメリアにすがろうとした。だから、小さな可能性を信じるこの子を責めることは出来ない。けれど誘拐は……しかも貴族を誘拐したのだから重い罰は下るだろう。
ただ、今は不安で押しつぶされそうな顔をしたネールを放っておくことはできない。
「わかりましたわ。あなたのお姉さんを看ましょう。ただ、私は医師でも薬師でもないので、その病気が魔法で解決できるかは分かりません。それでも、よろしくて?」
「本当に!?」
ネールの表情が一気に明るくなる。私が頷くと、こっちに来て!とさっきの部屋の隣、もう一人誰かが居ると私が感じた部屋へと連れ出された。
「姉ちゃん。治してもらえるかもしれないって! ねえ、ゴリ……ううん、クロエお姉さん。治せる?」
あれ? 今、言い直す前にゴリって言った? 気のせいですか? そうですか。
気を取り直して……目の前のマリーという女性は、意識があるようには見えない。明らかに浅い息、時折苦しいのか絞り出すように小さな声で唸っている。
『ウエンディ、私の持っている魔法で治せそう?』
『ハイ、クロエ様。彼女の身体中に悪性魔素の反応があります。恐らくは何かの毒素を取り込んでしまった事で、ゆっくり身体全体に広がってしまったのではないかと』
『悪性魔素……そんなものがあるのね? 取り除けそう?』
『浄化魔法で魔素を浄化したうえで、いつも通りの体力回復魔法を使えば可能でしょう』
『浄化魔法か……ウエンディ、前みたいに詠唱の補佐をお願いできる?』
『お任せください』
やだ、ウエンディったら頼もしい。ウエンディをこの場に出したいので、ネールは部屋の外で待ってもらわないといけない。
「魔法に集中したいから、お部屋には私とマリーさんだけにしてくれるかしら」
大きく頷いたネールは、素早く部屋を出るとそのままドアを閉めた。信じてくれた少年のためにも、やるしかない。
ウエンディが液晶に出してくれた呪文を頭の中で詠唱する。マリー全体を囲むように魔法円が描かれたのを確認し、最後に発動呪文を唱える。
「浄化」
魔法陣がゆっくりとマリーの身体に落ちてくる。そのまま半分ほどを通過したあたりで閃光が放たれ、小さく「ジュワジュワ」と何かが蒸発したような音がして光は消えた。
『クロエ様、おめでとうございます。成功しました』
『やった! じゃあ、あとはいつも通りの回復魔法をかければ……』
回復魔法をかけると、今まで苦しそうだった息があきらかに整ったので、ネールを部屋に呼び込む。マリーの穏やかな顔を見て、心の底から安心したみたいで笑顔を見せてくれた。
「クロエお姉さん、ありがとう! さっきはゴリラとか悪魔とか言ってごめんなさい。天使は見た目じゃなかったんだね!」
「う、うふふ、うふふふふふふ」
『笑い方が気持ち悪いです、クロエ様』
そんなこと言ってもね、ウエンディ。今まで赤毛ゴリラ以外の単語を発していらっしゃらなかったじゃない? この少年。それなのに、今! はじめて「悪魔」とか「見た目じゃない」って自尊心を傷つけられる言葉が矢継ぎ早に出てきて……流石に凹むよ?
クロエは悪役顔だけど、すっごい美人でしょーよ!?
顔で笑って心で泣いて、忙しい。そんな情緒の中、次に出てきたネールの言葉に私は耳を疑った。
「あ、そう言えば。金髪のお姉ちゃんと一緒に、ピンクの髪のお姉ちゃんが連れて来られたんだよね。あの人凄く美形だったけど、男だったんだって。聖女じゃないからってどっかに連れていかれたんだよ、アニキに」
「え?」
「それで抵抗したからアニキが気絶させて、それを見た金髪のお姉ちゃんが暴れてさ。大変だったんだよ、剣を奪おうとするからさ。こっちも抵抗したらその反動で男の人の髪がバッサリ切れちゃうし、金髪お姉ちゃんの頭に柄が当たって流血するし気絶するしで」
「な、なんですって? まさか他にも誘拐犯がいるの?」
「ううん、オレらの人数はマリーを入れて五人だけ。アニキすぐ帰ってきたから、湖に沈めたか森の少し奥の洞窟に置いてきたんだと思うけど……」
なんですって? きっと一緒に居たって言うピンク髪の美少女……いや、美青年は間違いなくハル。
髪を切った? 湖に沈めた?
