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ゲーム終盤

まさかの展開で引きこもれない!

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『クロエ様、大丈夫でございますか』

「もう無理。どこかで休ませて? ちょっとでいいから」


 たった半日、時間にして四時間に満たないくらい。たったこれだけの時間で、私のヒットポイントはゼロに近くなっていた。


『ヒットポイントは1ポイントも減っていません。気のせいでございます』


 飄々と言ってのけるウエンディに「ものの例えでしょ」と一応ツッコミを入れ、本当にスチル耐性が上がっているのだろうかと思ってしまう。だって、目に見えてダメージを受けてるのだから。


『スチル耐性のおかげで、今はスチルやイベントが発生しても倒れられることはございません』


 勝手に私の思考を読んで、ウエンディが返答してくる。なるほど、確かに昔なら倒れていた……って、出来ればあまりドキドキしない身体になってほしいんだけど。

 一旦呼吸を整えて、広場のある通りまでもう一度歩いて移動する。ちらっとギルドの方を見てみたけど、もうジーンはギルドの前には居なかった。そりゃそうよね。

 どうするかを考える前に、少し小腹も空いたし飲食エリアで休憩することにした。
 日当たりの良いテラスのあるお店で、軽めのランチを取りながらウエンディに「誰がどこにいるか分かるMAP」を出してもらい、計画を練る。

 ハルは相変わらず見当たらない。そして、アメリアも地図上に表示されていない。もしかしたら二人はデートをしていたりして?なんてニヤニヤしながら地図を眺めていると、明るいオレンジの光が私の居るテラスに近付いてきた。

 これは……シモンのカラー!?

 慌ててあたりを見渡すと、詰所方面に向かって歩く騎士の一団の中にシモンが居るのが見えた。多分、今日のランチを食べ終えて詰所に戻るところなんだと思う。私も早くランチを食べてシモンに招待状を渡さなきゃと、急いでドリンクを飲み干したところだった。
 漫画だったら「バチィ」って擬音が鳴ると思うくらいに、シモンと目が合った。
 危うくドリンクを吹き出しそうになり、慌ててハンカチで口元を抑えて堪えたんだけど、バレてないよね?
 シモンは優しく微笑んで会釈をしてくれた。ちょっとはしたない・・・・・ところを見られてしまって、穴があったら入りたい。

 あれ? シモンが近づいてきているように見える……?

 気のせいじゃなく、シモンが騎士の一団から抜けて私の方へ歩いてくる。なんで?
 状況がつかめないまま、むせそうな状態を必死で抑えて何事もなかったかのように体裁を整える。


「クロエ様、こんにちは。お食事中お声がけして申し訳ありません」

「いえ、偶然ですわね。シモン様はお食事はもうお済みでしょうか?」


 にっこり笑顔で答えると、シモンも柔らかな笑顔で応えてくれる。シモンは、一緒に居るだけでハルとはまた違った穏やかな気持ちになるなぁと、心の中でほっこりする。


「はい、食事を済ませて今から詰所に戻るところでした。先日のゼリーの効能がまとまっておりますので、このあとお時間がございましたらお渡ししたいと思うのですが……本日のご予定はいかがでしょうか?
 本来ならお手紙などで確認を取るべきなのですが、クロエ様のお姿を拝見したもので直接伺いに……いえ、よく考えたらレディに対し直接予定を伺うなど不躾でした」

「ふふ、シモン様。そんな遠慮なさらないでください。もう少ししたらランチも済みますし、シモン様のお時間さえよろしければご一緒してもよろしいかしら?」


 残すところデザートだけだったし、一緒に行けば手続きも面倒じゃないかなって、軽い気持ちで聞いたら二つ返事でOKを貰えたので数分ほど待ってもらう事になった……のだけど、私を警護するように立つ大柄なシモンの姿は、テラス席では結構目立つ。


