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ゲーム終盤

推しが畳み掛けてくるので引きこもりたい!

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『クロエ様、大変頑張られましたね。最初の一人目から人助けイベント攻略、おめでとうございます』

「ウエンディ、ありがとう……でいいのかな? もう、心臓が口から飛び出そう」


 正直、ルカイベントの破壊力が強すぎて、まだ一日は始まったばかりだと言うのに既にドキドキが最高潮すぎてエクトプラズムが口から出かかっている。


『素晴らしい行動力でございました。ワタクシは感動致しました。ホロリ』


 ウエンディがわざとらしく感動した描写を伝えてくる。何だろう、おかげでちょっと盛り上がった気分が落ち着いてエクトプラズムが引っ込んだ。


『では、次のターゲットのシモン様ですが、訓練所を出て現在は飲食街のあたりにいらっしゃるようです』

「仕方ないよね。ルカのイベントでちょっと時間使っちゃったし。今、お昼時だしランチでもされてるのかもしれないね。時間は惜しいし……ハルかジーンのところにでも行こうかな?」

『ハイ、かしこまりました。ハル様はMAPには表示されておりません。ジーン様は現在ギルドにいらっしゃるようです。現在地から一番お近くにいらっしゃるターゲットはジーン様になります』

「ジーンは相変わらずギルドに居るのね。じゃあ、まずはギルドに行こうかな」


 ジーンとは、あの人助けイベントからずっと顔を合わせていないから、様子も気になるし。討伐に出てしまったら招待状を渡せないかもしれないし。

 そんなわけで、魔法局から出て公園の噴水を横切ってギルドを目指す。歩きながら、ジーンと川辺で別れた後のことを振り返ってみる。
 よく考えたら、ジーンってなんだかんだで私の周りをウロチョロしてたのよ。二~三日に一度くらいは必ずどこかで会っていたのに、あれ以降ほとんど見てないのは流石にちょっとおかしい気がする。

 ギルドは魔法局からでも見える場所にあるし、何ならすぐ着いちゃうくらいの距離だ。あれこれ考えて眉間に壮大なしわ・・を作りながら歩いていたら、ギルドの前で目的の人物、ジーンに先に呼び止められてしまった。


「よっ! お嬢さん、久しぶり! そんなに考え込んでると若いうちから眉間にしわが出来ちまうぜ?」


 そう言い切るか切らないか、ジーンは眉間を人差し指で突いてくる。いくら最推しだからって、いきなりおでこツンはダメでしょ! ああ、イケメン。ホント顔が好き。
 
 私の顔が緩んだのが分かったのか、ジーンは百点満点の笑顔で笑いかけてくれる。はあ、顔が良い……っていけない! やるべきことをやらないと。


「お久しぶりですわ、ジーン。最後にお逢いした時は少々元気が無かったようでしたが、もうお元気になられましたの?」

「嬉しいねぇ。俺のこと心配してくれるなんて。お嬢さん、優しいんだな」

「またそんな軽口を言って。でも、それだけお元気そうなら何よりですわ」

「ああ、実はあの後ちょっと調子が悪かったんだけどな? お嬢さんのゼリーを食べたら元気が一瞬で戻っちまった。ゼリーってやつ、あれすごいな!」

「特に何も入れた覚えはないのですけれど……ちょっとアルコールが強かったくらいですわよね?」

「そうそう、白ワインの風味がちょうど良かったんだよな! ありがとな!」

「もう少し味についての感想はありませんの?」

「ははっ」


 笑いながら私の頭をポンポン叩くジーンを横目に、色々心配していたのがバカバカしくなって、自然と笑顔になっていた。


「お! やっと笑顔が見れた♪」


 そんな事を推しに言われたら、顔が赤くなっちゃうじゃない? 不可抗力です、これは決して恋愛のそれじゃありませんからね?
 誰ともなく言い訳をして、本来の目的を果たすためにバッグから封筒を取り出してジーンに差し出す。照れ隠しに高飛車にふるまったけど、そこはもう許して欲しい。