あまりにも情報が過多すぎてパニックが止まらない。
実はハル、超ピンチなのでは!!?
「マリーを助ける為に、どんな状態でも回復出来るって言う『クロエ』という女が必要だったんだ。オレたちみたいな人間にお貴族様の区別なんてつかないから、方々聞いて回って回復魔法を持っているって言う金髪女を襲ったんだ。でもまさか、人違いだなんて……」
急に少年の目が潤み、みるみるうちに大粒の涙がこぼれはじめた。
私は正直ぎょっとした。子どもを泣かせるなんて不本意すぎるし、何より人を泣かせるほどの迫力は無いはず……うん、ないハズなの!
「あの……ネール? 急に泣かれましても、こちらには事情はわかりませんわ。お話、できます?」
できるだけ優しく、男の子に接する。
「……ぅくっ、まさかクロエという女が……ひっく、こんなゴリラ女だなんて……ひっく、思わないじゃんかー。身分に関係なく回復魔法を使ってくれるなんて、優しくて天使みたいな人だって思うじゃん……かぁ……ひっく」
待って、私のダメージが大きい。これ以上聞くの辛い。けれど、ネールは言葉を止めないし選ばない。お願いだからちょっとは気を使ってほしい。こっちが泣きたい。
「ひっく……アニキどうなるのー? アニキがいなきゃ……でも回復できる女が居なきゃ……ひっく、マリーが……マリーどうなっちゃうの? この赤毛のゴリラ女に殺されるんだ、オレもアニキもマリーも……! うあああああああん!」
とうとうネールはギャン泣きしてしまった。悪口に傷つきながらも私はネールの拘束を解き、その場で泣き崩れる少年を抱きしめて、よしよしと背中を撫でた。ぐしょぐしょの顔を屋内に置いてあったタオルで拭き、落ち着くのを待ってもう一度優しく聞く。
「私は人を殺したりしませんわ。自慢ではありませんが、私は人を助ける事が趣味みたいなものですわよ? もう一度伺います。マリーとは誰ですか?」
「マリーはオレのねーちゃん……。病気で……この前隣国の貴族のお抱え薬師から薬を買ったけど、バカ高かったのにインチキだったんだ。アニキはそれに激怒して、回復魔法が使える貴族をさらおうって計画して」
「だから、アメリアをさらったのね?」
「うん、噂でどっかのスラム街のぼろアパートに住んでた男を、すっごい回復魔法で癒した聖女が居るって聞いて。名前がクロエということと、貴族としか噂では分からなくて。きっと天使みたいなんだろうって。色んなところで話を聞いて、行きついたのがあの美少女……でも違ったんだよね?」
どうやら、ガイウスを癒したあのアパートの住人から噂が出たみたい。聖女って話はきっと噂にいっぱい尾ひれがついたんだろうけど……噂の人物は間違いなく私だ。
「そうね。その噂の人物ということなら、間違いなく私ですわ。アメリアは確かに完璧美少女です。見た目も天使だし、回復魔法を使います。ですが、スラム街で男を回復させたのは間違いなく私ですわ」
あの時、私もアメリアにすがろうとした。だから、小さな可能性を信じるこの子を責めることは出来ない。けれど誘拐は……しかも貴族を誘拐したのだから重い罰は下るだろう。
ただ、今は不安で押しつぶされそうな顔をしたネールを放っておくことはできない。
「わかりましたわ。あなたのお姉さんを看ましょう。ただ、私は医師でも薬師でもないので、その病気が魔法で解決できるかは分かりません。それでも、よろしくて?」
「本当に!?」
ネールの表情が一気に明るくなる。私が頷くと、こっちに来て!とさっきの部屋の隣、もう一人誰かが居ると私が感じた部屋へと連れ出された。
「姉ちゃん。治してもらえるかもしれないって! ねえ、ゴリ……ううん、クロエお姉さん。治せる?」