「あの、シモン様? 出来ましたらこちらに座っていただけますか? その、待っていただくのに申し訳ありませんし、少々目立ちますので……」


 周囲の視線──シモンのイケメンっぷりに見とれたレディの皆さんのものだけど──が痛いので、私のテーブルで空いた席を指して座ってもらう事にした。シモンはこういう場で座ることに難色を示すタイプかと思ったけど、案外すんなり座ってくれてホッとする。
 女性が多いお店だったから、本人もちょっと照れるところがあったんだと思う。私の目の前の席に座ってからも、落ち着かないといった様子のシモンを眺めながら食べるデザートは絶品で、あと三回くらいお代わりしたくなる。
 しばらく眺めたいから、意地悪してお上品にゆっくりデザートを食べたことは秘密にしておこう。

 ランチを食べ終えて騎士団の詰所まで来たのだけど、やっぱりシモンと一緒という効果は絶大で、手続きなくすんなり執務室まで来ることが出来た。
 シモンの執務室は二度目だけど、仕事部屋というのは心なしかソワソワする。本棚に並べてある本に何があるか……なんて眺めていたら、シモンが結構な分厚さの書類の束を渡してきた。


「クロエ様、まとめた資料はこちらになります。団員の感想なども併せて記入してありますのでぜひ拝読いただきたいです。彼らも随分とクロエ様に感謝をしておりました」

「感謝なんて、とんでもありませんわ。私はただシモン様に料理をお教えしただけで……それをアレンジされたのは誰でもないシモン様ですわ」

「クロエ様がいらっしゃらなければ、病や熱で物を食べにくい兵士たちの栄養補給について、飛躍的に改善はしなかったでしょう。スープではむせてしまう者も、ゼリーは液体より飲み込みやすいとの報告が上がっています。薬なども飲みやすくなったとの声もあります」

「わかりましたわ。皆様のお気持ち、ゆっくり読ませていただきます」

「ありがとうございます。そうしてくださると、団員たちもきっと喜びます」


 私が書類の束をめくり始めた時、慌ただしい足音と共に執務室の扉がノックされ、声がかかる。


「シモン様、ご来客中に失礼致します」

「入れ」


 シモンの許しを得て入ってきた団員には焦りの顔色が浮かんでいた。ちらっと私の顔を見て、話していいかどうか躊躇しているように見える。まあ、私は騎士団ここでは部外者だもんね。


「この方は、大丈夫だ。話せ」

「はい。実はシモン様の支援されている孤児院で火災が発生したそうです。中に何人か閉じ込められたようで……」

「なんだと? クロエ様、お話の途中ですが失礼いたします。その資料は持ち帰っていただいても問題ありませんので……すまんが、この方を頼む」


 私が何も答えられないうちに、シモンは執務室を飛び出していった。後に取り残される形となった私と報告に来た団員とで顔を見合わせる。


「え……と、私は部外者ですし、こちらをお預かりして家に戻った方がよろしいですわね」

「大変申し訳ありません。団長が大変失礼をしました。しかし、団長自らがあの事件以降……心の拠り所として支援していた施設ですので、お許しいただけますか?」

「あの事件?」

「! クロエ様はかなり団長と親しいご様子でしたので、ご存知だと思っていました。今の言葉は忘れていただけますでしょうか。
 今日のところは不躾で申し訳ございませんが、お帰り願えますか?」

「ええ、そう致しますわ」


 あの事件というのは、多分この世を去った婚約者の話だと思う。本人から聞いてはいないけど想像はできる。
 そして、私は今の状況を知っている。アメリアルートのシモンイベントで同じようなストーリーがあったと思う。確か、この火災で大やけどを負ったシモンを癒し魔法で助けるという話だった。

 ……ということは、シモンが危ないということ?

 私は団員の人に門まで見送ってもらうと、そのまま孤児院のある場所へと急いだ。
 現時点で、アメリアはまだシモンと知り合ってすらいないはず。アメリアの話は私の誕生日の後から始まるストーリーだから。どうしてストーリーが早く進んでしまったのか分からないけど……どうか、間に合って!


 引きこもってなんていられない! 私、まだシモンに招待状も渡せていないのだから。
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