「今週末、私の誕生日パーティーがございますの。もちろん、どんな用事があっても来てくださいますわよね?」


 ジーンは封筒を裏表交互に眺めながら、何かを考え込んでいる。


「……なあ、中身ってここで開けてみてもいいか?」

「ええ、当然ですわ。私の招待状が何か気になりまして?」


 そう言い終わる前に、ジーンは封をはがして二つ折りにされた招待状を開け、まじまじと招待状を凝視している。


「くぅ~! マジか!? これ本物だよな?」

「どうされたんですの?」


 喜んでいるのか何なのか良く分からないジーンの対応に困って、私はどうしたものかと首をかしげた。


「いや~、中にお嬢さんのキスマークでも入ってないかと期待したんだが、入ってないから偽物かと……」

「そんなことするわけありませんわ。招待状を用意しているのは使用人ですから……」


 一瞬、ほんの一瞬だけど、ジーンに頼まれればそれくらいならやぶさかでもないと思ってしまったのだから、顔が好みというのはそれだけで大変危険だと思う。
 にやけそうになった顔を見られたくなくて思わず逸らせたのだけど、ジーンには招待状の真偽を疑った事について責めているように見えたみたい。ちょっと困った顔をしたあと、真面目な顔をしてこう言った。


「すまない……いや、申し訳ない。誠実さに欠けていた。喜んでお伺いします」


 いつも軟派なジーンの真面目顔の破壊力はとんでもないものがある。しかも、フリーズ&花が舞い散るスチルのオマケつきなのは、特典が付きすぎでは??
 誰得って、私が得しますけど何か? あとで舐めるようにスチル確認をするのはこの時点で決定事項だし、異論は認めません!
 

「来て……くださいますの?」


 あまりにもスチルのキメ顔がカッコよくて声が震える私の頭を、ジーンがくしゃくしゃと撫でる。恥ずかしい気持ちと嬉しい気持ちがポーカーフェイスと複雑に絡み合い、すごく微妙な顔になっていたのは……認める。
 

「そんな顔、するなよ? ちゃんと出席させていただきます! 俺に二言はないだろ?」

「子ども扱いしないでくださいませ」


 本当は嬉しいのを隠すために、頭を撫でるジーンの手を払いのけてもう一度念を押す。


「確かに渡しましたわよ? 遅刻したら許しませんわ!」

「おお、いつものお嬢さんが戻ってきたな。来るなって言われても絶対行くぜ? 何せ本人から直接誘われてるんだぞ? 例え嵐になったって行くに決まってる」


 ヘラヘラと笑うジーンに呆れながらも、用事は済みましたとそっけなく言い放ち、その場から退散する。強がるお嬢様を演出できたとは、思う。実際の本音は朝からずっと言っている気もするけど「これ以上心臓が持たない」からだ。
 ジーンの目に入らない位置まで来て、たまらずしゃがみ込む。


「うう、何が起きたの? 今のところ百発百中じゃない……もう無理。私、明日死ぬのかな?」

『大丈夫でございます。今のクロエ様は殺しても死ねません』

「本当は悪役令嬢で、断罪されるかもだけどね? それにLUK不足すればゲームオーバーじゃなかったっけ?」

『LUKはもう減ることはありません。これだけ上昇すれば下げることの方が難しいかと。では次は……』

「ちょっとストーップ!!! ウエンディ、ちょっとだけ休ませて。心臓がキツい」

『おや、推し活と恋愛は違うはずではありませんでしたか……?ニヤニヤ』

「どちらにしろ、ピーカラこのゲームは元々箱推しなんだから、好きな芸能人に囲まれているのと同じなのよ……」


 あまりにも連続して破壊力の高い映像(?)を見てしまい、悶絶必至の私は何とかヨロヨロと立ち上がる。
 もとの部屋だったら、1000%の確率で抱き枕を抱いて転げまわっていると思う。それくらいしんどい。

 推しが畳み掛けてくる……引きこもりライフの為とはいえ、しんどいので家に帰って引きこもりたーーーーーい!
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