あれ? 今、言い直す前にゴリって言った? 気のせいですか? そうですか。
気を取り直して……目の前のマリーという女性は、意識があるようには見えない。明らかに浅い息、時折苦しいのか絞り出すように小さな声で唸っている。
『ウエンディ、私の持っている魔法で治せそう?』
『ハイ、クロエ様。彼女の身体中に悪性魔素の反応があります。恐らくは何かの毒素を取り込んでしまった事で、ゆっくり身体全体に広がってしまったのではないかと』
『悪性魔素……そんなものがあるのね? 取り除けそう?』
『浄化魔法で魔素を浄化したうえで、いつも通りの体力回復魔法を使えば可能でしょう』
『浄化魔法か……ウエンディ、前みたいに詠唱の補佐をお願いできる?』
『お任せください』
やだ、ウエンディったら頼もしい。ウエンディをこの場に出したいので、ネールは部屋の外で待ってもらわないといけない。
「魔法に集中したいから、お部屋には私とマリーさんだけにしてくれるかしら」
大きく頷いたネールは、素早く部屋を出るとそのままドアを閉めた。信じてくれた少年のためにも、やるしかない。
ウエンディが液晶に出してくれた呪文を頭の中で詠唱する。マリー全体を囲むように魔法円が描かれたのを確認し、最後に発動呪文を唱える。
「浄化」
魔法陣がゆっくりとマリーの身体に落ちてくる。そのまま半分ほどを通過したあたりで閃光が放たれ、小さく「ジュワジュワ」と何かが蒸発したような音がして光は消えた。
『クロエ様、おめでとうございます。成功しました』
『やった! じゃあ、あとはいつも通りの回復魔法をかければ……』
回復魔法をかけると、今まで苦しそうだった息があきらかに整ったので、ネールを部屋に呼び込む。マリーの穏やかな顔を見て、心の底から安心したみたいで笑顔を見せてくれた。
「クロエお姉さん、ありがとう! さっきはゴリラとか悪魔とか言ってごめんなさい。天使は見た目じゃなかったんだね!」
「う、うふふ、うふふふふふふ」
『笑い方が気持ち悪いです、クロエ様』
そんなこと言ってもね、ウエンディ。今まで赤毛ゴリラ以外の単語を発していらっしゃらなかったじゃない? この少年。それなのに、今! はじめて「悪魔」とか「見た目じゃない」って自尊心を傷つけられる言葉が矢継ぎ早に出てきて……流石に凹むよ?
クロエは悪役顔だけど、すっごい美人でしょーよ!?
顔で笑って心で泣いて、忙しい。そんな情緒の中、次に出てきたネールの言葉に私は耳を疑った。
「あ、そう言えば。金髪のお姉ちゃんと一緒に、ピンクの髪のお姉ちゃんが連れて来られたんだよね。あの人凄く美形だったけど、男だったんだって。聖女じゃないからってどっかに連れていかれたんだよ、アニキに」
「え?」
「それで抵抗したからアニキが気絶させて、それを見た金髪のお姉ちゃんが暴れてさ。大変だったんだよ、剣を奪おうとするからさ。こっちも抵抗したらその反動で男の人の髪がバッサリ切れちゃうし、金髪お姉ちゃんの頭に柄が当たって流血するし気絶するしで」
「な、なんですって? まさか他にも誘拐犯がいるの?」
「ううん、オレらの人数はマリーを入れて五人だけ。アニキすぐ帰ってきたから、湖に沈めたか森の少し奥の洞窟に置いてきたんだと思うけど……」
なんですって? きっと一緒に居たって言うピンク髪の美少女……いや、美青年は間違いなくハル。
髪を切った? 湖に沈めた?
あまりにも情報が過多すぎてパニックが止まらない。
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